08 下準備・成功? - 大怪盗マスク・ザ・ヴァイオレットのエレガントスーツ
ディバイン・セイバー完結記念、クリスマスプレゼント企画!
短期集中連載でお送りしております。
下準備編その2、本日2話目となります。前話をお読みでない方は、そちらからどうぞ。
「おっかしいよなぁ……なんでミーシャは、いつもぼくの仕事に協力してくれないんだろう」
徐々に深まる冬。
屋外は昼間であっても肌寒く、人々は分厚い上着を羽織り、しっかりと前を閉じて足早に歩みを進める。
活気の控えめな街の、さらに人気も少ない裏路地。ぶつぶつと独り言を呟きながら一人の少年が歩いていた。
「ミーシャなら外見だけはすごく可愛らしいから、さらわれ役としていいと思ったのになぁ」
適当に伸び始めた黒髪に、少し細めの黒い瞳。いずれもこの国では珍しい色合いだ。
平手打ちにより真っ赤に腫れてじんじんと熱を持っていた頬を、隠すように手のひらでさする。
中肉中背とも言うべき平均的な体躯を、この上ないほど身体にぴったりと合ったくたびれた黒の対刃ジャケットに包み、少し小さめの靴でゆっくりと歩く。
「ああ、でもちょっと乳が大きすぎるな。
流石にあの無駄に膨れ上がった脂肪では、バランスも悪いし少女らしさに欠けるしぶっちゃけ牛かな?」
本人に聞かれたら天竜惨殺撲滅フルコース(命名:少年)で三日間くらい寝込む羽目になりそうな迂闊な事を呟きつつ、少年は歩く。
すれ違って乳だの牛だのぶつぶつ言いながら歩く姿を見聞きした通行人が、地元のおばちゃんではなく旅人らしき男性だったのは、今後のご近所付き合い(およびその後のお仕置き)において非常に幸運な事であったと言って良いだろう。
牛な乳さえなければ魔法少女にだってなれるのになどとぶつぶつ呟きつつ。人通りの少ない路地を過ぎ、角を曲がってさらにもう一本奥へ。
やがて大通りの喧騒も聞こえなくなった頃、やっと目的地に着いたのか、少年は足を止めた。
一見するとただの民家のようで、何の装飾もない建物だ。
扉の脇にひっそりと立てかけてある目立たぬ看板をしばし見つめてから、いまだに燻る熱を感じる頬をさするのとは逆の手で、ゆっくりとドアノブを捻った。
薄暗い店内に入った少年を迎えるのは、華美な衣装を身にまとった物言わぬ令嬢―――マネキン達。
鮮やかに、艶やかに。されど無機質に着飾った彼女らの間をすり抜け、奥へと進む。
作業場へと続く扉の脇、売り場の最奥には、ここが展示場ではなく販売店である証としてのカウンターがあり、その上には一人の人間が居た。
そう。カウンターの上に、人間である。
その人間は、売り物でもある女性用の豪華な古着を纏い、カウンターの上に立ってポーズを取っていた。
指先を高く伸ばしつつも微動だにせぬその姿は、店内の暗さも相まって、知らぬ者が見れば何故カウンターの上にマネキンが居るのかと疑問に思う事だろう。
そのマネキン然とした人物を見上げ、少年は呟く。
「今日はスカートじゃなくズボンなのか」
「これは失礼、同志よ。
やはり見上げる先に奥深き布の森に隠された最奥、神秘の泉を包み込む白きパンティぃぃぃっをお望みであるか、同志よ」
「いいえ、結構です。
女装家に、興味ないですから」
始めからマネキンじゃないと知っていながら、マネキンに命が宿る瞬間に立ち会ったような、奇妙な違和感と感動。
何度も感じたそれらを脇においやり、ズボンのまま片足を上げて踊り出した人物に嘆息と共に言葉を返す。
「と言うかそもそも同志じゃないです、女性の古着愛好家じゃないです。店長さんみたいな変態と一緒にしないで下さい」
「おお何と嘆かわしい、同志よ。
未だ己の中に眠る可能性の芽吹きから目を背けるか、同志よ。
もったいない、じ・つ・に、もったいない、同志よ! つまりこの私が手ずから直々に同志を調教して女性の服でしか快感を得られぬ身体に―――」
「あー、今日は営業日じゃなかったんだー。お邪魔しました、帰りますー」
胸の内から溢れ出す『帰りたい』という気持ちを大切に育みたい。ほんの少しでも躊躇ったり逆らったりしてはいけない。
滔々と語る『店長さん』の態度に、今日は駄目だなと早々に見切りをつけると、少年は挨拶もそこそこにお店の入口へと踵を返す。
その様子にぴたりと舞いを止め、店長はカウンターの上から空中二回転して少年の目の前に着地した。
アクロバティックな動作に一瞬遅れ、衣装のいたるところに付けられたフリルやらリボンやらが羽根のようにふわりと舞い降りる。
その計算し尽くされた店長の美しい動きにやっぱりため息をつきながら、少年は足を止めた。
足を止めた理由が、店長が遠い世界から帰ってきたと判断したからか、ただ単純に帰り道を塞がれたからかは深く考えるべきではないだろう。
「良ーいだろう良いだろう、同志の調教計画を焦る必要はあるまい、同志よ。
つまり、今日のところは私の経営する女性古着愛好店『ドールユーズド』のお客様として、同志の事をお迎えしてみせよう、同志よ!」
その赤紫に輝く瞳が少年を真っ直ぐに見つめ、怪しげな笑みを浮かべた赤い唇に指を這わせる。
真っ直ぐ差し延べられた白い指先に真っ赤な爪が煌めき、短いながらも美しく手入れされた髪とあいまってまさしく人形のようだ。
ほっそりとした起伏のない身体と、男性とも女性ともつかぬ美貌の店長がようやく店の主人として起動した事に、小さく安堵しつつ。あるいは、帰りそびれたことに落胆しつつ。
この美貌の変態に会う度に毎回繰り返されるやりとりと疲労感に、苦情を申し入れずには居られない。
「今日のところだけじゃなく、永遠にただの客です」
今日この瞬間だけに限定して勧誘を諦めた様子の店長の勢いに、嘆息とともに今後もずっと客として扱う要求を述べる。
そんな、少年からすれば至極真っ当な、一般市民としての顧客要求に過ぎない発言であったのに。
「お、おおお……」
それを聞いた店長さんは、身体を折って苦悶のうめき声をあげると――やおら、天にも届けとばかりに悦びを爆発させた。
「すっ! ばらっ! すぃぃぃーっ!!
私と同志の絆は、永遠に続くのだ、どぉぉぉぉっしよっ!」
「揚げ足の取り方がイヤすぎる……」
店長さんのテンションが上がれば上がるほど、少年のテンションは店舗の床をすり抜けて地底深くにずぶずぶと沈んでいく。
その力ない苦み走った笑みは、少年の秘書である冷たい少女のお仕置き後の顔と非常によく似ていた。
こうして少年は、数々の困難を乗り越えて、王都の劇場を賑わした大怪盗マスク・ザ・ヴァイオレットの衣装を手に入れたのである。
それが、自分自身に二度も絶望をもたらす事を知らずに――
ゲーム開始時点で死んでいるモブキャラが、独特のノリで死に掛けたり死んだりいちゃいちゃしたりと次々に大活躍!
だいたい100万PVの大人気御礼、遂に第一部完結しました!
ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~
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