01 プロローグ - 劇団員の怪盗衣装
ディバイン・セイバー完結記念、クリスマスプレゼント企画!
本日より、短期集中・新連載スタートです!
扉が閉ざされる音が、暗い部屋に響く。
さながらそれは、命脈を断ち、終わりを告げる断罪の刃音の如く。
小さく響いて、静寂だけを残し、消えていった。
動くものも、音を立てるものも居ない。
仮に動くものが居たとしても、その姿を照らし出す光もまた、ぶ厚いカーテンに遮られて圧倒的に足りていないのだけれど。
時さえ止まったかの如き牢獄で、けれど確かに時は進み行く。
やがてカーテンの隙間からかすかに漏れていた光が失われ、室内の暗闇が自然の宵闇と溶け合い始めた頃に。
意味をなさないうめき声とともに、倒れ伏していた影が小さく身じろぎした。
身じろぎした影―――女は、何度か身を捩ると、足を振る反動で上体を起こす。
埃一つつかず美しい髪がぱさりと大きく揺れ、止まっていた室内の空気を動かした。
頭を二度振るだけで、乱れて散らばり長い耳にかかっていた髪は綺麗にまとまり、首筋から背中へと辿る金糸の滝を形作る。
「うぅう」
伺うように小さな声を発する。
否、声ではなく音と言うべきか。布とロープで戒められた口は、意味ある言葉を発することができない。
闇の中で様子を伺いながら、同時に自分の状態を確認する。
腕。両腕を揃え、背中側で手首を縛られている。指は動くが、縛ったロープの結び目には届かない。
足。手と同様、足首で縛られている。縛られているだけで鉄球などはついていない。両足を揃えて足首を縛られているだけなので、バランスを取れば立つことも可能そうだ。
顔。口には猿轡、目隠しはない。詠唱や会話は出来ないが、見る分には夜目が利くので問題ない。
身体。腕ごと、胸の下で縛られている。
胸。ない。いやそうではない、妹よりほんの少しだけ控えめではあるがちゃんとある、しっかり存在している。縛られていないという意味だ。
装備。当然、ない。替えの剣も、道具袋も。外套と上着も奪われており、身に着けているのは薄手の肌着のみだ。
部屋の暗さは、夜だからか、それとも窓に掛けられたカーテンが分厚いからだろうか。空腹度合いから経過時間を測り、夜だからと推測。
広い部屋は3分の1程の広さで仕切られており、自分がいる狭い方の空間は鉄格子で囲まれている―――すなわち、牢屋。
隠れる場所などない殺風景な部屋、牢屋の外側の空間に人影はない。室内に見張りは居ないようだ。
もちろん暖房などない室内。薄着の身体に染み入る冬の寒さに身体を縮めつつ、自分の傍らに倒れている小柄な『人間』に足を乗せて揺さぶった。
……起きない。
ゆさゆさ、ぐりぐりと揺すっても、人間は全く反応しない。両足でごろりと仰向けに転がしても、のんきに寝ているだけだ。
その『人間』の見た目は幼いエルフ、最愛の妹の姿。一瞬このまま寝てる間にいただきましたらどれほど愛らしいかという疑問が頭をよぎったりしない事もなかったがそれは外見だけの偽物ではなく本物の妹にしたいのでミスリル鋼並みの精神で自重する。
推測した経過時間から考えると、自分たちが捕まってからそれなりに時間が経っているはずだ。身動きの取れぬまま、この牢でいたずらに時間を浪費するのは得策ではない。
相手の懐まで潜入できた以上、この人間はもう用済みという考え方もあるが
「うー」
例え戦闘力は無くとも役に立つということは理解できたし、今は唯一の仲間だ。少々手荒な真似をしてでも、起こして行動を共にすべきだろう。
自分が取ろうとしている少々手荒な手段。その対象である相手の顔を見て、一瞬眉間に皺を寄せた。
だが躊躇ってはいられない。
大丈夫、こいつは人間で、最愛の妹ではないのだ。妹のフリをしているだけの妹の服を借り受けて男臭くした変態だから良心が咎める必要はない。あと最愛の妹を助けるためなので、こんな人間なんか蹴り入れて汚れた足を妹に舐め清めて欲しい、むしろ天誅。よしっ。
小さく気合を入れて己の中の葛藤に折り合いをつけると、縛られた両足を下着が見えるのも厭わず高く掲げてて。
真っ直ぐ、のんきに寝ている小さな人間の腹部に打ち下ろす!
