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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 -外伝- 勇者来る
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第八話 チート能力

シルフィがジトっとした目で俺を見ている。

心の中で雄一とシルフィを同一視しただけなのだが、僕の表情から考えを読み取ったのかシルフィはとても不機嫌そうだ。

君は雄一の事を知らないはずなんだが……


「ま、まあとにかく……この後はエクスカリバーの慣らしをするんだったよね?」

「む、そうだな。エクスカリバーのならしと、魔法の基礎について学んでもらうつもりだ……いやそれよりもさっきは……」

「はっはっは、じゃあ早速訓練場に向かおうか。エクスカリバー、よろしく頼むよ」

『あらあら、こちらこそよろしくねマモル君』


シルフィの言葉を最後まで聞かず、エクスカリバーを持って足早に部屋を出た。

まったく……言葉にも出していないのになんてカンの鋭い子なんだろうかシルフィは……











訓練場に着くと昨日とは打って変わってほとんど訓練をしている兵士がいなかった。

木人形に打ち込みをしている兵士が一人だけだ。


「やけに人が少ないなぁ」

「ああ、昨日は合同訓練があったからな。いつもはこの程度だ」


まあ、通常の勤務もあるのだから常に訓練場にいるわけはない。だが、真っ昼間に訓練をしているのが一人というのはどうなのだろうか……


『人が少ないのならちょうど良いわね。少し模擬戦闘でもしてみましょうか』

「ならば私が相手をしよう。マモルはエクスカリバーを使うのだからこちらも真剣を使っても良いか?」

『もちろん。そうじゃないと死んでしまうわ』


ゲイルが携えていた剣を抜く。

エクスカリバーよりも一回り大きいバスタードソードと呼ばれる剣だ。


「ちょっと待ってくれゲイル。まさか本当に真剣でやり合うつもりか? 危険すぎるだろ」

「当然だろ。エクスカリバーを使わないと慣らしにならないからな」


エクスカリバーのならしと聞き、やるのは素振り程度だと思っていただけに真剣で模擬戦闘なんて怖すぎる。


『大丈夫よ。死人なんて出ないから……少なくともマモル君は』

「それってゲイルは死ぬかもしれないって事じゃないのか!?」

「まあまあマモル。昨日も戦ったんだからお互いの動きは覚えているだろ。怪我をしないように手加減し合えばいい」


確かにゲイルの言うとおりではある。

手加減をすれば模擬戦闘といえどもただの訓練だ。……だけど不安はどうしても残る。僕は真剣を使った事がそもそも無い。施設にいた頃、糸田先生の日本刀を触らせてもらった事はあるが、危険と言うことで振らせてはもらえなかった。つまり、真剣での訓練など初めてと言うことだ。


「いざとなったら妾が止めに入ってやる。心配するな」


僕が不安がっているのを察したのかシルフィが言った。

……正直シルフィが止めに入ってもどうしようも無いと思うが……


「細かいことは気にするな。さあ、マモルから打ち込んで来て良いぞ?」


そう言って剣を構えるゲイル。


『とにかくまずは何も考えずにゲイル君に斬りかかってくれる?……あっ、一応本気でね』


こっちの都合はお構い無しか!!

…………まあいいや、本気で斬りかかった所でゲイルの実力なら十分防御できるだろう。昨日も結局一撃も当てることはできなかったのだし。


「じゃあ胴に斬りかかるから適当に捌いてくれ」

「了解した」

了承を得るとエクスカリバーを構え、ゲイルへと突進した。

こちらの世界に来て身体能力が格段に上がっているため体は驚くほど軽い。


ゲイルに向かっていく途中、何か違和感を感じた。

ゲイルがまったく動いていないのだ。具体的には剣を構えたまま防御姿勢に移ろうとしない。このまま胴に打ち込めば確実に上半身と下半身が分離してしまう。

慌てて剣のスピードを緩める。

その段階に来てようやくゲイルが反応を見せ、防御をしようとした。だが時すでに遅く、僕が持っているエクスカリバーはゲイルの胴へと達していた。

もちろん、振り抜くわけにもいかなかったため、寸止めにとどめた。


「えっと……隙…有り……?」

「…………っ!!」


ゲイルが目を見開いて驚いている。

……なんの茶番だろうかこれは…


『ふふふ、どうかしら? これが私の能力なんだけど』

「能力?」

「そ、そうか今のが有名な『聖剣』の能力……「疾光」か。妾も初めて見たぞ」


「疾光」?

