第二十八話 玉座にて
大変なことになった。
こちらの世界に来て8日目(寝てた分合わせて)、俺は国王の前に立たされている。
正確には王座の前で正座をしている状態なのだが……なにせ西洋の儀礼なんて知らないからなぁ…映画とかで見たことはあるが、ひざまずくのって右足を立てるのか左足を立てるのか覚えていない。よって日本人にはポピュラーな正座をしているわけだ。しかも隣には今にも泣きそうな顔でフランが身を縮めて震えている。そりゃ王様を前にしたら緊張するわなぁ……
はっきり言って俺も緊張している。
神様や王女様には既に会っているのだから、緊張もさほどないと思っていたのだが、目の前の王様はこれまでと違い、なんかこう……王様らしい?
今まで会ったやつらは、神様はくわえ煙草のおっさんだったり、雰囲気こそそれらしいが子供の外見の王女様だったりと、いまいち俺のイメージに合致しない面々だった。
それらと違い、この王様は王座に座り、真っ赤なマントをはおり、口元には金色のひげ、頭には王冠。など、どこからどう見ても王様の風貌をしている。しかも、これまで会ったこともないような重苦しい空気を醸し出しているのだ。
極めつけは周りにいる取り巻き達だ。ギルドで出会ったチンピラのとは違い、一人ひとりが役職の高そうな人間ばかりである。ただ、その中にはどこかで見たことのあるような神官服姿の男たちも混ざっていた。目を向けるとサッと目をそらすのだが……どこで会ったんだっけ?
「ふむ、そなたが災害級を打倒したというものか……名は確か……」
「『ユーイチ=サヤマ』でございます陛下」
王様の隣に立っていた男が王様に注釈を入れる。この男、見た目は三十~四十代で、男には不釣り合いな腰まである髪の毛が目についた。しかも、言葉遣いが上から目線の王様よりも、ずっと俺を見下すような眼をしている。良い印象とは言い難い。
「おお、そうだ。ユーイチだったな。こたびの偉業御苦労であった。ほめてつかわす。まずは自己紹介だ。我の名は、ワング・ジ・アラム・モントゥと申す」
「は、はぁ……ユーイチと言います」
上からの物言いにもっと腹が立つと思っていた俺は、割とすんなり王様の言葉を受け入れることができたため、逆に気の抜けた返事をしてしまった。
「貴様、何だその気の抜けた態度は」
俺の態度が気に入らなかったのか、王様の隣にいた男が俺を睨みつける。
「サテレス、よい」
王様が男を制す。男はサテレスと呼ばれているらしい。
「ユーイチよ、そなたに褒美を与える。災害級を打倒したのだ。本来であればもっと多くの物を授ける所なのだが、たび重なる戦争で国庫もなかなか厳しい状況にあるのでな」
「は、はい。しかし、災害級というのはそれほどにすごいものなんですか?」
「ふむ、確かそなた達は魔物のいない世界から来たのであったな……災害級とは、その名の通り人間ではどうしようもない魔物のことを指す。小国程度ならば一匹に滅ぼされるようなものだ。撃退程度なら何とか出来るであろうが、討伐となると前代未聞だ」
国を滅ぼすって、そんな化け物と戦っていたのか俺は。今思い返すと背筋が寒くなるな……
「では、褒美だ。先ほども言った通り今は財政難でな、白金貨500枚ほどしか出せないが」
…………ん? なんだって?
「き、聞き間違いでしょうか、今、白金貨を500枚とおっしゃいました?」
「うむ。本来ならこの十倍、いや五十倍は出すところなのだが……」
「いやいやいやいや!! そんな大金もらえませんよ!!!」
首が吹っ飛ぶくらいに首を横に振る。
白金貨500枚と言えば日本円で大体五億円だぞ! 数日前まで一介の高校生だった俺にとっては、目が飛び出るほどの大金だ。
「はっはっはっは!! そなた達は全く同じ反応をするのだな。そなた達の国では遠慮が美徳とされているそうだが、この国では好意を受け取らぬのは大層無礼なものとされておる。黙って受け取っておけ」
「えっと……はい、それではいただいておきます…………あれっ? 今、そなた達とおっしゃいましたか? それに俺の国のことは話していないはず……」
「ふっ、そなたのことは勇者……いや、そなたの友人であるマモル=オトタケから聞いておる。異世界から来たことなども含めてな」
異世界。という言葉にフランとテネブラエが反応した。そりゃ、この世界とは別の世界があるとすれば興味も持つだろう。だが、俺は別の言葉に反応した。
…………護?
「ま、護がここに居るんですか!?」
やはり護もこの世界に召喚されていた! しかも予想通り勇者として……
「ふむ、残念だが、お主が担ぎこまれる前日に王都を発ったよ。魔軍との戦争の指揮を取りに前線へな」
「せ、戦争ですか……」
勇者として召喚されたのだから、多少は危険な任務に就くのだろうと思ってはいたが、それはRPGのように少数で魔王などと戦うような形だと思っていた。しかし、今聞いた限り大規模な戦争に巻き込まれているようだった。
そんな中に飛び込めば、いくら護が剣の腕が強くても関係が無くなる。いくら腕の立つ人間でも何十人、何百人に囲まれると、なすすべもなく潰されるだけだからだ。
「ふっ、心配そうだな。そこで、少し相談なのだが、ユーイチ。そなた、勇者とともに戦ってはくれまいか?」
俯いていた顔を上げる。するとそこには、にやりと笑った王様と顔をしかめたサテレスが並んでいた。
「戦う……というのは、俺に護と一緒に戦争をしろということですか?」
「うむ。災害級を打倒すほどの腕だ。心配ならば勇者の背中をその腕で守ってやるとよい」
確かに、護は強い。俺には劣るとはいえ、それでもほぼ同等の強さだ。二人揃って何かに負ける想像がつかないほどだ。と言っても、施設のジジイには強化された二人がかりでも勝ち目がないと想像がついてしまうのだが……
だが、それほど強い護でも、さすがに戦場なんて所にいたら心配する。つい先日まで護のことを心配すらしなかった男の言うセリフではないが、さすがに死と隣り合わせな状況に親友がいたとなればいくらかは気になって当然だろう。
そして、そういった思考を巡らせながら、俺は一つの決断を下した。
「面倒くさいのでお断りします」