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COMPLEX VARIETY!  作者: Tm
一条一家シリーズ
8/11

FAMILY FOOLISH!

 そりゃあ好き合っている男女なら。

 と、これがまた免罪符のような問答無用のフレーズがある。妙に生々しく感じるのは年頃の潔癖さゆえか、穿ちすぎなのか、そんなこたあどうでもいい。

 問題はそう、その度合いというか、程度というか、はたまた種類というかもしくはレベルと測るべきか。どう定義したものかは知れないけれど、つまり、まあ有体に言えば内容による。その内容こそ、問題提起の主題である。

 つまり何が言いたいかというと

――おいこらイチャついてんじゃねーぞバカップルが、と言いたいけれど果たしてこれはバカップルと呼ぶに相応しいか否か?――だ。



「始さん、痛くないですか?」

「うん、大丈夫だよ。気持ちいい」

 議題その一。膝枕で耳掃除のコンボはバカップルか否か。

 ここで太ももでも撫でさすって「気持ちいい」「イヤンばかん」見たいな事を締まりの無い顔で応酬していたら間違いなくバカップルだ。遠慮なく冷めた視線を浴びせることができる。

 ロケーションも大事だ。リビングのソファで膝枕。家族内公共の場でのその行いは、突然目にした子供から見てみれば些か衝撃的なものがある。

 あるにはある、のにも関わらずこの有様。人がリビングに入ってきても「やだっ」とか言って照れる素振りもなければ気にする素振りもない。ごく普通に膝枕って膝枕れて耳掃除って耳掃除られて、それ以上でもそれ以下でもない。

 これ、バカップル? バカップルなの? ていうかどっちかというと――熟年夫婦みたいな空気をそこはかとなく感じる。判断しかねる。


 議題その二。お風呂上りに髪を乾かしあいっこする。

 これはバカップルだろう。バカップルだな。しかもまたリビングだし。少しは人目というか子供のメンタル面を色んな意味で気にしろよ。

 つっこむところは諸々あれど、これは間違いなくバカップルだ。そう思ってじろりと睨みつけようかと一瞥したその時に、二人の様子をまじまじ観察してみた。

 一条さんがソファに座り、お母さんがその足の間に座って髪を乾かしてもらっている。一条さんはにこにこ穏和な笑みで優しくお母さんの髪を梳き、お母さんは――。

 お母さん。何、その蕩けそうな顔は。なんか、こう、ホント蕩けそう。飼い主さんに顎の下をくすぐられている猫というか、お腹をわしゃわしゃしてもらっているわんちゃんとか、そんな類の蕩けそうな顔をしている。

 小動物だ、小動物がいるッ。飼い主に撫でられてものっそい気持ち良さそうな顔してるッ。

 ば、バカップル? バカ、バ――飼い主とペット? 判断不能だ。



「ってことなんだけど、どう思う?」

 行き過ぎたら忠告も辞さない覚悟だったんだけど、行き過ぎてはいないというか、私の思っていたバカップルとはほんの少しベクトルがずれていてどうとも言えない。曖昧なままでは言及もできないので、新さんに聞いてみた。どうにもハッキリさせたくてお風呂上りに廊下ですぐさま直撃した。

 しっかし、まるで茹でたて剥きたてほやほやのゆで卵のよう。上気した頬に張り付く濡れた髪が悩ましい。とかいちいち観察している場合じゃない。

「どうって……」

 そんなこと聞かれても。って顔をしている。だよね。しかもお風呂上りになんだよって感じだよね。というか新さんに聞いたのがそもそもの間違いだったかも。

 やっぱりもういいや、と撤回しようとしたとき、顎に手を当ててなにやら思案していた新さんが、思い立ったかのように顔を上げた。

「なに、なんか解った?」

「うん。ちょっと、来て」

 おう、行く行く。作戦会議でもするのだろうか。

 導かれるままに新さんの部屋へと赴き、そしてさっと差し出された。

「……ナニコレ」

「ドライヤー」

「知ってる」

 不毛な会話を交わしつつ、手渡されたそれではなく新さんをまじまじと見つめる。

 ――私はドライヤーが欲しいんじゃなくて答えが欲しいんだけど。

 ――その話を聞いて無性に髪を乾かしてもらいたくなったんだけど。

 真剣に見つめあい、無言の応酬にて結局、新さんが勝った。

「解ったよ……」

「うん」

 私が観念すると同時に、新さんはソファに腰を下ろした。私もなんだかんだ思いつつもコンセントを繋ぎ、新さんの真後ろに立つ。

 いやあ、それとこれとは別として、ちょっと私も気になってたんだよね。人に髪を乾かしてもらうのってそんなに気持ちいいんだろうかとか、人の髪の毛乾かすのってそんなに楽しいんだろうか、とか。

 あの二人がさぞや楽しそうだったので、ついつい好奇心が。きっと新さんも私の話を聞いて好奇心が湧いたのだろう。後で感想聞いてみよーっと。

 主題が摩り替わったことに気付く間もなく、ドライヤーのスイッチをONにした。


 ――結論。

 人の髪を乾かすのは意外と加減が難しいかもしれない。あと、あれ以来新さんは二度と私に髪を乾かさせることはなかった。




「いて」

「あ、ゴメン」

「い……ッ」

「あ、ゴメン」

「……ッ」

「あ、ゴメン」

 ガッとか、ゴッとか、通常ドライヤーで髪を乾かすときには聞こえない音が、新の部屋から聞こえてくる。

 ほんの僅かな扉の隙間から中を伺う二人は、微笑ましいとばかりに生温い眼差しで髪を乾かしあう子供達を見守る。勿論そのうちの一人は一人はデジカメのレンズを通してその様を見つめている。

 寄り添う二人がドアに侍りつくように熱心に子供を盗撮しているという、シュールを通り越して異様な光景を指摘するものはいないので、二人は安心して目の前の子供劇場を観覧続行。

「バカ可愛いなー、うちの子達は」

「始さん、よく解りましたね。二人がこうするだろうって」

「んー? まあ、楓ちゃんがこっちを熱心にみつめていたからねー。そのあと新の方にすっ飛んで行ったし、もしかしたらって思ってさ。そしたら案の定」

「そのお陰で今日もいい絵が撮れましたねー」

「ねー。本当に期待を裏切らない子を持って僕は幸せだなー」

「私もですよー」

「ねー」

「ねー」

 にこにこ頷きあう親バカの目線の先には、楓にドライヤーで頭を何度も小突かれる新の姿があったそうな。

「新さん、髪乾かしてあげようか」

「いや、いい。頭蓋骨陥没しても困るから」

「んちゃ! って私はアラレちゃんか」

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