第二十一話 ご都合能力
アエルと別れた後、ギルドまで盗賊たちを連行し、アルテナから報酬をもらった。
まだ日があったので、他に仕事でもしようと思ったのだが、めんどくさくなったのでやめた。それに知りたいこともあったしな。
「なあテネブラエ。アエルが使ってたみたいな魔法って、俺にも使えるのか?」
『無理だ』
「即答!?」
ちょっとは夢を見させてくれよ。
「それってやっぱ魔力がないからとか?」
『そうだな。どんな人間にも魔力ってのは大なり小なり備わっているはずなんだが、ユーイチからはほんのひとかけらも魔力が感じられない』
そういえば、この世界に召喚されたときにも言われた気がするな……
「あれっ? でもフランを解放するときに、俺って魔法使ったよな?」
フランの契約を破棄するときに呪文を唱えた覚えがある。
『そりゃあれだ、契約魔法ってのは触媒になる物……譲ちゃんの場合は契約書自体に魔力が込められていて、それを使うだけだから関係無いんだよ』
「え~、じゃあ魔法使えねぇの? 密かに憧れてたんだが……」
元の世界において、魔法なんてものは存在しない。
たまに魔術を使ったインチキ宗教なども出てくるが、常識としてはフィクションとしての存在だった。
だが、フィクションだとしても使ってみたいという気持ちは誰しも持つことだろう。
俺も、魔法とは違うが、かめ○め波を打ちたいと思いよく練習したものだ。
「う~ん、魔法とは違うが、似たようなものなら出来るかもしれないぞ?」
「魔法とは違うって……どんなやつだ?」
なんだろ? あの某兄弟が活躍する世界の錬金術みたいなものか?
『ま、それは食堂についてから説明してやろう』
そうこう話をしているうちに食堂に着いた。
客はほとんどおらず、フランが暇そうにしている。
「あっ! ユーイチ様! おかえりなさい!」
俺に気づいたようで、笑顔で迎えてくれた。
「ああ、ただいま」
「泥棒の方はどうでした?」
「うん。ちゃんと捕まえてきたぞ? 当分食費にも困らないだろう」
俺とフランの食費だけ払えば良いだけだから、金貨1枚だけで数カ月はもつはずだ。
「そんじゃ、テネブラエ。さっきのやつを詳しく教えてくれ」
『ふむ。それじゃあまず嬢ちゃん。コップを持ってきてくれるか?』
「あっ、お水ですか? ただいま」
パタパタと水を取りに行くフラン。
「? 別にのど乾いてねぇぞ?」
『別に水を飲むことが目的じゃない。あと、これから教える術は本当に才能が無いと使えないものだ。かつて、ある偉大なる魔術師が編み出した秘儀だが、使えたのはその魔術師一人しかいない。しかもいくつか欠点もあるしな』
テネブラエが俺に説明していると、水の入ったコップをフランが持ってくる。
「どうぞ」
『ああ嬢ちゃん。コップ、そこでとどめてくれるか?』
「え? はい……」
テネブラエの指示によくわからないまま従う。
テーブルにはコップとフランの手の影が出来ている。
『よし。ここからが重要だ。ユーイチ、この影の向こう側に空間があると想像しろ』
「影の向こう側に空間? なんだそれ?」
『ええい! いいからやれ!! 想像ができたら呪文だ。開けだ。』
? よく分んねぇけど、とりあえずやってみるか……えーと、空間だろ? なんだろ……部屋、かな?
俺は今住んでいる部屋を想像する。
次に呪文か……
「開け」
呪文を唱えると、テーブルにあったコップの影がドーム状に浮かび上がった。
「うわっ! なんだこれ?」
顔を近づけてみてみると、かすかだが煙のように揺らめいている。
『おっ、うまくいったな。さて、次だ。嬢ちゃん、そのコップをこの影に落としてくれ』
「えっ? 置くんじゃなくて落とすんですか?」
俺の行為を興味津津に見ていたフランは疑問の声を出す。
『ああ、かまわねぇから落としちまってくれ』
恐る恐るコップから手を離すフラン。
落下するコップはドーム状の煙を突き抜け、本来ぶつかるべきテーブルに当たる音もなく消えていった。
「あれ? コップどこ行った?」
「消えちゃいました!?」
俺とフランが驚く。
『よし、じゃあ次だ。ユーイチ、閉じろと言え』
「えーっと、閉じろ」
言われた通り呪文を唱えると、ドーム状の煙が何事も無かったかのようにパッと消えてしまった。しかもその位置のテーブルが削り取られ、穴があいてしまっていた。
『ありゃ、座標認識がずれてたか……まあいい、嬢ちゃん、テーブルの上に持ってるお盆をかざしてくれるか?』
「あっ、はい!」
フランがお盆をかざすと再びテーブルに影が出来た。
「ユーイチ、今度はテーブルじゃなくてお盆にある影の向こうに空間を創造してから、もう一度開けだ。」
「開け」
先ほどの感覚を覚えたため、今度はさっきよりもスムーズに想像できた。
するとお盆の影が再びドーム状の煙となって浮かび上がり、底からコップが落下してきた。
ガシャンッ!
テーブルに叩きつけられ割れるコップ。
「うおっ!?」
「わわっ!」
『はっはっは、成功だ。なかなか才能があるぞ?』
茫然としている俺とフランをよそにテネブラエは機嫌がよさそうだ。
テーブルが水で濡れていく。
その後、もう一度閉じろと唱えると、今度はお盆に大きな穴が開き、フランがひっくり返った。
余談ではあるが、店の備品を壊しまくったことでこの後、アズラさんにこってりと叱られることになる。
「なんだこれ? 魔法……じゃあ、無いんだよな」
『ああ。これは『空間術』という技だ。ま、説明してやると、魔力ってのはそもそもこの世界に満ちている物質のことだ。魔法を使う場合、人間が持っている魔力を使うんだが、空間術の場合は空中にある魔力を使う。だから魔力が無い人間でも使えるわけだ。才能は必要だがな』
「じゃあ、私が使おうと思っても出来ないかもしれないんですか?」
『そうだな。才能がないとうんともすんともいわねぇからな、それ以外にも条件はあるし……さっきも言った通り欠点も…………』
テネブラエが欠点とやらを言い終わる前に俺の視界が反転した。
いきなり立ちくらみがしたのだ。しかも……
「は…………腹減った……」
腹が減ったのだ。
『体力を使うから馬鹿みたいに腹が減る』
初めに言えよ!!
ユーイチ、新能力覚醒!
ありきたりでスミマセン。
しかも設定に無理ありすぎ……