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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 -外伝- 勇者来る
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第十話 襲撃



「先日より、要請されていた勇者の街への外出許可だが…………大丈夫か?」

「…………はい。なんとか」


晴れ上がった頬を押さえ、僕は言った。

僕を敵対視しているサテレスにまで心配されてしまった。よっぽどひどく腫れてしまっているのだろう。


「あ~……ゴホンッ。ともかく、この許可証を門番に見せれば通してもらえるはずだ」


そう言って、一枚の紙を折れに渡すサテレス。紙にはサテレスの署名が書かれていた。


「これで用は済んだだろう。さっさと部屋から出て行け。私は忙しいのだ」


語気は敵意丸出しだが、忙しいのは嘘ではなさそうだ。執務室の机の上には、山のような書類が積み重なっている。

僕の外出許可を取るのが三日もかかったのも、嫌がらせではなく本当に忙しかっただけらしい。


「うむ。サテレス殿の嫌味は置いといて、早速街に行くとしよう。妾も準備をしてこなければな」

「ああ、シルフィ様は駄目ですよ。残って下さい」

「むっ? なぜだ!?」

「……あなたはもう少し御自分が王国の姫君である事を自覚して下さい。勇者が現れてからというもの、御自分のお仕事をなさっていないでしょう?」


サテレスの言葉がシルフィを襲った。どうやら、仕事そっちのけで僕の世話をしていてくれたらしい。


「ぐっ、し、しかし妾は陛下よりマモルの世話役を頼まれているのだ。街の案内をするのも……」

「陛下の事をおっしゃるのならば、なおさら行かせる訳には参りません。貴女になにかあれば、母君やお姉様方に申し訳が立ちません」


シルフィの母親や姉達の事を言われると、急にシルフィは黙ってしまった。

そう言えば、シルフィの肩書きはモントゥ王国第三王女だったな……と言うことは最低でも二人の姉がいるはずだ。

シルフィの姉達だけではなく、母親にも会ったことはなかったか……


「大丈夫ですシルフィ様。このゲイルが、勇者殿をお守りしてみせます」


自信満々に言い放ったゲイル。

確かに、ゲイルほどの腕の人間が守ってくれるならこれほど心強いことは無いだろう。

だが、


「いえ、トニトロス公にも残っていただく。今日中に確認してもらいたい書類があるので」

「なっ!? ならばマモルの護衛は誰がするのだ!? マモルに何かあればそれこそ問題だろう!!」


シルフィが怒鳴る。


「一応、勇者には護衛をつけさせます。……おい、入れ」


サテレスが合図をすると、執務室の扉が開き、外から一人の兵士が入ってきた。それも少し見覚えがある人だった。


「……近衛騎士団…………アーク……です」


確か、僕が魔法を使ったときに訓練場にいた兵士だ。

あのときは目をギョロッと大きく見開いて少し不気味だったが、今は半開きの状態で、印象としては少し暗い感じがする僕とさほど歳の変わらないような少年だ。


「彼が勇者の護衛役を務めるアークだ。私の元でも何度か働いた事があるが、なかなか優秀な男だよ」


サテレスが他人をほめるのであれば相当有能な兵士なんだろう。


「えーっと、アーク君で良いかな? 僕はマモルだよろしく」


握手のために手を差し伸べると、コクッと頭を下げ、握手をしてくれた。

第一印象はあまり良いものではなかったが、素直そうないい人のようだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……………………………」

「……………………………」



アーク君の案内で僕は今街に出てきている。

雄一を捜すことが目的なのだが……


「……………………………」

「……………………………」


き、気まずい……



さっきからアーク君が一言もしゃべってくれない。

雄一をどうやって捜すのか、方法を聞きたいのだが…


「あー…あの、アーク君?」

「………………なに?」

「えっと…今日は人を探しにここに来たんだけど、何か良い方法はないかな?」


……………………


……無視か…


「…………それは……勇者様…………知り合い?」

「え? あ、ああ。そうなんだけど……」

「……………………………」

「……………………………」


か、会話が続かない……


『あらあら。会話が続かないわね』


ぐっ! エクスカリバー、言いづらいことをさらっと……


「………………人捜し、ギルドで……やってる……」

「ギルド?」

「…………依頼……出す……………受付……で」


確か、ギルドは様々な依頼を請け負う万屋のような物だったか……人捜しもそこでやってくれるらしい。


「じゃあ、そこに連れて行ってもらえるかな?」

「………………(コクッ)」


無言で頷くと、再び沈黙の行進が続いた。


「……………………………」

「……………………………」


やっぱり気まずいなぁ(泣)

雄一といたときは話題に事欠かなかったのに……


…………良く考えてみれば、雄一を見つけたとしてもどうすれば良いんだろう。

二人で元の世界に戻る方法を考える?

