16 エピローグ - 名無しの少年の地味でくたびれた黒いジャケット
ディバイン・セイバー完結記念のクリスマスプレゼント企画、短期集中連載
『どんな衣類もジャストフィィィット!』
最終話です!
シンデレラの靴は、ガラスで出来ていたからこそあのような形で持ち主を探す事が出来たのだ。
もしもあの靴が革で出来た物であったなら、無理やりに足を突っ込むことも出来るし、縦横の長さ比や土踏まずや甲の高さなど、微妙な差異であれば革のしなやかさが吸収してしまっただろう。
固く、硬く、そして無体を許さぬほど脆い。現実に利用するには全ての要素が都合の悪さしか与えぬとすれども、持ち主の唯一性というただ一点において非常に優れた特性となりえたのだ。
衣類が人を選んだ、世界における最も素晴らしい例の一つであると言って良いだろう。
そんな、己の能力を授かった際の売り文句を頭に思い浮かべつつ、少年はカウンターに折りたたんだ衣服を置いた。
「同好の士と書いてどぉぉしよっ、先日購入したこの服がどうかしたのかね?」
「同好の士ではないので、売却します」
カウンターに置かれたのは、店長の言う通り先日にこの店で購入した衣服。
すなわち、かつて王都を賑わせた劇団員が身に着けていた、大怪盗マスク・ザ・ヴァイオレットのエレガントスーツである。
「なんっの役にも立ちませんでした!」
「ほうほう、それは何とも感慨深い」
力いっぱい不満を口にする少年に、美貌の店長はとても嬉しそうに微笑んだ。
「それすなわち、女性の服でなければ満足できぬ身体であるがゆえ男物の服ではなく女性用の衣服を切望するということであるな、どぉぉぉぉしよっ!」
「全然違います」
少年は食い下がるが、およそ変態の店長に正論など通じない。
中古服店であるくせに、いくら言っても下取りではなく女性用の衣服一式との交換しか認めぬ店長。
だったら女物の服を持って帰るよりはまだマシかと、役立たずの劇団員衣服を手にすごすごと少年は自宅へ帰った。
「ただいま」
「……」
「お帰りなさい、お兄さん!」
家に帰った少年を出迎えたのは、無言で冷たい眼差しを向ける秘書のミーシャと、エルフの少女の明るい声であった。
イナリナである。
「お取引、どうでしたか?」
「……」
「取引ってほどじゃないけど、駄目だったよ」
「まあ……商売とは大変なものなんですね」
少年は商人ではなくただの下取り希望者だったのだが、あの店長を相手にするとか商売が大変な事は事実だ。
なので、特に否定することもなく少年はいつも通り自分のデスクについた。
「……」
強い眼差しが、真横から少年の横顔に注がれている。
それを意図的に無視していると、真横から突き刺さる眼差しビームが魔力を帯び、室内の空気を急激に冷やしていく。
それでも負けじと手元の書類に視線を落とす少年に――奴隷秘書のミーシャは、小さな声で呟いた。
「自分で衣装を着て魔法少女に変身するとか、変態ここに極まれりです」
「ぶぐはぁぁっ!?」
まさに致命的な一撃である。
たった一言で少年のライフは全損し、デスクに倒れ伏した。
その様子を見ながら、ミーシャは淡々と続けた。
「魔法少女に会いたい、魔法少女になってくれる天使を探すんだ、そんな世迷い言を何年も言い続けていたのはどこの主人でしょうか。
乳が牛だから魔法少女に似つかわしくない、深夜枠の大人向け魔法少女なんて邪道だだの何だのと、人に向かって失礼極まりない訳が分からないことをほざいておきながら魔法少女に変身したのはどこの主人でしょうか。
良いご身分ですね魔法少女主人様」
「うぐっ、ぬぶっ、ぐぬうううっ」
デスクに突っ伏したまま、器用にもびったんびったんとのたうつ少年。
その様はまるで、尻尾だけを目打ちでまな板に固定され、包丁でその身を斬り裂かれる活魚のようであった。
しばらくミーシャの言葉責めが続き、少年がぴくりとも反応しなくなった頃。
オレンジ色の夕日を背に、チャイムも無しにドアを開けて踏み込んでくる来訪者があった。
「イナリナ!
