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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 王都
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第三十三話 王都脱出


「それじゃあ作戦の説明をするよ」


俺、アズラさん、そしてフランは今、食堂の厨房に集まっている。表だとバレる可能性があるからというアズラさんの配慮だ。


「作戦って俺を追い出すやつでしょ? それなら俺がいない所でやった方が……」

「ち、違います。確かにユーイチ様を街の外まで出す作戦ですが、アズラさんもやりたくてやるわけではありません!」


慌ててアズラさんを擁護するフラン。もちろん俺の方も冗談のつもりで言ったため、本気でアズラさんが俺を追い出そうと思っていないことは分かっている。まあ、俺が言った通り、出ていくことには変わりないのだからあながち間違いということはないのだが……


「痴話げんかはそれくらいにしときな。……ぼうや、作戦についてだが、さっきも言った通り坊やにはこの街、出来ればこの国から出て行ってもらう」

「出ていくことは別に良いですけど、他にも方法はあるんじゃないですか? 例えば、首謀者をブッ飛ばすとか。そろそろ俺もキレてもいい頃合いですし……」


異世界に飛ばされ、城から追い出され、功績をあげたら国のために戦ってくれと言われ、にもかかわらず暗殺をされかける。挙句の果てには、人を大量殺人犯呼ばわりだ。普通の人間ならば、二、三度はキレてもいいはずだ。

もちろん、俺もすでにキレても良い段階にいるのだが、こうも立て続けに災難に会ってしまうと、頭の回転が追いついてこない。

結局誰を怨めばいいのだろうか。神様? 王女様? サテレス? それとも自分自身の運の無さ?

……正直ついて行けません!!


「そんなことをしたら坊やはこの国自体に追われることになるよ? まあ、今でも似たようなものだけど……同情もしてもらえなくなるかもしれない」


確かに、万引きの冤罪にあった奴が腹いせに店のものを盗んだりしたら、それこそ本末転倒だからな。


「とにかく朝方に色々と手をまわしておいたから、夜になったらイスカの坊やの店に向かいな。そこでまた指示を出してもらいな」

「はいっ!!」



…………はい?


今返事をしたのは俺じゃない。もちろんアズラさんでもなく、隣にいたフランだった。


「いやいや、なんでフランが返事するんだよ。出て行くのは俺一人だろ?」

「何を言っているんですか? 私もユーイチ様について行くに決まっているじゃないですか」


フランは頭の悪い人間を見る時の目で俺を見つめている。俺の頭が悪いのは事実なので否定はしないが……なんでフランがついて来るのが決定事項のようになっているのだろう。


「無理だって! 俺は狙われてるからこの街を離れるんだぞ? 危な「ダメです」…」


フランは俺の目をまっすぐにとらえて言う。その目には、無言の圧力のようなものがある。


「だから、俺と一緒にいた「ダメです」…」


「だ「ダメ」……」



だ、だめだこいつはやくなんとかしないと……



「連れてっておやりよ。ここまで尽くしてくれる女の子を置いてくなんて、男として失格だよ?

それに、坊や一人じゃ隣町に辿り着けるかも怪しいしねぇ……」

「そうですよ。ユーイチ様はこの世界のこと、何も知らないんでしょう? なら、私が道中色々と教えて差し上げます」


フランは残念の一言に尽きてしまう胸を張り上げ言った。

しかも、フランに加え、アズラさんまでも俺に圧力をかけてくる。っていうか、フランってこんな性格だったっけ!?


「……分かりました。分かりましたよ…………ハァ、連れて行きます。フラン、危険な目に会わせるかもしれないけどついて来てくれるか?」

「はいっ!!」


フランが満面の笑みを俺に向ける。

なんだこの子! 抱きしめたいんですけど!!


まあ、正直断れる雰囲気でもなかったしなぁ。というか断るという選択肢が無いって感じ?


選択肢

フランを連れていく←

フランを連れていく

フランを連れていく



………………オイッ! バグってんぞこのゲーム!!






