OTHERS!
時系列:楓→高校二年生。新→高校一年生。入学して三月経ったか経たないか、くらい。
「お前さ、何様なの?」
なにさま。出来れば王様ゲームの王様になってみたい。なーんて言ったら、ぶっ飛ばされるんだろうなあ。そんな剣幕で、彼は言った。
「あいつ、お前のことすっげー慕ってんじゃん。見てても解るよ。なのになんなの、あんた。いやに新に冷たくね? なんか恨みでもあんの? あいつの姉貴なんだろ?」
て言うかその前にアンタ誰ですかまず自己紹介してから文句垂れてくれませんかね。
放課後に呼び出されたと思えばこれですよ。流石に告白とまでは勘違いしないけどね、まさか新さんのことで男に文句言われる日が来るとはあーた、夢にも思いませんことよ。恐るべし新さんフェロモン。
校舎の壁に寄りかかりつつそんな事をちくちく考えていると、顔の横にばん! と平手を突かれる。わお、お約束ゥ。どうでもいいけど君、体格いいね。バスケ部かなにかかしら。見上げているとやや、首が疲れる。
「聞いてんのかよオネーサン」
「聞いてますがその前にこちらもお聞きしてもよろしいでしょうか」
慇懃無礼に言い返すと、敬語が耳慣れないのか怪訝そうな顔を浮かべた。すかさず畳み掛けてみる。
「私、二年七組の出席番号は六番、一条楓と申します。対するあなたについてお尋ねしますけど、学年とクラス、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。あ、出席番号、好みのタイプにつきましては、黙秘可能ですけれど」
「いや、つーか好みのタイプって」
「うん別に興味はないんですけどね。せめてホモかヘテロかだけでも確認できればなーって」
なにを言ってんだこいつ、てな顔をされる。そんなこと言ったってねえ? その辺確認しなきゃ私の対応というものもまたベクトルが違ってくるというもの。ライクかラブか。その辺りの見極めは重要だと、お姉さんは思うのですが。じっと待っていると、少し戸惑ったように目を泳がせる。
「いや、てかなんでこの状況であんたに自己紹介しなきゃなんねーの」
「身元を晒せないけど私には文句を言いたいと。匿名乙」
「ハア?」
「いいんですよ。私は何も知らなくても。ただ貴方が私に直談判するに当たり自身はなんの情報も開示せずに自己主張したと、ただそれだけの情報が私の中にインプットされるだけですので」
ひく、と彼の表情が引きつる。存外正直なタイプのようだ。人を呼び出すにしてもこんな人気のないところで二人きり。誤解してくれと言っているようなものだけれど、その辺りこの体勢も含めて自覚はあるんだろうか。なさそうだな。脳筋っぽいし。
と、つらつらどうでもいい考察をし始めたところで私の視線に耐えかねた彼は身を起こして不機嫌そうに顔を背けた。
「一年一組出席番号は十七番、相模明だっ」
これでいいか文句あっか好きなタイプなんていわねーぞっ。と言わんばかりの顔で彼は答えてくれた。新さん、随分といじりがいのあるお知り合いがいることで。いやはや、若干羨ましいぞお姉さんは。
じーっと危ない目つきで見ているのがばれたのか、その相模君とやらは毛を逆立てるように警戒して一歩後ずさった。
「なんだよ!」
「いや、その言葉そっくりそのまま進呈します。私に言いたいことがあるんでしょう? 自己紹介も済んだことですし、どうぞ?」
このままうやむやにしていじり倒して追い払ってもいいが、いかんせんこれから夕方の再放送がある。早く帰りたいので巻きでいきます。ちゃちゃっと聞いてさっさと帰ろう。
「……いや、あの、あ~……っと」
オイ。いい加減にしろよ。出鼻くじかれたから言いたいことすっ飛んだとか言うんじゃないだろうなふざけんじゃねーぞこちとら時間との勝負なんだよテメーのちゃちな正義感に付き合って見逃したらどうしてくれんだこのスットコドッコイ。
頭の中で罵詈雑言、表面上はにっこり仏の笑みで対応するお姉さんです。出来た姉を持って幸せね、新さん。
「解りました。では纏まりましたらその旨ご連絡ください。週休二日土日休みで午前七時より午後十一時まで受け付けておりますので、その間にご連絡くださいますよう、お願いしますね。これ、専用アドレスです。ではごきげんよう」
「あっ、おい」
颯爽と去る、姉。その後姿は見るものたるや唖然とさせるほど、清清しい去り様だったという。
……だといいなとか考えながら、家路に着いたある日の出来事。
後日、彼から連絡が来たかというと、そうでもなかった。ただ新さんがひどく陰鬱としたオーラで『相模という男を知っているか』と聞いてきたので、知らないと答えた。彼の日の出来事で私の記憶に残っているのは再放送のドラマの悪人だった主人公がいい人になった途端腹を刺されてぶっ倒れーなエンドだったということだけ。
あ、アドレス? ダミーですダミー。いちいち答えてたら身が持ちませんってえ。アハハ。
作者の筆力不足による必死な補足説明:
新さんのお友達の相模君が、姉より冷遇を受ける彼に同情し鬼畜姉に直談判に向かったところ見事返り討ちにあい、後々我に返って律儀にアドレスに連絡してみたものの繋がらず痺れを切らして新さんに詰め寄ったらあらまあ本末転倒、事が発覚して新さんにより懇々とお説教をくらい釘を刺されましたというオチ。
ついでにその後相模君が姉のキャラに興味を持ちかけたので新さんはフラグが立ったと早とちりして大真面目に相模君を脅しました。