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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第一章 王都
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第九話 いざ出陣!

「アルテナ! 任務の登録をしに来たぞ!」


俺は意気揚々とギルドにやって来た。

あたりを見回しても冒険者の数は少ない。時間が時間だし、昼飯でも食べに行っているのだろうか?

ともあれ、ギルドに登録もしたし、アルテナの言うとおり武器だって手に入れた。これでようやっと任務を受けることができる。


「ああ、ユーイチさん。武器をお買いになられたんですね。あっ、防具も買ったんですか? お金のほうは大丈夫でした?」

「アルテナ、世の中にはさ、便利……じゃなかった。すごく親切な奴がいるんだぜ?」

「えーっと……良く分かりません」

「いや。実はさ……」


俺はことのあらましを説明するため、テネブラエを抜いた。


『んあ? 何だよ人が寝てるときに』


テネブラエがしゃべった。とりあえずお前は人じゃなくて剣だろ。と突っ込みを入れておく。

でも、そうか……剣も居眠りをするご時世なんだなぁ……


「あ、あの……これって……」

「そ。魔剣。色々あってこの防具と一緒に手に入ったんだ」


そう言ってテネブラエをかざして見せた。


『はっはっは。崇めてもいいぞ姉ちゃん』


なんか剣がアホ言ってるんだけど。


「す、すごいですね!! 魔剣なんて! 私尊敬しちゃいます!!」


本当に崇め出したアルテナ。あらやだ、この子霊感商法に簡単に引っ掛かりそうだわ。

だが、驚いているのはアルテナだけではない。

その場に居合わせた冒険者も一様に驚いている。よほど珍しいものなのか、遠巻きにでも見ようと冒険者達が目を細めているのが分かる。

そんな周りの視線や歓声に気を良くしたのか、テネブラエは『ふふん』と鼻を鳴らした。


「ま、とにかくこれで任務受けられるよな?」

「あ、はい。それでは任務登録についてのご説明をしますね……まず、あちらをご覧ください」


アルテナが指差す方向を見ると、そこには巨大な掲示板が掛けてあった。


「あちらに冒険者の方が受けられる依頼書が貼り付けてあります。そこでご希望の依頼を選んでいただき、こちらの受付で受理されれば任務の登録となります。なお、依頼書には受理できる冒険者ランク、依頼物の特徴、報酬などが記載されています。中にはパーティーを組んでの護衛任務なども含まれますので、お一人の場合は受理できませんのでご注意ください」

「とりあえず、あっちの依頼書をこっちに持ってくればいいんだな?」

「はい」


ふむ、初任務だし簡単な採取任務とかの方がいいかな?

掲示板に向かおうと歩き出した俺だったが、数歩歩かないうちに何かにぶつかった。


目の前に広がる男の胸板……まあ、立派なお体だこと。


「よお、兄ちゃん。お前いい武器持ってんじゃねぇか!」


うわぁ……なにこのテンプレ。

でかい斧をぶら下げ、なぜか上半身裸。そんな馬鹿丸出しな目の前の巨漢にため息が出てくる。

見た目からして雑魚感がハンパ無い。


「あ~、何か御用ッスか?」

「ん~? お前みたいなひょろいガキにはそんな魔剣はもったいないって話だ」


はい。予想どおりでした。


「つまりかつあげってやつだな? どこの世界でも代わり映えしねぇな。あんたみたいなチンピラ」


と言ってもここまでのテンプレ、元の世界でもドラマの中ぐらいでしか見たことは無いが。


「分かってんじゃねぇか! ならとっととよこせ!」


チンピラがテネブラエに手を伸ばしてきた。さっきまで肉料理でも食べていたのか、チンピラの手が油でギットリしていたのが目に入った。


「ギャー! 汚い手で触んな!!」


俺は男の手を弾いた。挑発目的の台詞ではなく、実際に手が汚かったのだから仕方が無い。

普通に考えれば当然の行為だろうが、チンピラにはこれが癪に障ったようだ。


「ああ!!? ふざけんなガキ!! 痛い目みねぇとわかんねぇのか!!」


最悪だ……。油ギッシュな手で思いっきり胸倉を掴まれた。

鼻先にあるチンピラの手は、動物系の油の匂いと、加齢臭っぽいのが混ざり合ってとんでもないスメルが放たれていた。


「いやごめん! マジでごめん! 心の底から謝るからとりあえず手を離して! 臭いにもほどがある!!」


俺の台詞の意味に気がついたかは分からないが、チンピラは顔を真っ赤にして俺を突き放した。


「この野郎……おいお前ら! 囲め!!」


チンピラが声を掛けると、ギルド内にいた三人が俺を取り囲んだ。

威勢はいいが一人では喧嘩もできないのかこいつは。

ちなみに、チンピラが四人に増え、ややこしいため、これからは時計回りに、チンピラ一号~四号と呼ぶことにする。


「やれやれ……」


俺は深くため息をする。

まったくめんどくさい事をするやつらだ。

しかも周りに止めようとする人間はいない。ギルド内にいたのがほとんどこのチンピラーズだったことと、受付のアルテナがオロオロとしているだけだからだ。


「てめぇらやっちまえ!!」


チンピラ一号が怒号を上げると、俺を取り囲んだ三人が一斉に殴りかかってきた。中にはナイフを握っているやつまでいる。お巡りさんこの人です!!と言いたい気分である。

まあでも、心配はない。

なぜならば、俺は古武術が使えるという設定だからだ!!