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


時は過ぎて夜


身支度を済ませ、食堂を出る時間だ。


「アズラさん。短い間でしたが、本当にありがとうございました!」


俺はいつの間にか九十度の最敬礼をアズラさんにしていた。

元の世界でもしたことはなかったため、自分でも驚きだ。正直、この世界に来てから十日も経っていない。にもかかわらず、アズラさんにはお世話になりまくった。

この世界の基本的なことを教えてもらったり、フランを救うためのアドバイスをしてくれたり、今は脱出の手助けさえやってくれている。いくら感謝をしてもしたりない。

なんだか目頭が熱くなってくる。


「あ、うん。気をつけていくんだよ」


…………あれ?軽っ!? 俺の涙の意味は!?


俺の最敬礼を華麗にスルーし、アズラさんはフランをそのふくよかな懐で抱きしめた。


「遠くに行っても体に気をつけるんだよ? あと、坊やのこと頼んだよ。危なっかしい子だからねぇ」


アズラさんが優しく語りかける。するとフランはこらえていた気持ちを晴らすかのように、声を殺しながらアズラさんの懐で泣き出した。


「あ、アズラ……さんも…お、お元気……で……」


思えば、俺がこの人たちに出会う前から顔見知りだったんだよなぁ。それなりに長い付き合いだったんだろう。二人を見ていると、挨拶も出来ないまま別れてしまったジジイの顔がよみがえるようだ。




そして、俺とフランは良い思い出しかないアズラさんと食堂に、静かな別れを告げた。









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「イスカ……イスカ……っ!」


イスカの店についた俺とフラン。だが、店内にイスカの姿は無く、小声ながら呼んでみる。


「イスカさんいませんね……どうかしたんでしょうか?」

「アズラさんの指示だと、イスカがいないとどうしようもないしな……」


やれることがなく、経ち尽くしていると、


「タスケテ~」


…………あ~、なんかこの光景デジャブだなー

つまり、並べてある品物の中から人間の手が突き出ていたのである。


「手えええええええぇぇぇぇ!!??」


これは俺ではなく、フランの叫びだった。

まあ、驚くよな。この光景は。



手を品物から引き抜くと、案の定それはイスカのものだった。

なんで埋もれるんだこいつは?


「す、すみません! こんな大変な時に……」


ヒビの入った眼鏡をかけ直し、ペコペコと頭を下げるイスカ。


「いや、それは良いけど……なんでお前は会うたびに埋まってるんだ?」

「あ、それはですね…………これを探していたんです」


イスカが差し出したのは何やらしなびれた葉っぱのようなものだった。


「なんだ? これ……」


見分けはよくつかないが、フランが集めていたポーテル草というものとは違うようだ。


「これは『竜人族(ドラゴロイド)の秘薬』に使われると言われる『ボンド草』というものです。と言っても、伝説上のものなのでお守り程度の意味合いしかありませんが」


そう言って、あらかじめ準備していたと思われる袋にボンド草を詰め込み、俺に手渡した。


「これ、俺にくれるのか? 別にここまでしてくれなくても……」


恐らくイスカは、フランかアズラさんから俺のことを聞いたはずだ。だとすれば、ここまでしてもらう理由が見つからない。イスカは直接的には関係が無いのだ。


「ユーイチさんが手配された原因はよくわかりませんが、フランさんから聞いた限り、ユーイチさんはこの街の救世主じゃないですか。だとすればユーイチさんは僕の命の恩人です。このくらいは当然でしょう」


…………まったく、お人よしだなぁイスカは…


「分かった。それじゃあもらっておくわ。ありがとう、イスカ」


俺が、荷物を受け取るとイスカは満足したような笑みを浮かべた。

思えばイスカには二、三度しか会っていないのだ。ここまでしてもらうのはやはり気が引ける。


「もしここに帰ってこれれば、珍しいものいっぱい持ってきてやるよ」


恐らく俺にいはこれくらいしかできないだろう。もちろん、帰ってこれるかは不明であるが……


「はい。楽しみにしています…………そろそろ頃合いですね。ユーイチさん、フランさん。この店の裏手からギルドまで向かってください。そこで姉が待っています」


アルテナが? しかもギルドって……


「ギルドって手配書が回ってるんじゃないのか? アルテナも正直……」


今朝ギルドに向かった時、アルテナは俺に対して気まずそうではあるが、疑いの目を向けていた。それに、責任のある立場の人間なのだから俺に加担するなんてことはあるのか?


