10 潜入 - オーガのちょっと汚い緑パンツ
ディバイン・セイバー完結記念、クリスマスプレゼント企画!
短期集中連載でお送りしております。
今日は、パンツです!
変態の暴走などで、出発までに余計な手間は掛かりつつ。
準備が整った後は、比較的順調に事は進んだ。
女物の服を着て少女感満載で振る舞う、少女の姿をした少年。
幾度か暴走した女エルフに襲われそうになりつつも人気のない方へ逃げ惑い、気付けば袋小路。
暴徒と化した女エルフ……ではなく、目的の人さらいと遭遇を果たす。
魔術で眠らされた少女と、なぜか降って湧いて一緒に眠りについた女エルフ。
人さらい達は大いに困惑させられつつも、がっちり抱き着いたまま眠っていて引き剥がせない事で諦め。
まあ持って帰れば良いことあるかな?とばかりに、セットでお持ち帰りした。
それが人質奪還を目論む、二人の潜入作戦だとは露程も思わずに……
それはそうだろう。
なんで空から高笑いをしながら降ってきて地面に激突して痛みに転げまわったあげく魔術で入眠1秒だった女エルフが人質を救出しに来たと思うと言うのか?
誰だって、一目見たらこう思うだろう。
『あ、こいつ馬鹿だ』って。
これで外見も悪ければ関わり合いにならぬよう努力したのだろうが、残念ながら、非常に残念ながら馬鹿は美人であった。変態なのに美人であった。貧乳だけど美人であった。
そのため、引き剥がす事もできなかったし、人さらい一味もつい出来心でお持ち帰りしてしまったのだった。
アエリエにとってささやかにも幸運だったのは、登場からお持ち帰りまでの一部始終が少年が眠った後に行われた事だろうか。
そのおかげで『悪漢にさらわれそうな少女を救出すべく駆けつけた愛と勇気の戦士、だが卑劣なる罠に掛かり逆にピンチに!』という醜態を誰にも見られずに済んだのだから。
実行犯?
後で口を封じればオッケーです。
そんな寸劇から数時間。
屋敷の一室に放り込まれていた二人は、闇の中で順に目を覚ました。
実際にはアエリエが目覚めた後、踵落としで少年を起こしたりしたのだが、些細な誤差である。
牢屋から脱するべく、少年は『エルフ少女の普段着一式』から『劇団員の怪盗衣装』に着替えてちゃちな錠前に挑み。
怪盗役の劇団員には、実際の鍵開け技能なんかないという事実に打ちのめされたのであった。
「おお、これが神の与えた障害であると言うのか。
ならば私は、神すら越えて秘されし宝を盗み出してご覧にいれよう!」
膝を突き天を仰ぎつつ、片手で胸をかきむしる少年。
少年が人間の男に変身した事で冷静になったアエリエは、芝居がかった仕草をする姿を夜目で見据えつつため息をついた。
「……どうするのだ、これから?」
「案ずる事はない、妖精のように麗しいエルフのプリンセス。
なにせ私はマスク・ザ・ヴァイオレット、例え幾千幾万の障害が立ちはだかるぶぎえふっ!」
戒めを解かれた身体でポーズを取りながら天に乞う怪盗。
劇場のように唄うキザなその横顔に、エルフの全力のとび膝蹴りが突き刺さった。
「よよよよよっよよよおぉよよよおおよおおおよよよよよおおせいのように美しいだとこの私がか!?