ああイナリナイナリナ! お姉ちゃんは今帰ったぞー!」
言わずと知れた、エルフの剣士のアエリエである。
外出から戻ったアエリエは土足のままずかずかと上がり込み、大声で叫んだ。
「さあこんな臭くて汚い犬小屋を脱して二人の愛の巣へぶあぁっ!?」
大事な二人の愛の巣……んっ、んんっ。住処を臭くて汚い犬小屋呼ばわりされ、ミーシャの抜き手がアエリエの腹部に突き刺さる。
もちろん、鎧を避けて脇腹に直撃しているが、貫通とか流血はしていない。その程度の分別はあった。
――もっとも、昨日初めて会った他人相手に躊躇なく抜き手を放つあたり、分別という言葉の定義は人それぞれと言わざるを得ないが。
この家のヒエラルキーを再認識したイナリナは、失礼で自業自得な姉と、失礼?で自業自得?な恩人 兼 家主の様子を見て、困ったように笑ったのだった。
魔法少女に変身して魔剣使いを倒した後。
変身を解き、自己嫌悪にのたうち回る少年の介抱をする間にアエリエも復活。
何とか最低限だけ回復した少年の変身で事態に収拾をつけ、全てが終わったのは翌朝の事だった。
依頼主の元へさらわれた少女の一人を送り届け、もう一人の少女もどうにか自宅を探り出して送り届けた後。
眠い目をこすりながら家へ帰る少年の後ろに、なぜかアエリエとイナリナが続いた。
いわく、捜索中に財布を落として一文無しのため、今日の宿代もないから泊めて欲しいとのことだった。
仕事による外泊自体は仕方ない事とは言え、それが女連れともなれば少々事情は異なる。
なぜか普段以上の笑みで、普段以上に不機嫌な奴隷秘書を必死で拝み倒し、2人に客間を宛がったのが昨日の夕方の事。
徹夜の疲れもあり滾々と眠った後、遠慮容赦なく朝食を食べてからそれぞれ行動を開始した。
少年は、事件の後始末(衣服の売却を含む)のため町へ。
アエリエは、宿代を稼ぐために町の外へ。
そうして半日が過ぎ、それぞれがこの家へと帰ってきたところであった。
ヒエラルキートップの威容を見せつけたミーシャは台所に下がり、夕食の用意に取り掛かる。
最初はイナリナも手伝おうとしたのだが、イナリナが台所に立つとアエリエもやってきてとにかく邪魔になって仕方ない。
やんわりきっぱり姉が邪魔と手伝いを断られ、泣く泣く居間へと戻った。
当然のように夕食をたかるエルフ姉に冷たい眼差しを向けつつ、主人の意向に従い実力行使だけは避けるミーシャ。
4人で夕食を食べながら事件の後始末について少年の報告を聞き、特に裏事情等もなく無事に解決したことに安堵した。
「それじゃぁアエリエとイナリナ、ちゃん。元気でね」
「はい!
この度は、わたしと姉を助けて下さってありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」
「うん、こちらこそ。
また何か困った事があったら遠慮せず頼ってね」
幼いながら、丁寧に頭を下げるエルフの美少女に微笑み、頭を撫でる。
その斜め後ろで、同じくらいの身長、同じくらいの牛乳の奴隷秘書が鉄骨をへし折りそうな勢いで拳をぷるぷるさせているが気付いていない。幸運の持ち主である。
そんな心温まる一幕に一つ頷くと。
しっかり者の妹さんと違い、しっかりしてない方の姉がこれ幸いとばかりに口を開いた。
「うむ、ならば頼ってやろうではないか。
私が仕事に出ている間のイナリナの身の安全を確保したいので、イナリナをここに置いてくれ!」
「「……は?」」
とても珍しい事に、少年とミーシャの声が重なった。
この二人をまとめてあっけに取らせるなど、並の事ではない。流石は一流付近のエルフの剣士、変態は伊達ではないのだ。
「ついでに、宿代の支払いも厳しいし無料になるならこの上ないので、野蛮な犬からイナリナを守るために私も一緒に泊まるぞ!」
どこをどう考えたらそんなに自信を持てるのかという勢いで、自信満々で気力に満ち満ちた笑みを浮かべるアエリエ。
そんな姿に、屋敷の主人よりも早く
「帰れ」
奴隷秘書のミーシャが、己の怒りゲージを真っ赤に燃え上がらせながら一言の元に蹴り倒した。
だがアエリエはめげない。