はい。と言うわけでクッキングタイム。

まずチンピラ二号の顔面に右の肘鉄を喰らわせます。そしてそのまま回転し、左手でチンピラ四号のナイフを払います。そこから顎に掌底を打ち込むとなお良いですね。

チンピラ三号には足払いを打ち込み、バランスを崩したところを首に手刀を打ち込めば出来上がりです。

以上、佐山雄一の三十秒クッキングでした。


これでおしまい。あまりに単調過ぎて、戦っている風景が説明っぽく映ってしまったかもしれん。

あっという間に三人の屍(死んではいないが)の山が出来上がった。


当然、かなり手加減はしたのだが……


「……なっ!!」


チンピラ一号が絶句している。

無理も無かろう。自分が指示した後、十秒も経たないうちに取り巻きが三人もやられたのだ。


『ふははははっ!! 恐れ入ったかゴロツキども!! これが伝説の魔剣、テネブラエ様の実力だ!! てめぇらなんぞ束になっても敵うわけねぇだろうがっ!!』

「いや、お前何もしてねぇじゃん。俺剣使ってないし」

『俺の手柄は俺のもの。お前の手柄は俺のもの!!』


な、何と言うジャイアニズム!? やばい、勝てる気がしねぇ……


「こ、このやろう!!」


若干、置いてきぼりを喰らっていたチンピラ一号が斧を抜いた。

構え自体は隙だらけではあるが、その体格は俺よりも一回り大きい。そこから来る威圧感はなかなかのものだった。


「おいおい! こんな所で抜く……」

「うぅーーーるせえええぇぇ!!!!!」


すさまじい雄たけびを上げて切りかかってきた。

と言っても俺から見れば隙だらけであり、難なく剣をかわして懐にもぐる。


「はっ!!」


がら空きの腹に正拳を放った。

体格が違いすぎるので、先ほどのチンピラ達よりも少し強めに打った。が、それでも手加減はしていたため、次の瞬間に起こったことに、チンピラ一号どころか俺さえも驚くことになった。


チンピラ一号が宙を舞っていたのだ。……しかも十メートルほど先まで。

そして哀れなチンピラ一号は、宙を舞った後、待合室の机や椅子を巻き込んで床に落ちた。


「……………………なんだこれ?」


俺の倍近くの体格の男が吹っ飛んだ。

俺の放った拳のせいで。

どんなスーパーなマンだ俺は。

いくらなんでも偶然と言うことはないだろう。俺の力では、単純にチンピラ一号を持ち上げるだけでも一苦労だ。

そんな俺に今ほどの力は出せるはずが無い。もちろん、チンピラを見る限り「ふふ、実は拳が当たる際、後ろに飛んでダメージを軽くしたのさ」とかではなさそうだ。気持ち良さそうに気絶している。

ならなぜか?

………………パワーアップ!?

またまた、御冗談を……

だがしかし、俺の頭の中にある知識を用いれば、思い当たる原因が二つある。


一つはこの世界に来たことが原因。

もう一つはテネブラエを持ったことが原因。


…………どっちも、この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。に該当しちゃうなぁ。

とりあえず一つ確かめてみよう。


「おいテネブラエ。このバカ力ってお前のせいか?」

『いや? 俺に身体能力向上の能力はついてないぞ。それはユーイチに元から備わっていた力じゃねぇのか?』


どうやら魔剣の能力ではないようだ。

と言うことは、異世界に来たことが原因ってことか?

う~ん…………まあ、いっか。強くなってんのなら別に何が原因であっても変わりないだろ。うん。そう考えよう。自己解決!!


「ゆ、ユーイチさん!! 大丈夫ですか? い、一体なにが……」


アルテナが俺に声を掛けた。

現場の惨状に驚いている。

そして、アルテナの後ろには屈強な男が二人ついてきている。


「あ、この人たちはギルドの用心棒です。寝転がっている人たちです。拘束してください」


アルテナが指示すると、慣れた手つきでチンピラたちを拘束、連行して行った。


「ああ、いや、チンピラを殴ったら思いのほか吹っ飛んじまった。悪いな。ギルドの備品壊して」

「いえ、非はあちら側にありましたからあの人たちに弁償させますよ。でも驚きました、あの人たち、ランクこそCランクですが熟練の冒険者なんですよ? ユーイチさんがこんなに強いとは思いませんでした」


俺もこんなに強くなっているとは思わなかったよ。


「あ~、まぁな。とにかく任務の受付してもらってもいいか?」

「あ、はい。どれにしますか?」


俺は依頼書に目を向けた。だが、掲示板に貼ってあるものではなく、床に散らばっているものに、だ。

なぜなら、先ほどの騒ぎで掲示板の依頼書が吹き飛んでしまい、床に散乱してしまっていたからである。


「え~っと……任務任務~っと……」


依頼書を掻き分けていくと一枚の紙が目に入った。



討伐任務

フィルウルフ討伐 場所 アガルの森 十頭討伐 報酬 銀貨1枚 銅貨5枚。ただし十頭以上討伐の場合一頭につき銅貨1枚を上乗せ

冒険者ランクD 確認部位 牙二本


「これって受けられる?」


アルテナに依頼書を見せる。


始めは安全な採取任務をしようと思っていたのだが、先ほどの喧嘩で俺の古武術がこの世界でも通用するものだと確信したため、討伐任務をすることにした。

秘儀、変わり身の術!! 安全? なにそれおいしいの?


「はい……ランクDのフィルウルフ討伐任務ですね? ユーイチさんはFランクですけど、その3ランク上、ランクCまでは受けることができますので大丈夫です」


そういって受付に行くアルテナ。

しばらくすると俺のいた場所に戻って来た。手には依頼書とは違う紙が握られている。


「はい。こちらが任務の場所と討伐対象が書かれた受注書になります」


受注書

対象 フィルウルフ十頭 場所 アガルの森 確認部位 牙二本


「分かった。んじゃサクッと行って来るわ」


さて、なんだかんだでようやく初任務だ。腕が鳴るな。


いざ出陣!!



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