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脱退理由

「……え?」


今のは完全に抜ける流れだったじゃん、というツッコミはさておき。


ルカが強制するような言葉を選ぶことは滅多にない。出会ってからの6年間でも数える程度しかなく、生死を分けるような逼迫した場面以外で聞いたことはなかった。

命の危機と同程度のことを無自覚にやらかしてしまったのかと狼狽えていると、アルトが不機嫌そうに目を眇める。


「パーティから、1人だけ脱退。理由は不明」

「……あ〜」


この世界では、冒険者がギルドから依頼を受ける場合、個人としての実績の他に、パーティとしての実績がギルドに記録される。

今回の場合、俺は落葉星の雨(このパーティ)から抜けるが、落葉星の雨(パーティ)そのものが無くなる訳ではない。そのため、落葉星の雨(パーティ)に紐付けられた実績はそのまま残り、解散まで保持されることになる。


真昼間から酒を呑んで冒険者ギルドに来るような、ろくでもない暇人が、『落葉星の雨は仲間から実績を奪って追い出した』なんて噂を立てるのは火を見るより明らかだった。

それどころか、余計な尾ひれが空を飛べるほど生えたっておかしくない。


「ごめん、俺が考え無しだった」

「ふん。もし抜けるとしても、解散してから組み直す形にするから」

「変な噂にでもなったら最悪だもんな」


鼻を鳴らすオルトに、素直に頷く。


それはそれとして。

俺とルカの2人から始まった、約6年分の実績。手放すことには何とも思わなかったが、無くなると考えると、途端に勿体ないような気分になってくる。

加えて、個人実績は残るとはいえ、解散してしまえばパーティとしては0からのスタートだ。俺のために苦労を強いるような真似はしたくないが、何か良い案は無いだろうか。


そんなことを考えていると、アルトの眉間に皺が1つ増えた。


「何、他人事みたいな顔してるの」

「、無責任だった。ごめ、」

「そうじゃなくてさぁ……!」


声に怒気が混じったアルトの肩を、大きな手が優しく叩いた。ヴォルフだ。

アルトはちらりと手の主を見て、それから俺のことを睨むと、仏頂面のまま奥にあるソファまで引っ込んだ。


その背中を視線で追いかけた後、説明を求めるつもりでヴォルフに向き直る。


「アルトが心配しているのは、レオのことだ」

「俺?」

「もし、レオは落葉星の雨(パーティ)から追い出される程の問題児である、などと周囲に勘違いされれば、新しくパーティを組むことは難しくなる。アルトが気にしているのはそこだ」


それは、一瞬だけ頭を過ったものの、すぐに捨て置いたことだった。

多少評判が悪くとも、ギルド員から依頼を受けるだけなら、特段困るようなことはない。冒険者と依頼の橋渡しをする立場として冒険者の生存率に深く関わるギルド員が、噂に踊らされて相手の実力を見誤るような人間では、ギルドそのものの信用に関わるためだ。

パーティを組みにくくなるだけで依頼自体は受けられるなら、どうとでもなる。


幸い、手数の多さは【器用貧乏(ギフト)】が保証してくれる。確かに落葉星の雨(このパーティ)では1番弱いが、受ける依頼を選べば、そう易易と死にはしない。


「大丈夫だって。暫くはパーティ組まないでソロでやるし、俺も冒険者としては中堅だしさ」


握り拳で胸を叩いてみるが、返ってくるのは形容しがたい表情だけだった。

冷たい沈黙の中、どう説得したものかと考えていると、ふと袖を引かれる。袖の先を見ると、いつの間にやら近づいてきたらしいシュナがいた。


「レオ、意固地?」

「ちげーよ。てかシュナまで止めるのか」

「当たり前。ね、ヴォルフ」

「ああ。さっきはアルトが心配している、と言ったが、心配しているのは俺も同じだ」


ヴォルフの肯定に続くようにして、他のメンバーからも頷きが返ってくる。

自分の信用の無さに悲しくなっていると、シュナが聞かせるように大きくため息を吐いた。

鳥系モンスターの群れに育てられたシュナは、会話こそ辿々しいが、表情は豊かだ。これは間違いなく呆れている時の顔である。


「強い、死ぬ、関係ない。1人死ぬ、気づかれない」

「!」


消息不明になる冒険者は後を絶たない。

その内の半数以上は、ソロの冒険者だ。


根無し草だからこそ面子を大切にする冒険者と言えど、仲間を見捨てることはある。しかし、逃げ帰ったその先で、救助依頼を出すなり、報告するなりすれば、仲間が死亡したことを誰かに知ってもらえるだろう。

ソロの冒険者は、死んだことを誰かに知られるよりも、死体を喰われる方が速い。結果として痕跡が残らず、消息不明として処理される。


「レオ死ぬ、シュナ、葬式行く。できない、シュナ怒る。死んだレオ、起こす!」

「それは勘弁してーなぁ」


ジェスチャーを交えながらの力強い発言に、穿ち過ぎていた申し訳なさが募る。つい見くびられているのかと思ってしまったが、そんなことはなかったらしい。

頭を振って、1度感情をリセットする。


「でもやっぱ、俺はソロになるよ」


俺にできることなんて、高が知れている。このままパーティを組み続けていた方が、生存率は高いことも理解している。

それでも、俺はパーティを抜けたかった。


ソロに惹かれるのは、落葉星の雨(このパーティ)以上のパーティに出会える気がしないと感じるせいも、あるかもしれないが。


「レオ、意固地」

「だからちげーって」

「理由、レオ言わない、珍しい。シュナ待った。でも言わない。レオ言わない、わざと、違う?」


区切られた言葉に、責めるような色は無かった。ただ、誤魔化すことは許さないと、真っ直ぐに見つめられる。




本当は、力不足が申し訳なかった訳ではない。

ただ、役立たずの自分を直視することに、耐えられなくなっただけだ。


俺の中にあるのは、置いていかれる前に離れることで、惨めさを少しでも軽減しようとしただけの、ただの保身と。

いつか、実力不足で腐った自分が、仲間を逆恨みするような、そんな未来が訪れることへの恐れだけだ。


なんて。


「言えない?」

「……言いたくない。不義理だとは思ってる、ごめん」


少なくとも後から迷惑をかけるような真似はしないから、そこだけ信じてほしい、なんて言葉は虫が良すぎて口にできなかった。

目を合わせていられない。


「良いよ」


耳に届いた声は、想定していたよりもずっと柔らかかった。

反射的に頭を上げると、仕方なさそうに目を細めて、シュナが笑う。


「言えない違う、なら良い。シュナ満足。ヴォルフ、アルト、良い?」

「リスクを承知の上で、レオが自分で決めたことなら、俺は構わない」


そう言って、ヴォルフは深く椅子に座り直し、静かに目を閉じる。これ以上は口を出さないという、分かりやすいアピールだった。

理由を言わずに済んだ安堵と、安堵への自己嫌悪を無理矢理呑み込んで、笑う。


「ありがとう、2人共」




「僕はパーティを抜けることに怒ってる訳じゃないから、終わってからにするよ。良いよね、レオ」

「あ、はい」

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