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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 -外伝- 勇者来る
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第六話 聖剣エクスカリバー

「馬鹿か貴様!!!」


豪華絢爛な城の一室。僕が今住まわせてもらっている場所だ。

その部屋のベットの上、シルフィの怒鳴り声で目が覚めた。


「妾は貴様にマモルの護衛を頼んだのだぞ!? それがなぜ護衛対象であるマモルをたたきのめすことになるのだ!!」

「いえ、本当に不可抗力で……木剣があれほどもろくなっているとは思いませんでした…………おっ、マモル。起きたようだな」


シルフィとゲイルの言い争い……ではなく、一方的にゲイルへ説教がなされていた。

どうやら立場上シルフィの方が上らしく、終始ゲイルが下手に出ていた。

途中、起き上がった僕に気付いたゲイルがこれ幸いと話しかけてくる。


「悪かったなマモル。もう少し速く気付ければ止めること「大丈夫かマモル!!」ぶっ!」


謝罪の言葉を述べているゲイルを突き飛ばし、僕の手を握ってくるシルフィ。


「痛いところは無いか!? ああ…こんなに腫れてしまって……あっ! もし食欲があるのなら何か病人食でも……その前に医者に診せるのが先だろうか……いや、それよりも……」

「ち、ちょっと落ち着いてシルフィ! 体はなんともないから……」


次々にまくし立てるシルフィ。

心配してくれているのだろうが、あまりの剣幕で迫るシルフィに少し身の危険を感じてしまった。


「そ、そうか? ま、まあそれほど心配はしていなかったがな。妾はマモルのことを信じておったぞ?」

「いやいや、先ほどまで『ど、どうしよう。このまま目を覚まさないんじゃ……そうだ! 口づけをするのはどうだろう。絵本とかでは確か…ぶっ!』」


ゲイルが発した『ぶっ!』というのはもちろんシルフィの台詞ではなく、鳩尾に肘を喰らったゲイルの発せられた声だ。

うまく決まったらしく、両膝をついてうめき声を上げている。


「ち、違うのだマモル! 確かに口づけをしようとしたのは確かだが……まだ(・・)何もやってはいない! ま、まあ…マモルがしたいのであれば今からでもや、や、やってもよいぞ? さあ!!」


今の会話の流れでそうなるのかは分からないが、シルフィが顔を真っ赤にしながら僕に顔を近づけてきた。


「いや、もう起きてるからする意味は無いだろう? それに、そう言うことをするのはもう少し大人になってからにしなさい」


先ほどゲイルが言った絵本のくだりから、恐らくシルフィはお姫様と王子様の典型的な昔話の事を言っていたのだろうと分かった。

まあ、立場的には逆の立ち位置にある状況だけど、起きている時にキスをしても全く効果は無いだろうに。起こすためのキスを起きている時にする、それはもうただのキスじゃないか?

それに、子供のシルフィが僕をからかっているようなので、大人として少し注意もしておいた方が良いだろう。


「ん……ん? マモルよ。そなた……妾のことを何歳だと思っているのだ?」


急に顔をしかめ僕をにらみつけるシルフィ。先ほどまでの緊張した顔つきとはまた違う表情になっている。


「何歳って……多分十二、三歳って所かな? ああでも、身長から言えば十歳くらいかも……」


確か、元の世界の施設にいた子供たちもシルフィくらいだったと思うし。


「あっ…………」


……ん?

ゲイル……『あっ』って何?




「……………………だ」


シルフィがボソッと何かをつぶやいた。


「ん? ごめん。何だって?」


あまりに小さな声だったため、思わず聞き返す。後から考えればそれが引き金になったのだろう。

つまり……



「妾は今年で十六歳だーーー!!!!」

 

シルフィがキレた。

叫ぶと同時に部屋の空気が変わる。

雰囲気が変わったとかではなく、あからさまに気温が上昇し、次の瞬間



ドゴオオオォォン!!!