また何とも漫画に出てきそうなネーミングだな…


『光の速さで動くことができる能力……まあ、実際は光のような(・・・)速さで動くことができる能力なのだけれど、どうかしら……気に入った?』


気に入ったも何も状況がうまく飲み込めていないけど……そもそも常識的に考えて光のような速さで動く事なんて不可能だ。

ファンタジー世界であろうとも、物理法則には逆らえない。光並の速さで動いたりしたら、摩擦で体がばらばらに吹き飛んでしまうだろう。

つまり、光の速さはしかり。光のような(・・・)速さで動いていると言うのも間違いだ。

実際は人間に知覚できないギリギリの速さで動いていると言うものだろう……けどそれでも十分すごすぎるか……


「まあ、気に入ったというか……先に言っててもらわないと…危うくゲイルを殺す所だったよ」

『あらあらごめんなさい。でも、無事だったのだから良しとしましょう』


エクスカリバー。君は口調は淑女だけど、腹の中は真っ黒なのかもしれないな……


「それほど速いのなら敵はいないも同然だな。……そう言えば、エクスカリバーにはもう一つ能力があるのではなかったか?」

『確かにもうひとつあるのだけれど、ここでは試しようがないし……また今度ね』


ゲイルが言うにはもうひとつ能力があるらしい。今でも十分すぎるほど無敵な感じがするけど……


『今日のところはこのぐらいにしときましょう。急激に能力を使ってしまうと反動もあることだし』

「なら次は魔法だな! ふふんっ……マモル。ここからは妾が教えてやろう」


急にテンションが上がりだしたシルフィ。


「教えるって……シルフィが? てっきりゲイルに教わるのだと思っていたけど…」

「聞いて驚け。妾は齢16にして魔導師の称号を持っているのだ。他人に教えることに関しては何の問題もない。さあ! 手取り足取り教えてやるぞ!?」


テンションが変な方向に……


「わ、分かったよ……けど、魔法を教えてもらうのにこんなに近づく必要があるのかい?」


気がつけばシルフィは僕の顔に息がかかるほど近づいていた。

シルフィもそれに気づいたのか、あわてて僕から距離を取る。


「そ、そうね……こんなに近づく必要は…ゴホンッ! まあとにかく、まずは基本の呪文から教えるぞ? 本来ならば私の指輪のような魔法具が必要となるのだが……エクスかリバーは魔法具としても使えるのだったな?」


シルフィの人差し指には宝石がついた指輪がはめられている。どうやら、それがないと普通は魔法が使えないらしい。


『ええ。問題ないわよ』

「ならばまず小さな火を想像してくれ。そしてそれを手のひらに灯すように思い浮かべ、灯れ(littera)と呪文を唱える」


シルフィが見本として呪文を唱えると、拳大の炎が手のひらの上に灯った。


「おお! すごいな……」


実は異世界に来てから魔法らしい魔法を見たのは初めてだった。

ゲイルの身体能力強化の魔法は見た目としては何も変わらなかったし、シルフィの暴走したときに放たれた爆発魔法は見る前に気絶してしまった。

何の道具も使わずに炎を起こすというのはなかなか感動できるものだった。


「始めはろうそくの火ぐらいを灯せれば十分だから、失敗は気にしなくてもいいぞ?」

「よし、分かった。えーっと……灯れ(littera)!」


自分が魔法を使うのだと思うと、少し興奮した。だが、呪文を唱え終わるとその興奮は即効で消え去ってしまった。



ごおおおおおおっ!!!



ろうそく大の火を思い浮かべていたのだが、その予想は大きく裏切られ、手のひらには到底収まりきらないほど巨大な炎が出現し、隅で訓練していた兵士の木人形へと飛んでいった。

炎に包まれた木人形はたちまち消し炭になってしまう。


「えーっと…………ごめんなさい」


とりあえず謝るしかなかったが無かったが、これって不可抗力ですよ!?

わざとじゃありませんからね!?




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