少年の性癖をばらすぞとか、イナリナのパンツに顔を突っ込んで嗅いだぞとか、魔法少女の服を着て喜んで踊ってたぞとか、ある事ない事をご近所に聞こえるほどの大声で喚き散らし、何とか少年の許可をもぎ取ったのであった。
少年は、喚き散らされた風評……でもないけど事実の一面だけを切り取った風評被害に。
秘書は、二人の暮らしに邪魔ものが入り込むことに。
少女は、あまりにもあんまりな姉の言った内容に。
それぞれ、怒りや嘆きと頭を抱え、能天気で勝ち誇るアエリエの姿にげんなりとしたものを感じながら――
時に犬になり、時にオーガに扮し、また時には冒険者や劇団員や美少女にも変身する、様々な衣装を身に纏う少年。
彼が着るべき無数の衣装達は、いまだ彼と巡り合う事なくこの世界のあちこちで彼を待っている。
衣装を身に着け自分だけの魔法少女になってくれる少女。そんなありえない存在を求め、少年は自分が魔法少女になってしまった事実をなかったことにした。
憧れの魔法少女の衣装を所持した少年の、理想の魔法少女を求める日々はまだまだ終わらない。これっぽっちも終わりが見えない。
そんな少年の傍らには、3人の少女の姿があった。
誰よりも少年を想い、それゆえ誰よりも少年に怒りを持ち。
奴隷で秘書で、巨乳ゆえに魔法少女に適さないと言われた『人間ではない少女』
人間を観察し、種族の行く末を定める。
そんな宿命を負いながら、それはそれとして魔法少女という謎の存在と、それを追い求める少年に興味を持ってしまった『瞳のエルフ』
それと、ただの『変態エルフ』
互いの目的を胸に、時に協力し、時に邪魔をし合いながら。
彼らはこの町で、これから長い時間を共に過ごすこととなる。
彼らの道行きは、撚り合わされた色とりどりの糸のように。
色を変え、形を変え、複雑に絡み合っていく。
彼らの紡いだ糸が、いかなる衣を織り上げるのか――今はまだ、誰も知る者はいない。
~ Fin ~
……
…………
………………
多くの血を吸わせ、強大な力を発揮する血の魔剣。
役に立たない冒険者も倒れた今、世界の終わりが訪れる――誰もが絶望した、その時!
たった一人の剣士が、立ち上がった。
その両手に、愛を握りしめて!
「見せてやろう、我が究極最大の奥義!」
剣士は、その両手に握りしめた『愛』を、掲げた。
パンツである。
ダブルでパンツである。
「右手のパンツを、顔に装着!」
じゃきーん!
「左手のパンツを、口に含む!」
もごぅーん!
「急激に取り込んだイナリナパワーが我が肺腑を、血肉を駆け巡る!
スーパー・サイヤ・アエリエーーっ!!」
………………
…………
……
「報告書に捏造した内容を記載するの、いい加減にしてください!!」
この後、姉は妹にめちゃくちゃ怒られて、給料下げられましたとさ。ちゃんちゃん。
『どんな衣類もジャストフィィィット! でもオーガのパンツや犬の首輪って衣類なんですかね?』
短期集中連載、これにて完結です!
最初から最後まで、ずーっとアエリエがアエリエしてましたね!
まさか後書きにまで浸食してくるとは……恐るべし、変態。
イナリナも苦労するってなもんでございます。でもこいつ、一応強いからなぁ……
あと、もう一匹のマスター変態、店長さんはハニワではありません。念のため。
さくっと読めるギャグ小説ということで、短期集中連載、いかがでしたでしょうか。
笑いのある日々を提供できたなら幸いでございます。
物語は完結しておりますが、こちらは御覧の通り日常系のお話。
すごく人気があれば、連載しちゃうかも?
でもその前に、ディバイン・セイバーですね。
ディバイン・セイバーですね!(大事なこと)
と、いうわけで――
次も、何かが起こります!(未定)
ディバイン・セイバーの続きか、はたまた台車で運ばれ新作小説か。
作者のお気に入り登録や評価、レビューなんかをしながら是非お楽しみに!
お気に入り登録とか!
今作やディバイン・セイバーの評価をして!
お楽しみに!!
それでは、少し早いですが本年はこの辺で失礼致します(※たまにフェイントあり)
ディバイン・セイバーのエンディングと、短期集中連載の今作。
最後までお付き合いくださったことに、深く感謝を申し上げます。本当にありがとうございました!
皆様、良いお年をお迎えくださいませ☆
2025年12月吉日 作者、記




