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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 -外伝- 勇者来る
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第五話 勝負の行方


「り、両者! 向かい合ってください!!」


審判が僕とゲイルさんを向かい合わせる。

形式的なものなので簡単なことのはずなのだが、上司と勇者という組合わせに多少緊張しているのかもしれない。少し声が裏返っている。


「勇者殿、手加減は無用だ。全力で来てくれ」


ゴツゴツとした鎧を脱ぎ去り、身軽な格好になったゲイルさんが柔軟をしながら言った。


「もちろん。全力でお相手させてもらいますよ。……ただ、一つ聞きたいのが、先ほど僕の護衛役だと言いましたがそれはどういうことですか? 城にいる以上、危険なんてものはなさそうですが……」


城の外に出て行動するならばをつけるのも頷ける。街の外には『魔物』と呼ばれる生き物も存在するらしいし……

だが、城の中にいる状態でこれと言った危険に巻き込まれることがあるとは思えない。


「ん~、そのことだが、そうだな……私に勝ったら教えてあげることにしよう」


なんだそれ?

そのタメは必要なのか?


「そ、それってどういう……」

「試合開始!!」


聞き返そうとすると、審判が緊張しすぎて何の脈絡もなく試合を始めてしまった。


「ち、ちょっと待って……」

「まあ、良いじゃないか。ただ試合をするだけではおもしろくないだろう?……だとすればあれだな、私が勝ったら…………シルフィ様と結婚してもらうことにしよう」


…………え?

な、なんだそれ? なんでそんな話になってるんだ!?


「結婚って……! 何で僕がシルフィ様と……」

「いやぁ、シルフィ様が他人に興味を持たれるのは初めて何でな。元世話役としては願いを叶えて差し上げたいと…」

「だ、だからって何で僕がシルフィ様と結婚するって話になるんですか!! 興味を持ったと言っても好きってことではないでしょう?」


急におかしなことを言い出したゲイルさんに突っ込みを入れていると、


「あ、あの~……一応試合が始まっていますので……」


審判がおれとゲイルさんの中間に入り、試合が始まっていることを告げてきた。

そう言えば試合が開始されてから口論しかしてなかったな。


「おっと、そうだったな。勇者殿、勝ち負けの結果は試合が終わってから考えることにしよう」

「い、いや! それじゃあ何もかもが遅…………っ!」


ゲイルさんの言葉を訂正しようと一歩前に進んだ瞬間、ゲイルさんの木剣が僕の目の前の空気を斬った。一応は偶然外れたのではなく、瞬間的に上半身をのけぞらせて躱したのだが、先ほどのクロードさんとは段違いに速かった。


「……突っ込んでる暇はなさそうですね」


ゲイルさんの言葉を訂正しないとひどい目に遭うかもしれない。だが、こんな口約束で結婚が決まってしまうとは到底思えないため、今は目の前の相手に集中することにした。


「やあっ!!」


躱した直後、ゲイルに胴を放つ。だが、それを難なくいなし、次々と攻撃を繰り出してくるゲイル。

あまりのスピードに目を回しつつ、すべてを一応は防いでいくがやはり防戦一方だ。

防具をつけていないため、多少の打ち込みを覚悟しての反撃ができない。しかも、ゲイルから繰り出される斬撃は速い上に重い。掠りでもすれば即大けがにつながりかねないため、反撃ができない。


「くっ、くそっ!!」

「すごいな勇者殿。私の攻撃をここまで防ぐとは……っ!」


正直、話ができるほど余裕は無いが、ゲイルはまだまだ余裕と言った状態で僕に話しかけてくる。

しかし、押しているにもかかわらずなぜか剣を引き、僕から距離を取った。


「だが、まだまだ本気を出していないようだな……」


ゲイルが息を乱す僕を見て言った。

かなり本気で戦っているはずだが、何を思って本気を出していないと思っているのか……


「か、かなり……本気なんですけど…………」

「まあ、勇者殿の本気がこの程度ならば……必要ないな」


急に背筋が冷たくなった。

先ほどまで笑っていたゲイルさんから殺気が漂ってくる。



……フッ


視界からゲイルさんが消える。

一瞬だったか何秒か経ったのかは分からないが、気付くと僕の視界の端。僕の懐近くに潜り込んでいた。ゲイルが木剣を滑らせて、僕の頭に向かってくる。


まずい。

………………死ぬ



木剣であろうと、頭にぶつけられれば確実に死ぬ。

瞬間的に死を覚悟したのだが、次の瞬間、おかしなことに俺の周りにいた兵士たちやゲイルさんがいなくなった。


「な、なんだ!?」


目の前の光景に困惑する。

どうなったんだ!?


あたりを見回すと、僕はいつの間にか城の屋根の上に立っていた。

中庭から大体5メートルほどの高さだ。

下をのぞき込むとゲイルや兵士たちが僕を見上げている。


「……どうなってる?」


いつの間に俺はこんな所に来たんだ?さっきまで下で見上げている人たちと同じ場所にいたはず……


「ふっ、やはりか……」


ゲイルが殺気を消して再びほほえんだ。

しかも、人間では到底なしえないような跳躍で俺がいる屋根へと飛んできてしまった。


「……なっ! ど、どうやって……」

「ん? 勇者殿と同じく『身体能力強化』の魔法を使っただけだが?」


魔法?