確かに、できるのであれば僕も元の世界に戻りたい。当然だ。

だが、勇者としてこの世界に派遣され、なし崩しであったが勇者としての使命を請け負ってしまった以上、それを投げ出して変えることはできない。もちろん、事が終われば戻る方法も探すべきではあるが……

雄一も一緒に遊撃隊に参加してもらう?

これはまあ、あるかもしれない。

雄一ほどの腕なら確実に戦力になる。シルフィに追い出された事も雄一の性格上、それほどは気にしていないだろう。「別に気にしてねーよ」と、笑って済ませてくれそうだ。

うん……まあでも…………ムリか…



「面倒くさがるだろうからなぁ……」

『あら? なんの話?』


最後の言葉は口に出してしまったらしい。エクスカリバーが尋ねてきた。


「ああ、雄一の事なん……だけど…………あれっ?」


いつの間にか周りには俺とアーク君を除いて人がいなくなっていた。

僕は大通りにいたはずで、そこにはつい先ほどまで大勢の人が行き交っていた。急に誰もいなくなったのはどう考えてもおかしい。


「エクスカリバー、これって……」

『恐らく……人払いの術ね。これほど大規模なのは珍しいけど……』

「…………例の僕を狙っている暗殺者ってやつか……アーク君! 気をつけ…………っ!」


襲撃者が来ると予想し、アーク君に注意を呼びかける。だが、その必要はなかった。

アーク君が僕の方に振り向くと、訓練場で見せたギョロッとした目で俺を見つめ、殺気を放っていた(・・・・・・・・)からだ。


「…………参ったな…僕は気配とかが分かる人間じゃなかったはずだったんだけど……」


アークから放たれている殺気とは別に、周りから大量の視線が僕に注がれているのが分かる。

恐らく数にして四、五十人。

全員が僕に敵意を向けているのは間違いないな……


「アーク君……いや、アーク。これは君がやったことだね?」


エクスカリバーに手をかけ、いつでも抜けるようにしておく。

すると、アークがギョロッとした目を僕に向け、無表情のままつぶやいた


「………………殺せ」


それが合図だったのか、気配だけだった人たちが一斉に姿を現した。

しかも、いつの間にか僕の背後には身の丈が2メートル以上にもなる男が巨大な斧を振り下ろそうとしている。


「むうん!!」


巨漢の男が斧を勢いよく振り下ろした。

斧は土をえぐり、地面に大きな穴を開けていた。しかし、その斧は僕に当たることはない。

エクスカリバーの能力によって極限まで引き上げられた俺のスピードは、斧の軌跡を目で追いつつ、完全に躱していた。今は屋根の上に避難している。

下を見下ろすと、見えるだけでおよそ三十人のフードを被った人たちが僕を見上げていた。


「弓矢隊! 構え!」


間髪入れずに別の男が指示を与える。すぐさま五人の男達が僕に弓を構える。


風は敵を(Ventus)逃さず(desit)射る物(hostis)なり(est a)


