第一話 召喚の場にて
なんということだ……勇者を召喚しようと、この一年間さまざまな道具をそろえ有能な神官たちに招集をかけた。
だが、召喚できたのはなぜか魔力の欠片も持たないような平民の子供だ。どう見ても勇者ではない。
「し、シルフィ様……あの者を追い出してしまってよろしかったのですか? 万が一あの者が勇者だったとしたら……」
「伝承にもあった通り、勇者ならば竜人族をしのぐほどの魔力を備えているはずだ。それに、あの者自身が勇者ではないと説明していたではないか」
そうだ。あの者は、自分自身が手違いによりこの場へ召喚されてしまったことをはっきりと断言していた。
くそっ!忌々しい……追い出す前に一発殴ってやればよかった。
「…………召喚の儀式を再び行うことはできないのか?」
「申し訳ありません……神官たちの魔力が尽きかけておりますし、必要な道具も再び集めなければなりません。すぐにはとても……」
やはりか……だが、戦況は我らに芳しくない。もうそんな時間は……
今も戦い続けている将兵たちの姿を思い出すと涙が出てくる。すまない……そなた達を救うことは妾には……
「し、シルフィ様っ! 魔法陣が……っ!」
神官の一人が急に叫んだ。
振り返ると魔法陣から神々しい光が放たれている。
だんだん大きくなるその光は部屋全体を包み込んだ。そして、膨らみきったその光は不意に消え去る。
これは……召喚魔法か?
先ほどの少年を召喚した時と同じ現象だ。
まさかっ、召喚できる状態では無いはずなのに……
「い、一体、どうなったのだ!?」
「私は何もしていないぞ!?」
神官たちが困惑の声をあげている。
妾も同じく混乱していたが、目に入った光景に再度驚かされた。
魔法陣の上に少年が倒れている。黒髪で、先ほど召喚された者と同じ服を着ている。
また失敗か!!
どうやって召喚の儀式が行われたのかは分からないが、結局のところ失敗だ。ため息が出るな……
「貴様は何者だ!!」
先ほどと同じく、目の前の者の胸倉をつかみ上げる。
くそっ! なぜ神はこうも無慈悲なのか……我々の願いを聞き届けないばかりか、ぬかよろこびをさせて楽しんでおられるのか!
「さあ言え! 貴様……は……」
あれ?
なんだか顔が熱いな……?
胸もドキドキして…………
先ほどの者は実に頭の悪そうな顔をしていたが、この者はなんというか………………かっこいい
シルフィ・ド・アラム・モントゥ。15歳のこと……初恋の瞬間であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うっ…………」
こ、ここは一体どこだ。
頭で鈍器で殴られたような痛みで視界がぼやける……
目をこすりながらあたりを見回してみると、先ほどまでいた真っ白な空間とは違い、レンガ造りの建物の中にいるようだ。
しかも、辺りには神官のような服装をした男たちが並んでいる。
だが、その中に一人だけ出で立ちの違う女の子がいた。
きらびやかなドレスに身を包み、頭には王冠?のようなものを乗せている十二、三歳ほどの女の子だ。
そして、その女の子がだんだん僕に近づいて……胸倉を掴んできた。
「えっ? ちょっ…………」
「貴様は何者だ!!」
……は?
何者かって……そもそもあなたが何者ですか!?
というよりここは一体どこなのだろう?
「さあ言え! 貴様……は……」
「ひ、ひとまずこの手を離してくれないか? 話づらいんだけ…………? どうかしたのかい?」
見ると、女の子の顔がどんどん赤くなってゆく。
風邪か? そうでなければそれほど怒っているのか……?
「大丈夫? 顔が赤いみたいだけど……」
「ひゃ、ひゃい!! だいじょう……ぶ、です!はい!」
ろれつが回っていないな……やはりどこか具合が悪いのだろうか……
「し、シルフィ様! その方は!」
ふいに神官の一人が女の子に向かって叫ぶ。この子はシルフィと言うのか?
「な、なんだ! 急に大声をあげて!」
「その方の魔力が……」
「…………っ!」
神官の言葉に女の子が俺の僕を凝視したかと思うと、次の瞬間、
「お待ちしておりました。われらの勇者よ」
跪いていた。
しかも、女の子だけではなくその場にいた神官たちも一人残らず僕に向かい膝をついていたのだ。
「…………なんですかこれは……」