【祝】パーティ脱退!
「俺、パーティ抜けるわ」
ぽかん、と間抜け面を晒すパーティメンバーに、思わず笑みがこぼれた。
転生したら異世界でした、なんて、フィクションなら擦り切れていても、現実では錯乱を疑われるような展開。
生まれ変わった当初こそ混乱したものの、せっかく魔法も魔物もいるファンタジーな世界に生まれたのだから、と、仲間を集めて、強くなって、王道主人公みたいな冒険を楽しんだ。
直近ではヒュドラ討伐を成し遂げたので、冒険者兼第2の人生の走者としては、勝ち組街道爆進中と言っても過言ではない。
まあ、それもここまでだ。
この世界には、魔法やスキルの他に、ギフトと呼ばれるものがある。
大抵は生まれたときに授かるもので、もし発現すれば、確実にその才能や適性が開花する。故に、誰が言ったか──神様からのお墨付き。
【直感】のギフトなら勘が鋭く、【夜目】のギフトなら暗闇でも物を見分けられるようになるし、【水魔法】のギフトなら水属性魔法の分野で大成することも夢ではない。
そんな世界で、俺のギフトは【器用貧乏】。
様々なスキルや魔法を身につけることができる代わりに、どれも道半ばで終わる、広く浅くの究極系。
【完全無欠】でも、【器用】ですらない俺のギフトでは、分野を絞ったとて、その道の達人になることは不可能だった。
こういうのって、転生チートで俺TUEEEなオールラウンダーになるもんじゃないんですかね、神様。
と、愚痴を吐いてはみたものの、ギフトのお陰で手数は多く、そうそう死にかけることもない。
命の儚さを如実に感じるこの世界では、十分すぎるギフトだろう。
でも、それは俺から見た話だ。
『レオって、雑用係どころかただの寄生虫だよな』
あー、他人からはそう見えてんのかぁ。
でも確かにそうかも。
冒険者ギルドで陰口を叩かれた時、憤りや悔しさよりも先に、少しの驚きと納得が来た。
陰口を叩かれること自体は別に珍しくもないことのため、相手の顔はもう忘れてしまって、この言葉だけが耳に残っている。
俺がパーティに必要な人材かと聞かれると、別にそんなことはない。
状況や依頼に合わせて、役職や装備を使い分けながら戦う俺だが、単純な話、そんなもの不要くらい俺の仲間は強くなっていた。
ゲームでも、序盤は敵の属性に合わせてチームを編成していたが、育成が進んでいくと固定チームで殴るようになる、なんてよくある話だろう。
剣士、盾役、斥候、魔法使い、治癒師と、編成のバランスも良い。
プラスアルファからおまけに成り下がった、名ばかりサポーターはもう必要ない。
更に上を目指すなら、雑用すらマスターできない【器用貧乏】で、能力の天井が決まっている俺よりも、もっとパーティに貢献できる仲間をつくるべきだ。
少なくとも俺が抜ければ、1人当たりの分け前は増える。
ヒュドラの討伐も終わったし、名残惜しいけど、きっと丁度いいタイミングだろ。
そう考えて、俺は次の依頼について盛り上がるパーティメンバーへ声をかけた。
大型依頼のために借りた俺たちの拠点は、外から子供の声が聞こえる程度には治安の良いエリアにある。
まあ、それだけ室内が静かって話でもあるんだけど。
パーティ名である『落葉星の雨』にちなんで、星空と秋の森が彫り込まれた丸いテーブルの上では、先ほどまで主役だったはずの依頼書の写したちが悲しげに転がっている。
揃って呆気に取られているパーティメンバーには申し訳ないが、笑顔を隠す気はなかった。
人を足手まといだなんて考えない、そういう人間ばかりなことは分かっていたが、実際に驚いてもらえると、やはり少しだけ安堵するし、あたたかくなる。
ご機嫌に仲間たちを眺めていると、最初に硬直が解けたのはヴォルフだった。
「……誰かに、何か言われたのか」
「言われたっつーか、抜けるべきだなって俺が思っただけだよ」
ただでさえ厳つい顔を更に強張らせながら搾り出された言葉を、首を振ってちゃんと否定しておく。
脱退の理由を聞かない辺り、俺が陰口を叩かれてることは既に知っていて、その上で俺の耳に入らないようガードしてくれていたのかもしれない。
というか十中八九そうだろう。流石盾役。
「ぶちのめす? シュナ、覚えてる」
「話聞いてたか? 要らないからな。まじで大丈夫だからな」
こくり、と静かに頷くシュナを、両手を振って宥める。
斥候してるだけあって目も耳も良いシュナが、陰口に気づいていること自体は分かっていた。雑魚の遠吠えは無視するタイプだと思っていたから、わざわざ相手の顔や声を覚えていることは予想外だったが。
あとでもう1度釘を差しておこう。
「いや抜けるって言ったって、その後の予定は? 見通しは立ってるの」
「ソロでやるってくらいで、それ以外は全然。相談乗ってくれたりしない?」
「無理」
口を開く前から不機嫌そうだったアルトには、俺の完璧なノープランはお見通しのようだった。
魔法使いらしいって言い方は良くないが、神経質なところのあるアルトからすれば、信じられないことをしてる自覚はある。
でも少しくらい検討してくれたって良くないか。
「私たちに、何かできることはありますか?」
「ううん。むしろ今までありがとな」
心配そうなリリーに笑顔を返しても、余計に眉を下げるだけだった。
治癒師として後衛にいるリリーは、戦闘中の俺の危うさを1番見ているはずだ。不安になるのも当然だろう。
そんな顔をさせるくらいなら、もっと早く抜けるべきだったかもな、と申し訳なさが積もる。
「もう、決めたことなんだね」
「うん。勝手に決めてごめん」
「ほんとにね?」
「ごめんて」
パーティを抜ければ、ルカとこうしてじゃれ合うことも無くなるのかと思うと、正直なところ寂しい。
駆け出しの頃、ギルド員の勧めで何となく組んでから、ずっと一緒に戦ってきた、俺の最初の仲間。
いや、ルカの最初の仲間が、たまたま俺だった、が正しいか。
まあ最初の仲間って、得てして入れ替えられるもんだし。
ここまで来れて、終わりまで綺麗とか、俺って運良いな。
ひっそりとそんなことを考えていると、1つ頷いたルカが、改めて口を開いた。
「でも駄目だよ」
「エッ」




