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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 王都
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番外編 門番は見た



「今日も平和だなぁー」


青空を見上げながら『俺』が言う。『俺』というのは、北門の警備部隊の隊長であるカール=グスタフ。つまりは俺のことだ。隊長、といっても十人しかいない門番のまとめ役程度の認識しかしていない。こんな所にいるのだから昇進話も入ってこないし。


「平和と言っても今日は緊急手配が回ってますよ」


こいつは俺の部下、ゴードンだ。優秀な部下だが、人がまったりしているところに水を差さないでほしい。


「緊急手配ってアレだろ? 『凍てつく大剣』の下っ端を捕まえろみたいな……確かギルドから冒険者が二、三十人派遣されてたはずだし大丈夫だろ」

「しかし、重要度を考えると軍隊(われわれ)も盗賊確保に動いた方がよいのでは?」


確かに『凍てつく大剣』の情報確保はギルドだけでなく、国としても重要度は高い。

だが、心配は無いだろう。

二、三十人もの冒険者の中にはAランカーもいると聞いた。Aランカーと言えば城の兵士にもそうそうはいない実力者だ。そんなところに門番程度の兵士が行ったところで足手まといにしかなるまい。


「いや~、俺達が行ってもしょうがないだろう。城の方も戦争で人材不足だからな。冒険者で十分と上も判断したんだろう……」

「人材不足というのは分かりますが……そうだっ! 数日前に勇者様が召喚されましたよね? その方に頼めば……」

「いや、勇者様とやらは昨日の朝方、王都を発ったそうだ」


王都の市民たちにはいまだ知らせていないが、伝説の存在であった勇者が先日実際に召喚されたそうだ。されたそうだ、というのは、我々末端の人間には情報が噂としてしか伝わってこないからだ。

勇者が召喚されたという重大なこと、本来ならば国を上げての祭りごとにでもなりそうなのだが……お上の考えはよくわからん。

ちなみに勇者が王都を発ったというのは、南門の隊長である俺の友人から聞いた話だ。


「血気盛んなのは結構だが、俺たちの仕事はあくまで門の管理だ。我慢しろ」


ゴードンは恐らく前線の兵士のような実戦を体験してみたいのだろう。戦場に行ったことのない若い兵士にはありがちなことだ。


考えを読まれたことを気づいたのか、少し顔を赤くしながらゴードンは仕事に戻った。


正直、門番の仕事が退屈であることは俺も同感だ。毎日毎日、門を出入りする商人や冒険者の荷物の確認作業。それ以外は、夜の巡回任務。危険こそ少ないが、やりがいがなさすぎる。


「若いやつらの気晴らしになるようなことがあれば良いんだがなぁ」 


このセリフを聞かれれば、「何を物騒なことを言ってるんだ!」とどやされそうだが、俺自身も何か事件でも起きないかなぁ~と考えていたりする。


…………それが原因なんてことは誰も思わないだろうが、次に起こったことは俺を少しばかり動揺させることになる。



ドゴォオオオン!!!


門の外側から大きな音とともに地響きが起こった。


「な、何だ!」


慌てて門の外に向かうと、アガルの森付近で何か巨大な黒い物体が暴れている。しかもだんだんこちら側に向かってきているのだ。


「あ、アレは……まさか…」

「隊長!! 災害級です!!!」


やはりか!

城壁の上にいたゴードンの叫びを受け、確信した。

今こちらに向かって来ているのは災害級だ。巨大であるというのは普通の魔物にも当てはまることであるため、判断材料にはならないのだが、アレ(・・)だけは見間違わない。

俺達兵隊が訓練の際初めに教えられることがある。それは竜神族(ドラゴロイド)と災害級とは戦うな(・・・)、だ。


「民間人を街に入れて門を閉じろ! 急げ!!」


俺の指示に部下たちが従う。

何とか全員を収容し終え、再び災害級の方をみるとあることに気付いた。


人が襲われている(・・・・・・・・)


街と森との半分くらいの距離まで近づいてようやく気がついた。

少女が、子供を抱えこちらに走ってきている。しかも災害級には、無謀にも男性が戦いを挑んでいた。


「まずい! ゴードン!!」

「は、ハイ!!」

「すぐに全員を招集……いや、一人は城に応援を呼びに行かせろ! そのほかのものは完全武装して集合! 出撃するぞ!」


ゴードンは「正気か!?」という表情を一瞬した後、自分が兵士であることに気付いたのかテキパキと装備を整え、部隊を整列させてゆく。


俺自身もよろいを纏い、槍を手にすると再び災害級の動きが目に入った。

先ほどまで少女を追いかけていた災害級だったが、今は男性を標的としている。その攻撃を辛くもよけ続けていた男性だったが、しばらくすると抵抗をやめ、災害級の前で立ち止まってしまった。


やばい!!


「逃げろ!!!」


俺は大声で叫んだ。だが、とてもじゃないが声の届く距離ではない。

ダメか!

一瞬そう思ったのだが、予想はうれしい方向に裏切られた。


男性が手をかざすと、災害級の体が半分ほど煙に覆われた。そして次の瞬間、煙が消えると同時に災害級の体の半分も消え去っていた。

災害級はしばらくのたうち回った後、その動きを止めた。


「な、何だったんだ今のは……」


俺を含め、この場にいた全員が目の前の光景を呆然と眺めていた。




初めての番外編です。

グーラと対峙したユーイチとは別の視点で描いています。

今後の展開にも影響はあります。

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