指示を出した男が呪文らしき言葉を口にする。

すると、弓矢が一斉に僕に向かって飛んできた。しかもすべての矢が誘導されているかのごとく僕に向かってくる。


「ふっ……!」


恐らく魔法で操作されているのだろうが、動体視力も上がっている僕には関係が無く、すべて剣ではじき落とした。

だが驚いたことに、はじき落とした矢が再び僕を襲った。ほとんどは折れて、矢としての機能が使えない状態にもにもかかわらずだ。

しかも、敵は第二射、第三射と矢を放っている。


「くそ! 灯れ(littera)!!」


しつこい矢に対し、僕が唯一覚えた魔法をかける。本当はこぶし大の火をおこすだけの呪文らしいが、僕の場合消防車が駆けつけるほど大きな炎を生み出した。

結果、矢はことごとくが消し炭となった。

その光景に矢を放った男たちは仰天している。だが、驚く暇は与えない。

鬱陶しい矢が無くなると同時に、弓を構えている男達に剣を振るう。鞘から抜いていないため、打撃技として男達を襲う。


あっという間に五人の暗殺者を倒した僕にためらいつつ、他の者達がさらに襲いかかってくる。


短剣

トレンチナイフと呼ばれる、軍用の珍しい武器等々……

ともかく様々な武器で僕を殺そうとする。一人一人がかなりの手練れであったが、色々な事情で身体能力が上がっている僕はその悉くを躱し、返り討ちにした。


氷弾は(Nulla elit)鉄をも(quam ferro)貫く(penetrare)!」


先ほど矢に魔法をかけた男が再び呪文を唱える。

すると、男の目の前に小石ほどの大きさの氷が漂い、発射された。

先ほどの矢よりも数段速く弾丸のような氷、しかも僕の顔面に正確に突き刺さろうとしていた。

だが、それもギリギリのところであるが、躱すことができた。


「……なっ!?」


まさか避けられると思ってもいなかった男が驚きの表情を浮かべている。

確かに、弾丸を意図的に避けられるとは思わないだろう。元の世界でそんなことをできる人間がいたなら見てみたいものだ。


「はあっ!!」


剣を構え、次は魔法をかけた男を倒そうとするが、その瞬間、僕の首元にナイフが迫ってきていることに気がついた。

僕の死角をを突いた絶妙な攻撃だ。


「うおおおぉ!!?」


とっさに首を横に移動させ躱した。だが、完全に躱せた訳ではなく、僕の頬には一筋の傷ができた。幸い浅い物だったため、痕も残ることは無いだろう。


九死に一生を得た僕は、肩越しに飛び出ている腕を掴み、地面を転がる形で関節技へと持って行った。


「…………ぐっ……!」


地面に押さえつけると、その男は僕を案内してきたアークだった。


「おまえ達は何者だ! なんの目的で……」


ピーーーーーー!!


アークを押さえつけていると、先ほど魔法を使っていた男が指笛を鳴らす。

すると、その瞬間から他の男達が戦闘姿勢を解き、撤退をし始めた。どうやら撤退の合図だったようだ。

しかも、僕が気絶させた男達も抱えての撤退だ。恐らくは情報を僕に与えないようにするためだろうが、あいにく僕は今アークを押さえつけている。情報は彼から聞けばいい。


「さあ、アーク。味方は君を置いて逃げて行ったよ? 何が目的か話してくれないか?」

「………………………」


だんまりか……まあさすがに簡単に情報が手に入るとは思っていなかったけど……


『あらあら、話さないのなら指を順番に折っていこうかしら』


エクスカリバーさん! 黒い発言は自重して下さい!!


「あ~……エクスカリバーはともかく、僕としても手荒なまねはしたくないんだけど…」

「……………………い」

「ん?」

「命令…………殺す……しない」


……? どういう事だ?


「君たちは僕を殺しに来たのでは無いのか?」

「…………勇者…殺さない…………もう一人は……殺す」

「もう一人? なんのことだ?」


僕がアークの言葉の意図を聞き返すと、アークの表情がだんだんと不気味な笑みへと変わっていった。先ほどまで無表情だったため、その不気味さは異常だ。


「…勇者……親友…………二人…出会えば…………殺す」


親友……? 親友ってまさか……


「雄一のことを言っているのか!? 何で雄一のことを知っている! 脅しのつもりか!!」

「……ふは……ふはは…………!」


アークが声を上げて笑い始める。その態度に僕は憤慨するが、すぐに目の前の光景によって驚きへと変わった。

アークの顔がまるで砂のように(・・・・・)変化し、崩れてしまったためだ。


「な……っ! なんだこれ!?」

『これは……っ、身体変化の禁忌呪文!? なんて無茶なことを……!!』


みるみるうちにアークの体全体が砂となり、風に乗って飛んでいってしまった。

それと同時に周りに人が集まり始めた。人払いの術とやらが消えたのだろう。


「くそ……っ! なんだったんだアレは!」


状況があまり理解できていない僕は、八つ当たり気味に地面を蹴り上げる。

すると、なぜか足下がふらつき、尻餅をついてしまった。


「あ、あれ……?」


立ち上がろうとするも、強烈なめまいが僕を襲う。


『あらあら、さすがにこれだけ動くと反動が来ちゃうわね』

「は、反動?」

『前にも言ったでしょう? 「疾光」を使いすぎると反動があるの。あれ、燃費があまり良くないのよねぇ』


そ、そう言うことは早めに言ってくれると助かるんだけどなぁ……


あまりのめまいに道の真ん中でうずくまる僕。

すると、それを見かねたのか一人のふくよかな女性が声をかけてきた。


「あらまあ、どうしたんだい? こんな道のど真ん中で」



薄れゆく意識の中、僕は一言だけ発することができた。



「お、お腹すいた……」



トレンチナイフとは軍用の格闘戦に向いたナイフのことです。


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