第二十三話 緊急事態
俺は今朝食を食べている。この世界に来てから基本的に同じような朝を迎えている。
ああ、気持ちのいい朝だな~。空気はおいしいし、空は晴れてるし、ベットに潜り込んできたフランの温かさがまだ残っているし。
本当にいい朝だ。
…………でも俺の顔は暗い。
なぜか? かいつまんで説明すると現在、俺は金欠であるからだ。
昨日、空間術を習得した時二十人分もの料理を平らげた挙句、食堂の備品を壊しまくったせいで食事代やら弁償代やらで盗賊を捕まえた時の報酬、金貨1枚は瞬く間に消えていった。
しかも今、俺の隣にはいつも食べている朝食の皿が十枚ほど積まれている。
どうやら昨日の一件で胃が巨大化してしまったらしく、いくら食べても満腹にならない。
結果、俺の財布の中の硬貨たちはほぼ全滅状態となっていた。
「やばい……食費だけで破産しそうだ…」
何とか食費を稼がないとなぁ。
一緒に生活していると言っていいフランも働いてはいるが、食堂に下宿しており食事も食堂で食べているため、給料は雀の涙程度らしい。しかも日常に必要な生活用品(服や靴など)は俺が金を出している(アズラさんいわくこれが男の甲斐性らしい)ため、フランからお金を借りるという選択肢は実質存在しない。
「…………ってあれっ? アズラさん。今日フランはいないんですか?」
確か俺のベットから出て行ったあと、食堂へ降りて行ったのだが、そのあとフランを見かけていない。
「ああ、フランならアガルの森に山菜を採りに行ってるよ。なんでも商店に並んでいるよりもおいしい山菜が採れる場所を知ってるんだってさ」
そういえばアガルの森でフランと出会った時も大量のポーテル草を担いでいたし、植物の自生場所を知り尽くしているのかもしれないな。
「そうですか、ではフランが帰ってきたらこう伝えて下さい。「雄一は自分の食費すら払えないようなダメ人間になり下がりました」と……」
「はははっ、なんだいそりゃ?」
あれっ? 冗談と思われたのか? 割とガチだったのだが。
「じゃあそんなダメ人間にならないためにもとっとと働いて金を稼いできな!」
俺は食堂を追い出された……
冒険者ギルドに入ると、こちらに気づいたのか、アルテナが俺を呼んでいる。
「どうしたんだ? アルテナ」
「ユーイチさん。実は昨日の件なのですが……」
「ああ、盗賊のやつか……なにか問題でもあったのか?」
「あっいえ、ユーイチさんに不備があったわけではないのですが……昨夜、盗賊たちが牢屋から脱獄したみたいなんです」
脱獄? まあ確かに、あの4人の実力から言えば可能かもしれないな。
武器や場所、人数のアドバンテージがあったとはいえ、この俺を追い詰めるまでの実力者だ(自信過剰)。
「そこで、新しい手配書が作成されました。一応ユーイチさんは捕縛した当事者なので、ご覧になっておいてください」
アルテナから手渡された手配書を見る。
捕縛任務
脱走した盗賊団を捕縛せよ
対象・盗賊四人
特徴・女一人男三人、全員が囚人服を着用
報酬・白金貨1枚
条件・必ず生け捕りにすること
「白金貨1枚!!? 昨日の任務って金貨1枚だったよな!?」
なんで昨日の今日で報酬の桁が変わってるんだ?
「昨日捕らえた盗賊ですが、取り調べの結果この大陸でもっとも影響力のある盗賊団『凍てつく大剣』の構成員だったことが分かりました」
『凍てつく大剣』? また中二病臭いネーミングセンスだなぁ。
そういや捕まえた女泥棒も反抗期を抜けきっていないような子供だったな……
「……それで、その『凍てつく大剣』? の人間だと、なんで報酬が跳ね上がるんだ?」
「『凍てつく大剣』の構成員はたとえ捕まったとしても、その仲間の手によって口封じをされる可能性が高いんです。それが出来なくても、何らかの方法で自決をすることが多く、情報が手に入りづらいんです」
「盗賊団の情報が欲しいから大金をかけるってわけか……」
情報というのは、ある意味黄金より価値がある。元の世界でも重要人物や巨大組織の情報は知ってしまっただけで殺されると聞いたことがある……ドラマの中でだが。
「かなり重要度の高い任務なので、現在、潜伏していると思われるアガルの森をAランカーを含めた複数の冒険者が捜索中です」
「アガルの森!?」
声を荒げる。
アガルの森と言えば今フランが行っている場所だ。
俺はギルドを飛び出した。