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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 王都
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第十五話 そして俺はイケメンになった



俺はエリックと対峙していた。

場所はアズラさんの食堂。

もちろんフランもこの場にいる。昨日よりも顔の傷が増えており、見られたくないのか顔をうつむいていた。


エリックは、初めこそ俺が報復に来たと思ったのかビクついていたが、俺の言葉を聞いてからは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「フランを解放してもらおうか!」


俺はそう言い放ったのだ。


「はっ! なんで俺がフランを手放さなくちゃならねぇンだ?」


酒をあおりながら俺を見下すエリック。

俺が物理的にも法律的にもエリックに手出しできないと確信しているようだ。


この世界の奴隷制度において、奴隷は、所有者の許可が無ければ絶対に解放されない。

所有者が奴隷の所有を放棄しなければ奴隷はあくまで所有者のものだ。

奴隷が誘拐され、他人が強制労働に就かせようとしても、強制力は発生しない。どころか、奴隷が所有者から一定以上離れ、一定期間経つと魔法によって死んでしまうのだ。

もちろん、この強制的な奴隷契約は一般的な物ではない。

よほどの極悪人を奴隷身分へと落とした時などに使う契約なのだ。だが、この目の前の男はこともあろうに年端もいかないフランのような子供にそのような重契約を結ばせてしまっている。

おまけに奴隷の権利書も所有者自身にしか破棄できない仕様になっている。

アズラさんが言ったように、この世界の一般的な奴隷というのはあくまで『最低に近い賃金で働き、なおかつ所有者に強制力のある労働者』なのである。

通常ならば、解放奴隷になるために、一定の条件を納めれば奴隷自身から解約できるものなのだ。

だが一方で例外も存在し、フランもその一例に当てはまってしまっている。


だとするなら、フランを奴隷身分から解放するためには所有者による明確な所有放棄が必要となる。

となれば話は簡単だ。

自分の意思でフランを手放したくなるように仕向ければいい。


「いいや。あんたはフランを手放す。いや、手放さざるをえないんだよ」


そう言って俺は二枚の書類をエリックに見せた。

エリックの表情がひきつっていく。

俺が見せたのは、エリックのフランを所有する権利書と、エリックに対する取り立ての強制執行書(・・・・・)

ちなみに、取り立ての執行者には俺の名前、ユーイチ・サヤマと明記されている。






「フランを解放するための秘訣さ」


アズラさんが言った。

解放の秘訣?


「何か方法があるんですか!?」


俺は身を乗り出してアズラさんに迫った。


「一応ね。ただ、色々と条件があるけど」

「教えて下さい!!」

「はっはっは、がっつくねぇ。惚れるってだけでも大変だ」


アズラさんの言葉に一瞬顔が熱くなる。

さっき高らかに宣言してしまったが、思い返せば何と言う恥ずかしいことを言ってたんだ俺は……


「そ、それについてはノーコメントにしときます」

「のーこめ……なんだい? まぁいいや、とにかく、フランをエリックから引き離すことはできる。しかも合法的にね」

「どうすればいいんですか?」

「さっき坊やも目を付けてただろう? それを利用すればいい」


さっき?

えーっと……何だっけ?

こめかみに指を当て。顎に手を当て。無いパイプを口に咥える演技をして考えた。

決して! 決して自慢ではないが!! 俺は小さいころ『半歩歩けば自分の住所を忘れる』とさえ言われたほどの頭脳の持ち主だ。

そのおかげで何度街中で遭難しかけたことか……

だが、成長著しい俺だ。今は勿論住所……言えるぜ? いや、本当に自慢じゃねえけどな。

ただ、今回は意外にもすっと答えは口から出て来た。


「…………借金?」

「そう。エリックはギルドに借金を背負っている。ギルドに借金をするとね、利子は安くなるんだけど罰則規定が厳しくなるんだよ。一定期間内に借りたお金の一割を払わないと、借り手自身の身を売って返さなきゃいけない。エリックもそろそろその期間が迫ってきてたはずだよ」

「えっと……つまり借金の一割を返さないと奴隷にされるってことか?」


厳しいってレベルじゃねえぞ。


「まあ勿論。期間限定みたいなもんだけどね。一生奴隷なんてこともないんだよ」

「はあ……」

「その弱みを攻めて、フランを買い取ればいいってわけさ。といっても金が無いとこの作戦は使えないけどね。」


金か……一応いくらかは持っているが、エリックがどれだけ借金を背負っているかによるな……


「もし、金が無いならもうひとつ方法があるよ。冒険者として、取り立て任務に就けばいい。とりあえずはエリックからフランを引き離すことはできるからね。ただ、これも冒険者ランクがある程度必要だけど」


この方法だと、根本的解決はできない。

確かにエリックからは解放されるだろうが、ほかの所有者になる人間がエリックよりもましだという保証はどこにもないのだ。


「…………ちなみにエリックの借金っていくらくらいですか?」

「たしか……白金貨3枚とちょっとだったと思うけど……」


ということは一割で…………あれ?


「じゃ、じゃあ取り立て任務ってどのランクからできるんですか?」

「よくは知らないけど……多分Cランクからじゃなかったかな?」


これって……条件が全部そろってる?