いやいや、そんなものを使った覚えは無いぞ……そもそも、


「俺は魔法なんてものは使えませんよ?」

「なに? ……ということは、人間族でありながら獣人族(ビストロイド)並の身体能力を持っているのか……」


獣人族(ビストロイド)

たしか、この世界に存在する種族のひとつだったか……シルフィからは身体能力に優れた種族だと聞いている。

恐らく、屋根には俺が自力で飛び乗ったようだ。つまり、匹敵する身体能力が俺に備わっているらしい。…………なんで?


「圧倒的な魔力と言い……勇者殿自身が元々持っている能力なのか?」

「いえ、元の世界では武芸こそしていましたが、こんな身体能力は持っていませんでした」


元の世界でこのようなことをすれば、びっくり人間としてもてはやされていたことに違いない。


「……では、こちらに召喚されたときに付与されたものということか」


召喚された時に能力が付与される。それなら納得がいくかもしれない。

俺のような一般人を召喚しても、そのままの能力では勇者としてまるで役に立たないだろう。だからこそ、神様から能力を授けられたということだ。


「うん。まあ、そのことに関しては追々調べてゆけばいいだろう。それより、勇者殿がこの場所に来てくれたのはありがたい。ここならば誰かに話を聞かれることも無いだろう」

「話……ですか?」

「ああ。勇者殿が知りたがっていたなぜ私が護衛役を務めることになったのかを教えて差し上げよう」


あれっ? 確かそれって……


「それは俺が勝ったときに聞ける約束だったはずでは?」

「まあそれは口実で、後できちんと説明するはずだったさ」


ゲイルさんが含んだような笑みを浮かべると、下からなにやら声が聞こえてきた。

試合が行われているにもかかわらず、屋根に上られては見ることができない事への兵士たちの抗議の声だ。「そこじゃよく見えませんよ!!」とか「降りてきて戦え!!」などと聞こえる。


「おっと、観客がお冠だ。簡単な質疑応答にしておこうか。かいつまんで説明すると……勇者殿は命を狙われている」


………………うん?


「い、命って……僕がですか?……なんで? だれが?」

「恐らくは勇者殿を快く思っていない王党派(Royalist)によるものだろう。王党派(Royalist)は今、過激な思想が主流になってきているからな」


これも、先日シルフィに教わった。元々は王党派(Royalist)騎士派(Odonterism)という各勢力の派閥争いだったが、現在は国の人間のみで魔軍に勝とうという王党派(Royalist)が主流になってきており、外部の人間の協力を極端に嫌うらしい。


「つまり、異世界という外部から来た人間が手柄を立てるのが気にくわないから殺そうと?」

「つまりはそう言うことだ。現在、騎士派(Odonterism)の調べにより首謀者の目星はついているのだが……いかんせん証拠がない。捕まえることは難しいだろう」


首謀者は分かっていても証拠が無いのか……やっかいだな…


難しい顔をして考え込む俺を見て軽くほほえむゲイルさん。


「まあ、考えていても仕方がない。暗殺が起きることが分かっていれば対処もできるだろう……そろそろ試合に戻ろうか。いい加減に降りないと彼らに怒られそうだ」

「そうですね。今度こそ全力で行きますよゲイルさん」

「ふっ……ゲイルで良いぞ勇者殿。敬語も使わなくても良い」

「……なら、僕のことも勇者殿ではなくマモルと呼んで下さい」

「…………良いだろう。行くぞ!! マモル!!」


ゲイルのかけ声により、ようやく試合が再開された。

僕に突進してきたゲイルは木剣を振るった。それを何とか防いだものの、魔法で強化されたゲイルの一撃に俺の体が中庭へと吹き飛ばされる。


「…………っ!」


なんとか空中で身を翻し、兵士たちの和の外に着地する。

普通なら足の一本や二本も折れて良いほどの高さだが、強化された僕の体はまるで当然のごとく簡単に着地をすることができた。


「勇者! 上だ上!!」


兵士の言葉にとっさに身を起こし、横に飛ぶ。すると、先ほどまでいた場所にゲイルの木剣が突き刺さっていた。

殺す気かっ!!


「ふっ!」


着地したゲイルに木剣を横に薙ぐ。それは躱されたが、そのまま攻め続けた。

袈裟切りからの突き。そこからゲイルの上部を飛び越えながら頭への攻撃。

防御されても躱されても攻撃し続ける。

結果、終始俺のペースで試合が続けられた。その上、身体能力が上がったことを自覚したからか、さっきよりも体が思った通りに動く。ゲイルも先ほどまでの余裕は見受けられず、息を切らしながら戦っていた。



「はあっ、はあ……はあ…………っ」

「ぜえ……ぜえ…!」



めまぐるしく動き続け、数分。

二人とも肩で息をするほど疲れ切っていた。

周りの兵士たちが固唾をのんで見守っている。


「そ、そろそろ最後にしようか…マモル」

「そ、そうだね……決着といこうか、ゲイル」


互いに同意を得て、木剣を構える。

恐らく次が最後の一撃になるだろう。


……………………





「はあっ!!」

「おおっ!!」





一気に距離を詰め、木剣を振るう両者。互いの木剣が重なり合った瞬間……


バキッ!!



鈍い音とともに僕の目線が地面と水平になった。

薄れゆく意識の中見えたのは…………砕け散った木剣。


僕とゲイルさんの力に耐えきれなかったのだろうが……何とも締まらない結果だなぁ。





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