爆発した。


「ええええええっ!?」


今起きたことが分からずただ叫び声を上げ、さっき起きたばかりだというのに再び意識を失ってしまった。













◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「まったく、昨日はひどい目に遭いましたよシルフィ様」

「ふ、ふん! マモルが悪いのだ妾のせいでは無い!」

「マモル。シルフィ様は見た目の幼さを気にされているのだ。あまり触れてく…ぐっ!」


シルフィのコンプレックスを説明するゲイルの足を、余計なことを言うな!と言わんばかりにヒールで踏みつけにするシルフィ。

鎧に身を包んでいるゲイルだったが、その隙間をかいくぐっての踏みつけだ。無意味に達人技である。


昨日の一件。つまり、シルフィが部屋を爆発させた事であるが、あれはシルフィが怒ったときに出す魔法だとゲイルに聞いた。

と言っても、シルフィのコンプレックスに触れたときのみに起きる事らしく、滅多にお目にはかかれないそうだ。…………全然嬉しくないが…


ともかく、昨日から一夜が明け、僕とシルフィ、そしてゲイルは玉座の間に続く待合室で待機していた。

昨日の僕の今後に関する事柄についての発表があるそうだ。


「しかし、勇者として召喚されはしましたが、実際の所僕に何をさせるきなのですか?」


ちなみに、待合室にはシルフィやゲイルの他にも要職の方々がいるため、シルフィに対しては敬語を使っている。


「ふふん。詳しいことは陛下から聞くとよい。私も会議に参加したがそれほど悪くない話だったぞ? それに、マモルへの贈り物も用意されておる」

「贈り物…ですか?」

「それも後になったら分かることだろう。さあ、そろそろ参ろうか」





僕はシルフィとゲイルに連れられ、玉座の間へと入った。

すると、そこには先日召喚された時よりも多くの人間が並んでいた。

国王。

サテレス。

神官。

各種大臣。などなど…


「よくぞ参った勇者よ」


玉座の間に入ると王様が笑顔で出迎えてくれた。しかし、相も変わらず隣には顔をしかめたサテレスが立っている。


「失礼いたします」


一礼してから部屋の中央に行き、膝をつく。隣でゲイルも同じような姿勢になっている。シルフィはそういった姿勢にはならず、そのまま王様の隣の席に座りに行った。


「うむ。昨日一日会議をした結果、勇者には少数の人間による遊撃隊を率いてもらうこととなった。三人だけの精鋭部隊だ」

「三人……ですか? たった?」

「うむ。トニトロス公によれば勇者の実力は申し分ないらしいではないか。実力で言えば四大騎士(アークナイト)に劣らないとか」


四大騎士(アークナイト)

このモントゥ王国に存在する最も強い騎士たちに与えられる称号。

一人が戦場に立つだけでその戦場が終わってしまうほどの実力者で、この世界の冒険者という職業のSSクラスとほぼ同等の能力を持っている。と、シルフィから教わった。

冒険者のことも教わったのだが、口頭のみの説明だったためそのすごさがよく分からなかったけど……


「いえ、それほどでは……」

「はっはっは。おかしなところで謙遜するのだなそなたは。まあいい。ともかく遊撃隊の編成は、勇者に加え四大騎士(アークナイト)、『(いかづち)』の称号を持つトニトロス公。そして……彼女、エクスカリバーだ」


そう言って僕の隣、ゲイルとは反対側を指さした。


するとそこにいたのは女性……ではなく、小太りの神官服の男性だった。

「彼女」と言われれば誰しもが女性を思い浮かべるだろうが、この世界は小太りの中年男性のことを「彼女」と呼称するのだろうか……


『私がエクスカリバーです。よろしくね勇者さん』


男から聞こえてきたのは男性特有の野太い声ではなく、少し歳のいったような、だけど透き通った女性の声だった。

だが、驚いた。小太りの男は一言もしゃべってい(・・・・・・・・・)なかった(・・・・)のだ。口を動かさず、じっとしているだけの男。


「勇者よ、見るところが違うぞ? その男ではなく持っている物(・・・・・・)だ」


物?

確かに男は手に剣を持っていた。白く澄み切ったシンプルな一本の剣。

だが、これを見ろとは一体……


『勇者さん……マモル君と言ったかしら? もう一度自己紹介すると……私が『聖剣』エクスカリバーです』


今度は分かった。

………………剣がしゃべってる!!!


「ええええええっ!?」


王様の前だと言うことを忘れ、大声を上げてしまった。


『あらあら、驚かせてしまったかしら?』

「お、驚きますよ! 物がしゃべるって………………ああ、いや…驚く事じゃないのか?」


エクスカリバーを見た瞬間は驚いてしまった。だが、よくよく考えたら僕は機械技術やロボット技術が発達した日本からやってきたのだ。日本では機械がしゃべるなんてことは珍しい事ではない。

今では車や電子レンジまでもが口頭であれこれ説明してくれるのだ。

そう考えると急に冷静になってきた。

ここは魔法が普通に存在する世界なのだからしゃべる剣があってもおかしくは無いのかもしれない。


『あら? すぐに落ち着いたわね。冷静な性格なのかしら?』

「いえ、私がいた国では物がしゃべることは別段珍しい事ではありませんでしたから。車だってしゃべりますし……」

「む? 車というのは……馬車のことか? 馬車が話すというのは……ううむ、想像がつかんな…」


この王様は何か大きな間違いを犯している気がする……


「ふむ、勇者の国は愉快なところだな。また後日話を聞かせてくれ」

「はい。多少ならば」


僕から日本の事を聞けると聞き、機嫌がよくなったのかにこやかな表情を浮かべる王様。


『楽しそうな所悪いのだけれど、そろそろ次に移らない? ワング?』

「おお! そうだったな。では勇者、エクスカリバーを手に取り鞘から抜いてくれ」


王様の言うとおりエクスカリバーを手に取ると、先日持った木剣と違い金属特有のずっしりとした重さが手にのしかかる。


固唾を飲んで周りの人間が俺を見ているのが分かる。ただ剣を抜くと言う動作がそれほど珍しいのだろうか?


キンッ!


剣は簡単に抜けた。

刀身をすべてさらすと、金属なのか疑うほど白く染まっていた。シミや傷ひとつ無いそれはそれはきれいな刀身に思わず見とれてしまう。


おおおおっ!


玉座の間から感嘆の声が響く。


見ると、一様に驚きの表情を浮かべる王様を含んだ要人たち。


「あ、あの……何か問題がありましたか?」


心配になってきた僕は王様に聞いてみた。僕は何か抜いちゃ行けない物を抜いてしまったのではないだろうか。


「む……い、いや。エクスカリバーを抜いたときにあまりに何も無いので逆に驚いてしまったのだ」


……?

まだ分からない。結局の所どういう訳だ?


「聖剣を抜けるのは選ばれし人間だけなんだ、勇者殿。ここ五百年抜いた者は一人としていない」


ゲイルが説明してくれた。要人たちの前なので僕のことは勇者殿と呼んでいる。


「選ばし者……か、あまり実感はわきませんが……」

「そうだな……少し肩すかしだったが、ともかく彼女が三人目のエクスカリバーだ。よろしく頼む」



三人目……………………実質二人じゃないか!!!




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