俺の所持金は、イグニスバイソンを倒したことによって金貨4枚(一枚はフランに渡したため)を持っている。しかもその時にCランクに昇格した。

なんだろう……

なんて言うんだろうかこれは……

……出来過ぎだ(・・・・・)

ご都合主義とかそう言うレベルの好都合。


ことはちょっと怖いくらい順調に進んでいた。






とまあ、次の日。

ギルドに取り立て任務の申請に向かい、現在、食堂に戻ってきていた。


「そ、そんな馬鹿なっ! お前みたいなガキが取り立て任務に就けるわけが……!」


席を倒し、慌てて俺から書類をひったくる。

顔の傍まで近付け、文章を読むが、勿論のこと。執行書の署名は俺を指している。


「信じなくてもいいけどよ、執行書は本物だ。あんたもあきらめて奴隷になる準備でもしておくんだな」


エリックの顔がみるみるうちに青ざめていく。

ああー……清々するわ、馬鹿野郎。


「……あー、けどな。条件によっては取り立てをしないでやってもいいぞ?」

「あ? 執行者に取り立てを無効化出来る権限はないはずだろ! でたらめを言うな!!」


怒号を飛ばし、ついでに唾も飛ばし。最終的には酒の入った木製のコップが飛んできた。

避けたコップが、騒ぎによってきた野次馬の一人にクリーンヒットして倒れた。なんか申し訳ない気分だ。

執行書の件だが、もちろん俺にそんな権限はない。

これからしようとしていることは法にこそ触れないが、かといって胸を張って自慢できる行為とは言えないもの、つまり……買収だ。


「さっきも言ったがけど、フランを解放しろ。そうすれば俺がお前の借金の一割を払ってやる」


俺の言葉に、フランが顔をあげる。

その目にはかすかだが期待がこめられているように見えた。


ちなみにエリックの借金は白金貨3枚金貨5枚だ。つまり、その一割。金貨3枚と銀貨5枚。。

今の俺の所持金は金貨4枚と少しなので払うことができる。


「で、どうする? フランの所有権を俺に譲るとここで宣言すればこの金をやろう」


机の上に金貨を4枚を置く。

少し多めなのは、賄賂的な意味を込めてのことらしい。

提案者は勿論アズラさん。あの人も若干人事のような気がする。俺の生活費のことをどう考えているのだろうか……


「は、はははっ、ありがたい話だが、お前、フランを手に入れて何をがしたいんだ? ああ、下の世話でもさせるのか。フランは顔は良い……」


ダンッ!!

俺はテネブラエをテーブルに突き刺した。

あまりにも……そう。あまりにもこの野郎の吐く息が臭かったから。

くそったれがクソッタレな見た目を晒そうと気にはしないが、糞っ垂れな息を俺に向かって吐くのは我慢できない。


「ぺらぺらとうるせぇ……」


俺はエリックの胸倉をつかんで叫ぶ。


「金を受け取るのか、受け取らないのか!!」

「……っ、わ、分かった! だから手ぇ離せ!」


俺の怒声のせいか、エリックは怯えきっていた。

耳元で思いっきり。しかも目の前で睨みを利かせれば、よほどの馬鹿にでも状況が理解できるらしい。

エリックの胸倉から手を離すと、一呼吸置いてから権利書にサインをし始めた。

それが自身の義務かのごとく、一言二言の毒を吐き、俺の顔。そしてフランの顔を見た。

顔をそむけるフランに眉をひそめ、権利書に手を置いた。


我は(Et ad)権利を彼ものに(delegatum)委譲する(sibi)


この様な呪文を唱えた。

すると、権利書に書かれてあったエリックの名前が消え、代わりに俺の名前がそこに浮かび上がった。

おお、スゲェな。ファンタジーっぽいなオイ。


「……よし。まあ、こんなもんか……一応聞いておくけど、イカサマしてないよな?」

「してねぇよ……」

「ふーん。ま、もしそんなことしてたら……」


テネブラエをテーブルから引き抜いた。

テーブルには哀れ、でかでかと穴があいてしまっている。

後で修理代の請求とか来ないだろうな……

それはさておき、引き抜いたテネブラエの切っ先をエリックへと突きつける。


「今度はテーブルじゃなくて、お前の手か足に穴が開くことになるだけだけどな」

「…………」


その光景を想像したのか、見る見るうちにエリックの顔は先ほどよりも一層、青ざめてしまった。

こんだけ脅しておけば上々だろう。

変に小細工をしている様子もない。

これでようやく、フランが俺の所有物になったことを確認できた。


俺はフランを正面に見据え、


「フラン」

「は、はい!」


俺に呼ばれ、驚きつつフランが返事をする。

そんな彼女に、俺は手を差し伸べた。

だけど、フランは困惑するように俺の手と、エリックの表情を見比べる。

テーブルと権利書を挟んだだけで、俺と彼女はどれだけの距離があるのだろうか。

世界?

価値観?

倫理観?

うるせえよ。

そんなもん、たかだか紙切れ一枚を破り捨てるだけでなくなるもんだろうが。


そんな距離はもう存在しないんだよ。


手を伸ばせば、彼女の名前を呼べば、すぐに気が付いて手が届く距離なんだよ。

そんなことも分からねえなら、俺が教えてやる。


「フラン!!」


さっきよりも強く、大きく、彼女の名前を呼んだ。

彼女の目を見据え、もう一言だけ叫ぶ。


「来い!!」







『可哀そう』とか『惚れた』とか、色々理由はつけられるけど、この際こまけぇことはいいんだよ。

助けたいって思ったんだから、それでいいじゃねぇか。

俺も、今回の件に関してはかなり満足のいく結果だったと思う。

だってさ、惚れた女の子がさ……


差し伸べた手を無視して……俺の胸に飛び込んできたんだぜ?

こんなおいしい展開なら、望むところだ。



さて、ようやく解決。

ユーイチがイケメンです。

ちなみに呪文であるラテン語ですが、google翻訳で調べただけなので、文脈が合っているかどうかは謎です。

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