きききさっきさっきさっまま本気か本気なのか!?」
不届きな怪盗を蹴り飛ばし壁に叩きつけたアエリエは、この世の終わりとばかりに叫んだ。
それはもう、全力で叫んだ。
全面真っ赤な顔色と慌てつつも上ずった表情は、薄闇のおかげで見えない――もとい、少年は壁に叩きつけられ見る余裕がないことは幸いだったろう。
アエリエのあげた大声に、どたばたと足音が近づいてくる廊下。
それに気づかずに、逆さまになって壁に貼り付いた少年を睨みつける真っ赤なエルフ
そして、芸術的ポーズで壁に貼り付いた、怪盗――もとい、少年。
潜入までの順調さはどこへ行ってしまったのだろうか。
前途は、多難である。
「騒がしいな、捕虜が起きたのか?」
「大人のエルフの方がいらないって話だからな……へへへ」
明かりもなく寒々とした牢部屋に入ってきたのは、二人の男だった。
扉側に置かれた燭台に明かりが灯され、闇に包まれていた部屋の中に柔らかい光が広がる。
とは言え強い光ではなく、また一箇所から照らすだけなので牢屋の隅々までは良く見えないが。二人の男は牢屋を覗き、エルフが奥の壁の方を向いて寝ている背中を確認した。
「……あれ、エルフ一人しか寝てないじゃねーか?」
「おい、ターゲットがいないぞ!?」
慌てて一人が鍵を取り出すと、薄暗い牢屋へと踏み込んだ。
奥ではエルフの女が寝ていて。
……そもそもこのエルフ、こんな奥に転がしたりしてなかったよな?
というか後ろ手に縛っていたはずだが――
そこまで思考が進んだか否か。
牢屋の中へと踏み込んだ二人の男の背後に、突如巨大な人影が現れていた。
部屋の天井よりも高い上背で、窮屈に体を折り曲げ。
その巨大な両手で二人の男の頭をそれぞれ掴むと、少し強めにごっつんこさせた。
「ぶふぅ……ああぶながっだなぁ」
「……お前のせいだからな」
背を向けて転がっていたアエリエは、起き上がると憮然とした表情のまま背後を振り向いた。
明かりを背負ったその巨体は、しゃがんでなお己よりも背が高く。
身なりこそ人型をしているが、凶悪な面構えで大きな牙の生えたその顔は、れっきとした魔物のもの。
オーガ。
ハンターギルドではCランクパーティ推奨の、大型の人型魔物である。
圧倒的な膂力と人間の子供程度の知能を兼ね備えた、非常に危険な魔物だ。
両手に持った男の頭を牢屋の中に放り捨てると、
「ぐろず、あうど!」
オーガの呟きにあわせ黒い光がその巨躯を覆うと、程なくその姿は元の少年のものに戻った。
姿を戻した少年は一息つくと、地面に落ちたオーガのパンツを拾ってしまいこんだ。
「……魔物の下着を身に着けるとか、不潔ではないか?」
「それは言わないでくれ……
アエリエがいきなり大声出すから、こんな力業になったんだからな?
あと、今裸だからこっち見るなよ」
オーガのパンツに続いて、床に落ちた犬の首輪も拾って鞄にしまった。
段取りとしては、こうなる。
まず少年は犬の首輪とオーガのパンツを取り出し、全裸になって犬の首輪を身に着けた状態で犬に変身する。
アエリエが牢屋の奥で寝転がり、犬は物陰に潜んで隠れた。
やってきた見張りが牢屋を開けた後に犬が背後に忍び寄り、犬の首輪を脱衣してすぐさま鬼のパンツに着替える。
そうしてあとは、見張りの頭をごっつんこしてお休みいただいたというわけだ。
「そっ、それはその、お前がいきなりあんなことを言うから……!」
「はいはい、わかったわかった。
人質、探すぞ?」
「む、ぅ……わかった、もちろんだ。
その、だからこの話は、無事にイナリナを助け出した後だからな!」
素早く着替え、むくれるアエリエを適当にあしらいつつも手を引いて牢から部屋へ出る。
紆余曲折はあったが、これでようやく、本当の意味で潜入成功である。
さあ、あとはさらわれた少女達の奪還だ。
二人は顔を見合わせると、一つ頷いて廊下へ足を踏み出したのだった。
ゲーム開始時点で死んでいるモブキャラが、独特のノリで死に掛けたり死んだりいちゃいちゃしたりと次々に大活躍!
だいたい100万PVの大人気御礼、遂に第一部完結しました!
ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~
https://ncode.syosetu.com/n8991iq/
なお、今話の途中の牢屋内の出来事が、冒頭のプロローグシーンとなります。
怪盗……役の劇団員の衣装、全然役に立ちませんでした! 残念!