「大丈夫です。姉もフランさんに訳を聞いていますから、味方になってくれました。それに、この時間帯だとギルドには姉以外はいません」

「そ、そうか……よかった」


このまま思い違いをされたまま別れるのは俺としても嫌だったからな。誤解が解けているならうれしいことだ。


「では、そろそろ向かってください。また、機会があればお会いしましょう」

「ああ、色々世話になった……またサービスしてもらいに戻ってくるよ」


熱く握手を交わす俺たちだったが、俺の軽口に少々苦笑い気味のイスカだった。









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ギルドまでの道のりは以外にも短かった。

夜中まで見回りをしている兵士や冒険者を避けるために裏通りを通ると思っていたのだが、大通りを抜けるよりも早くギルド到着した。


「ユーイチさん! こちらです!」


月と星のみの光で照らされる冒険者ギルド。

うっすらとアルテナの姿が見えた。


「アルテナ! あんまり大きな声出したらダメだ!」

「ユーイチ様の声も大きいですが……」


アルテナに出会ったことで少し気が緩んだのか、少し声が大きくなっていた。

アルテナも自分の声の大きさに気付いたのか、口元を押さえて顔を赤くしている。


「す、すみません……すぐに案内しますのでついて来て下さい」


アルテナの後をついて行くと、ギルドの中ではなく横の細道に入っていった。ここは、俺が冒険者たちから逃げ出す時に通った場所だ。


「アルテナ……今日のことだけど……」


恐る恐る今朝の出来事をアルテナに尋ねると、体をビクッと震わせ、足を止めてしまった。


「あ、いや……別に気にして無いんだぜ? アルテナは知らなかっただけなんだから、気にすることなんて……」

「ち、違うんです!」


アルテナを擁護する言葉を羅列していると、急にアルテナが大声をあげた。


「わ、私は……ユーイチさんがギルドに来た時には、災害級が出現したことはもう知っていたんです」

「……ん? それって今朝の段階でってことだよな?」

「はい。兵士の方から話を聞いて、冒険者の方々が亡くなった原因も知っていました……けど、昨日の夜中にお城からの命令で……」


アルテナの声がだんだんと涙声になっていく。恐らく、知っていたにもかかわらず俺を擁護しなかったことを気に病んでいるのだろう。だけど……


「それはアルテナの立場からしたら当然だろ? 別にアルテナの気にするようなことじゃないんじゃないか?」

「で、でも私は……」


これ以上話し合っても、押し問答になるだけだな。

そう判断した俺は、アルテナの頭に手を置いて会話を遮った。


「俺も全然気にしてないし。今は俺の味方なんだろ? だったらそれで十分だよ。謝ってくれなくていい……てか、謝られても困るしな」


優しく頭をなでてやると、顔を赤くしながらもアルテナの表情が和らいできた。

……不謹慎かもしれないが、これはフラグが立ったというやつじゃないか?



「むー…………えいっ!」

「痛い!?」


フラグが立ち、レベルアップのファンファーレが頭の中で響いていた時、急にフランが俺の足を踏みつけた。

頬を膨らませて俺を睨んでいるフラン。

……何を怒っているんだ?…………なんてことは言わない!

俺は頭は悪いがラブコメマンガの主人公のように鈍感ではない!!

これは明確な恋愛フラグだ! やはりフランの方にも立っていたか!!


「はっはっは! 嫉妬してくれてありがとうフラン!!」

「なっ……ち、違います!! もう……早く行きますよ!!」


顔を真っ赤にしながらどんどん先に行ってしまう。

はっはっは、愛い奴め。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おっ! やっと来たか……」


アルテナに案内された先は、俺も何度か通ったことがある北門だった。

そこにはカールさんとゴードンさんを含め、数人の兵士が松明を携えて待っていた。思わず身構えるが、周りの雰囲気に気づいて警戒を解く。


「カールさんたちは味方なんですか?」

「おう! 俺は実は騎士派(Odonterism)でな、王党派(Royalist)の連中が仕組んだことなんざぶっ潰してやろうと思ったんだよ」


王党派(Royalist)に対抗する騎士派(Odonterism)か……確かに、味方になってくれそうだな。罠ってことはなさそうだ。


「そうですか。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「いやいや、お前さんが気にすることじゃねぇさ。王党派(Royalist)もひどいことしやがる……同じ王国の人間として恥ずかしいぜ…………っと、長話をしてる場合じゃねぇな。アルテナさんから言われた通り、コウルク行きの馬車を手配しておいたぜ」

