第七話 なんだか……
「しかし陛下……エクスカリバー殿を含めても三人というのはいささか少な過ぎるのでは無いですか?」
『あら? 私のことは呼び捨てでかまわないのよゲイル君?』
僕の気持ちを代弁してくれているゲイル。しかし、そんなことは問題にならないかのような口ぶりで、ゲイルのエクスカリバーの呼び方をのほほんと訂正した。
「う、うむ……確かに我も軍団規模を指揮してもらうつもりだったのだが……」
と、チラッとサテレスの方向を見る王様。
「私が反対いたしました」
サテレスがシラっと言った。その目は僕をあからさまに侮蔑しているものだ。
「妾はその理由を会議の場で聞いておるが、勇者とゲイルにも説明していただけるか?」
「ふー…………良いでしょう。簡単に言うと、政治的理由とでも言いましょうか。……現在我らが人族の筆頭であるモントゥ王国騎士団は魔軍に対して劣勢であります。もちろん、栄光ある騎士団がこのまま負けることはございませんが、噂が民達に広がってしまうと不埒にも王国に対して疑念を抱く者達が出てきます。さらに勇者などと言う王国の外部の人間が戦況を好転させてしまえば、戦争に勝つことができても民達の目は勇者に向いてしまう。そうなれば戦後、王国の威光を保つことが困難になります」
……要約すると、
「私が活躍すること自体が問題だと?」
「勇者には悪いが、サテレスの言っていることは国を治める立場としては正論なのだ。ただ魔軍を倒す。だけではなく、その後どうやって国を安定させるのかと言うところまで考えねばならん」
いち高校生には分からないが、政治を行う人間からしたら複雑な事情があるのだろう。
「それに加え、勇者が召喚されたこと自体、城の人間と、戦場の指揮官以外には伏せることとします」
「だが、勇者殿ほどの実力ならばいずれ武勲を立て、民達にも噂は広まるのではないか?」
ゲイルの言うとおり、僕は最低でも戦況を変えるほどの活躍をしなければならないらしい。そうなれば、いくら秘密にしても広まることは止められない。
「確かに、勇者が戦場に立てばそう遠くないうちに噂は広まるでしょう。そのことに関しては止めようがありません。私が言いたいのは、勇者にはあくまで騎士団を補佐する。という立ち位置でいてもらいたいと言うことです」
「主役はあくまで騎士団……と言うことですね」
「そうだ。理解が早くて助かるよ勇者」
言葉の意味合いとは違い、皮肉めいた口調と表情で僕を見るサテレス。
「大丈夫だマモル。少数とは言ってもゲイルがついているし、遊撃隊として敵を攪乱させれば良いんだ。簡単……ではないが、マモルならきっとできる!」
その自信はどこから来るのか分からないが、シルフィが期待のまなざしで僕を見ている。
「シルフィ様の期待は嬉しいのですが、騎士団が手こずるほどの魔軍を私がどうこうできるのでしょうか」
日本人らしく謙遜してみる。サテレスの信条にも配慮し、どの程度かも分からない騎士団を持ち上げておくのも忘れない。
「ふん、全世界の7割を支配し、王国騎士団でさえ手こずっている魔軍相手に貴様ごときでどうにかできるとははじめから思っていない」
逆効果でした。
先ほど王様が言っていたが、この世界では日本と違い謙遜という物をあまり使わないようだ。
「サテレス、嫌味はその辺にしておくがよい。……すまぬな勇者。サテレスも度重なる実務に少々気が立っておるのだ」
気が立っているから……と言うレベルでは無いのだが、「気にしておりません」と流しておく。
サテレスとの間に諍いを起こしてもなんの生産性も無い。
「おお! そうだ。先ほど申したとおり、この後勇者の国について教えてはくれぬか? 酒でも入れて……」
「駄目です陛下。この後は二十日後に行われる諸外国との合同会議についての話し合いがございます。さあ参りましょう」
期待に胸を躍らすといった様子で僕を誘った王様だったが、サテレスの冷淡な口調に圧され渋々玉座の間を後にした。
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「だけど、それほどすごいものなのかい? 魔軍というのは…」
玉座の間を出て部屋に帰るまでの廊下、聞きそびれていた魔軍の事についてシルフィに尋ねる。先日シルフィから簡単な説明は受けていたのだが、大ざっぱにしか聞いていなかったため、実のところよく分かっていない。
「ふむ。この前話したとおり、魔軍というのは魔王『レディトゥス』が率いている軍隊のことだ。軍隊のほとんどが魔物で構成されており、指揮をとっているのは少数の魔族という物らしい」
「らしい、というのはなんだか引っかかるね。何かあるのかい?」
「いや、単純に見たことが無いと言うだけだ。昔読んだ絵本にはこの世の物とは思えない異形の姿をしているとか……ゲイル、そなたは見たことがあったのだったな?」
シルフィがゲイルへと話を振る。
移動しながらであったため、目は合わせず歩き続けている。
「そうだな……私が東部戦線で戦った時に何度か目撃した。遠目だったが、見た目は人族とさほど変わりなかったと思うな」
「変わらない……のか。想像ではおぞましく汚らわしい姿をしていると思っていたのだが……」
ふむふむ、とあごを押さえ考え込むシルフィ。
『シルフィの考えは今の王国の人間の大多数のそれと同じじゃないかしら。できる限り敵方を恐ろしく見せることで戦意高揚させようとしてるのね』
エクスカリバーが言うとおりならば、この国なりの宣伝戦という物だろう。この手の情報操作は単純がゆえに効果も高い。
「う~ん……戦意高揚って言うのは分かるけど……じゃあ、この戦争ってどこまで行けば終わるんだい? 世界の7割が敵方にあるのなら完全に降伏させるなんてできないんじゃないか? それとも、どこかで停戦するとか?」
王様は戦争が終わった後のことまで考えていた。だが、どこで終わりなのかはまだ聞いていない。
相手を屈服させるかさせられるか、という単純な物でもないだろう。
だが、僕のこの言葉にシルフィとゲイルは意外にも驚いた表情を浮かべた。
「む……? 戦争が終わる? う~ん…そもそも、この戦争は終わるのか?」
「確かに、二千年近く続いてきた戦だ。終わると言われても想像がつかないな。陛下やサテレス殿は国を動かしている以上、そう言ったことも考えるのだろうが……」
「に、二千年!? そんなに続いてるのかこの戦争は!? な、何が原因で?」
二千年と言えば、元の世界では文明が形をなしてきた頃だ。そんな昔からやっているなんてはっきり言って異常だ。
『私も八百年くらい世界を見ているけど、戦争が始まった原因については知らないわね。伝承だと、二千年前には世界の1割にも満たなかった魔族が人族や獣人族の土地に侵攻してきたと書かれてるけど…』
…………八百年?
はあ~(溜息)
なんだか、ファンタジー過ぎて僕がおかしくなったように思えてきたな……
「だが、妾達が考えるようなことでもないのではないか? そう言ったことは陛下やサテレスが考えてくれているだろう」
……あれっ? なんだかシルフィが雄一とかぶってしまった。
ポジティブというか、すぐに考えることを止めるところが……もしかしてこの子も頭がアレな人なんだろうか……
「なんだろう? マモルが妾のことを侮辱している気がするのだが……」
なんだか護ルートがグダグダになって参りました。
まあ、本編である雄一ルートも読みやすいと言うわけではありませんが……
ただ、今後の展開上護ルートは必須であるため、できる限り筋の通った話にしていかないと…………頑張っていきます!!