8 過去
佳奈は、ふうっと息は吐きしゃべり出した。
「綾瀬と私は高校の部活。バスケ部で出合ったのよ。そして時が経つにつれて気づいたの、彼女はあなた……力也君が好きってことが……彼女も私が好意を抱いてるって分かってたみたいで一年生の冬休みに言ったの、『私、三学期になったら力也に告白する』私は中学の時から力也君を好きだったから、取られちゃうんじゃないかと焦ったわ。そこで彼女と喧嘩になっちゃったのよ。殴り合いの。すぐに先輩達に止められたんだけど、お互い部に居づらくなっちゃって。……今に至るってわけよ」
……あれ……何まさかここでも俺が悪いって言うわけ?おかしいな……あれ?
漫画とかでは普通にあるけど、普通、喧嘩まではしないもんじゃないの!?分からないけどさ!
「えー……っと、うん。ごめん」
キョトンとした顔で言った。
「え?なんで謝るの?」
「だって、俺が原因っぽいからさ」
「……違うよ。力也君が好きっていう気持ちは綾瀬の本当の気持ち。そして喧嘩になったのは私の焦りから生まれた嫉妬。もし、告白したらどうなるんだろう?っていう。そこには力也君が謝る要素なんて一つもないよ。これは私と綾瀬だけの問題」
それは本当なのだろうか?これは佳奈の優しさなのではないだろうかと思った。だが、彼女の眼は決して揺るがない。これは俺を庇っているわけではない。真実なのだろうと悟った。
佳奈は立ち上がり言った。
「よいしょっと、力也君……今日は帰ろう。明日一緒に謝りにいこうよ」
「そうだな。……佳奈……座ってくれ。次は俺が言う番だ」
雰囲気が重くなったと感じたのは気のせいだろうか。
「……聞いてもいいの?」
「……佳奈の事を聞いたんだ。俺が言わないわけにはいかない」
「……うん、そうだね。」
俺は、深呼吸をしてしゃべり出した。
「俺は小学生の頃からサッカーをやっていて、全国大会でも名前が出てくるような選手だったんだ。中学にあがってからも先輩や顧問からも信頼があった。でも、俺は少しばかり才能があったがために人としては駄目になっていったんだろうな。先輩が引退し、二年生になり後輩が入ってきた。その頃から俺は他の奴のことを見下し、ひどいことたくさん言った。……ここまでは噂で聞いたことあるか?」
ここまで黙っていた佳奈は静かに言った。
「うん、聞いた噂と一緒だよ、でも私は力也君のことを好きでいられた。なんでだろ……たぶん根が優しいのを直感で気が付いてたのかもね」
嬉しいことを言ってくれる。でもここで終わりではない。続きがある。
「そして、三年生にあがった時に怒りが爆発した奴がいた……俺の一個下の弟だ。あいつは人一倍正義感が強くいつも止めに入ってた、それでも中々止めない俺に対して怒りが爆発したんだろう。そして練習中に殴りあった。ハタから見ればただの兄弟喧嘩だろう。だが違った。弟は俺は本気で止めにきていた。俺は結果として足の骨が折れ全治二ヶ月。最後の大会には間に合うが俺は出る気はなかった。足を怪我してベンチから試合する皆を見てたら……楽しそうにサッカーしてるんだ。皆試合だってのに自然に顔が笑ってるんだ。俺がピッチにいたときにはそんな顔はしていなかったと思う。それで俺はもうサッカーをしないと決めたんだ」
俺は過去を言い終え、思い出しあの時の孤独感を思い出した。
その時、佳奈は言った。
「あ……やっと分かった。私が力也君のことを好きでいられた理由。直感なんかじゃなかった」
不思議なことを言った。今の話しで分かることなんて……。
「何言って-」
「力也君が気が付かなかっただけだよ、練習中は分からない。でも少なくても試合中は皆楽しそうだったよ。力也君自身も皆笑ってた。私はその時思ったんだよ。『明るくて楽しそうなチームメイトだな。』って」
……そんなわけが……でも佳奈の眼は……嘘をついていない。
「でも、見下してきた連中がいたってのは本当だ。どちらにしても俺が悪いんだよ」
「それは私も否定はしないよ。でもね、ベンチも明るくて、力也君がゴールを決めると皆本当に喜んでた。まるで自分が点を決めたように」
涙が溢れたきた。……はぁ……本当俺泣き虫になっちゃったなあ~……くそ。あの頃に戻れたら俺は何をするだろう?またあいつらとサッカーがしたいな。次は心の底から楽しめるサッカーがしたい。どこから道を間違えたんだろうな。ちくしょう……戻りてぇよ……あの頃に……。なぁ、頼むよ神様一回だけで良いんだ。あの頃に戻してくれ……無理ならもう一回……もう一回あいつらとサッカーをやらせてくれよ。
「もう一回だけで良い……サッカーやらせてくれよ……」
自然に声に出てしまっていた。
「……大丈夫だよ。力也君本当に反省してるもん。次にチームメイトに会ったときにその気持ちを伝えればもう一回絶対にサッカーができるよ。絶対に」
なんで佳奈はそんなことが断言できるのだろうか……。
「ははっ、そうだな……って佳奈には言われたくないなぁ~……綾瀬さんとまだ喧嘩してるじゃないか」
「っう……力也君のいじわる……私は明日ちゃんと謝るよ。力也君も付いてくるんでしょ?」
「あぁ、俺も綾瀬に謝らないとな」
佳奈に過去の事を言って本当に良かった。問題は解決してないが、前に進んだ気がした。
「私緊張してきた。どうしよ、ちゃんと謝れるかな……」
「何今から緊張してんだよっ」
「へりゃっ!?」
俺は乱暴に佳奈を抱きしめた。はぁ~……落ち着く。
「佳奈ありがと。俺少しだけ気持ちが軽くなったよ。今度会ったらなんとしてでも許させてもらうよ」
「……なんか日本語おかしいよ。それに私そんな褒められること言った覚えは……えへへ」
最後に照れ笑いをしながら言った。
「抱きしめてもらうのってこんなにも気持ち良いんだね。力也君の体温が伝わってきて心が落ち着くよ」
あぁ、と言い少しの間抱き合っていた。
佳奈を駅まで送って行き。帰宅した。
今日はもう寝るか。と思った時ケータイが鳴った。
大輔からだ。
『吉見大輔』
「明日の朝から俺一人で登校かー……寂しいな……なんてな!綾瀬の事は心配すんなよ。もうお前は悪くねーから」
……大輔を友達にもって本当に良かったと今になって思った。
「でも、綾瀬さんには一回ちゃんと謝りたい」
と返信した。
『吉見大輔』
「分かった」
とだけの短い返事が返ったきた。
俺はケータイを閉じベッドにもぐりこんだ。
白泉力也は、古城佳奈の言葉のおかげで少しだけ救われた。今後どんな事が起きようと佳奈といれば乗り切れると信じて目を閉じた。
楽しくかけました!シリアスな場面で楽しくかけると思ってもませんでした!
ここまで読んでくださってありがとうございました!!