「コウルク?」

「この街から一番近い街です。ここから約十日ほどかかりますが、そこまで行けばまだ手配は回っていないはずです」


馬車で約十日って……交通機関が充実した日本に住んでいた俺としては気の遠くなるような距離だ。

だが、日本とこの世界を一緒にしてはいけないよな。そもそも馬車があるだけでもありがたい話だし。


「そんじゃ、そろそろ出てもらえるか? 王党派(Royalist)の監視役が見回りにやってくる頃だからな」

「はい、お世話になりました。カールさん、ゴードンさんもお元気で」

「今度ここに帰ってきたときには土産話を頼むぜ。ここの連中の酒の肴にでもさせてもらうからよ」


がっはっはと笑いながら背中を叩くカールさん。手加減をしていないのかせき込みそうになるレベルなのだが……


「ユーイチさん…………」


アルテナが顔を赤くしながら俺の手を握ってくる。

女の子に手を握られるのは、実は小学校以来なので俺も顔が熱くなってきた。


「お、お気をつけて! あの……もしまた帰ってくることがあれば…その……」


顔を真っ赤にさせながらおずおずと言葉を口にするアルテナ。

やばい、放課後に体育館裏に告白に呼び出された気分だ…………まあ、そんなことは一度もされたことは無いのだが……


「ユーイチ様! 早く行きますよ!!」


アルテナの告白?が終わる前にフランによって強制的に馬車に押し込められた。

やばい、放課後に体育館裏にカツアゲされに呼び出された気分だ…………まあ、これは何度か経験があるのだが……



ドタバタしてしまったが、ここでみんなとはお別れらしい。

もうすでに街との距離が開いてしまったが、俺はみんなに見えるように大きく手を振った。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



街を出てからしばらく経つと、さっきまでいた街がどんどん小さくなっていった。

異世界に飛ばされてからまだ十日も経っていない。だが、良いことも悪いことも立て続けに起こった場所だ……まあ、ほとんどが悪いことだったのは最悪だったが……


「しかし、フランは本当に俺について来てよかったのか? あのままアズラさんの店で働いていた方が……」

「ユーイチ様。私はユーイチ様に救われましたから、ユーイチ様の傍にいるだけで…それだけでいいんです」


フランの顔は全く迷いもない、後悔もないすっきりした笑顔だった。

その笑顔に俺も顔を笑顔にゆるめながらフランの頭をなでてやる。


うん。

嫌な思い出の方が多かったけど、フランたちに会えたのは本当に嬉しかった。

そうだな、街が見えているうちに言っておこうか……




「じゃあな!!グロリア!!!」























ーっ!!…………っ!……!


ん?

なんか馬車の中から声が聞こえる。でもこの場にいるのは俺とフランだけだ。一応御者もいるが、馬車の外で、運転しているのでその人ではないだろう。あとは…………


「テネブラエ、お前か?」

『…………ん!? ああ、起きてる起きてる……すかー』


こいつ……剣のくせに寝ぼけてやがる。そういえば前にも寝てるとか何とか言ってたな……ともかく、こいつの声だったのか……


ーっ!!…………っ!……!


あれ?

やっぱり声がするなぁ……荷物?からか……


声はテネブラエの寝言ではなく、馬車に積んであった荷物の中から聞こえているものだった。

いやいや、そんなところに人がいるはずが……


「ぶはぁっ!! し、死ぬかと思ったぁ!!!」


荷物を開けると、緑色のおさげ髪のローブ姿の女の子が飛び出してきた。







「エリス!?」








どうも、作者の廉志です。

第三十三話が異常に長くなってしまい、文章が単調な読みづらいものになってしまいました。反省です。

さて、実はこの話でようやく第一章が終わりました。

ここで重要なお知らせがあります。

実は、この『理不尽な神様と勇者な親友』はルートを分けて書こうと思っています。

一旦『理不尽な神様と勇者な親友』は休止して、『護ルート(仮)』を立ち上げようと思っています。

と、いうわけで、こちらの話の裏側として護視点の話を書きますので、次からはそちらがメインとなります。

『理不尽な神様と勇者な親友』と連動しておりますので是非ご覧になってください。

*シリーズにすると言っていましたが、ややこしくなりそうなので、章ごとの外伝という形にしようと思います。

ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

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