「ふぶうっ!?」
腹部を襲った強烈なダブル踵落としの衝撃に、身体をくの字に折り曲げ相手の短い足と頭が一瞬宙に浮き、すぐにごんっと重い音を立てて床に落ちた。
強打して痛む後頭部を抱えようにも腕は縛られて動かせず、その場で人間がじたばた転がるのをじっと待つ。
やがて、ひとしきり暴れて落ち着いたのか、身体は横にしたまま顔だけが向けられた。どうやら相手も、暗闇の中でも物が見えるようだ。
と、女は人間の語った能力を思い出す。妹の姿になっているのだから、妹と同じ程度に夜目が利くのは当然だった。
「んっ」
うめき声でのコミュニケーションはやや難解ではあるものの、最低限の意思の疎通を果たすに不自由はない。
短い声とともに自分達を覆う牢を顎で示せば、寝転んでいた人間も身を起こして自分の周りを見回した。
暗闇の中、眼前で振られる頭。
闇の中では分からないが、頭を振るに合わせて月光のような美しい銀髪がさらさらと揺れ、煌めく蒼玉のような瞳であどけない表情を浮かべる我が妹、ああ尊い尊すぎる愛らしいぺろぺろしたいはあはあ、はあはあぁ!
そんな妹分が不足しすぎて容赦なくエスカレーションしていく姉の愛情など我知らず、人間は意識を集中して不自由な言葉を呟いた。
「ふぁぅお、ふぃぃぃっふぉ!」
今はエルフの少女の姿をした人間の有する、特異な力。
ありとあらゆる可能性を秘めた、魔法少女にも等しき変身の呪文。
己の身体を作り替え、あらゆる姿を、技能を、経験さえも転写する絶対無二の超絶能力――というと聞こえが良いが、実際は『着ている衣服』に『中の人間』を『ぴったり合わせる』だけの能力である。
闇の中で、妹の服にぴったりの姿をしていた人間が、輪郭そのままに本物の影へと転じる。
光を通さぬ、宵闇よりも濃い影。
それは、妹のシルエットを模した人間の能力の発露であった。
なお、光を放って全裸のシルエットになったりはしない。今のところは。
「ん……」
影へと転じた人間がその輪郭を歪め、新たな身姿を定める。
それは、先ほどまでの世界で一番愛らしく尊い妹の艶姿(すでに脳内では全裸を手だけで隠す裸婦スタイル)を縁取るそれではなく、自分よりも少し上背の高く凛々しい姿。
体にぴたりとフィットした墨色の装束に、なぜか金縁紫の目元を覆う派手な仮面&表裏で漆黒と紅紫のマント。
仮面から覗く切れ長の瞳を細め、先ほどまでは姉であったエルフに流し目を送り微笑むのは怪盗。
王都の劇場で若いお嬢様方のハートを鮮やかに盗み出した大怪盗、マスク・ザ・ヴァイオレットであった。
「んっ……!?」
流し目から一回転し、バラを掲げて決めポーズ。
――のはずが、今は手も足も縛られ、マントの裾を翻すことも出来ず……倒れた。
「んぶぅっ」
怪盗の登場シーン、決めポーズ。それは変身シーンにも通じる大事な見せ場であり、己の在り方を定める儀式。
それが出来ないだけではなく、無様に転ぶなど言語道断。
怪盗となった『人間』は、どうしようもない醜態をさらした己に絶望し、心を閉ざしたのだった。
その後、巧みな技術により閉ざされた己の心の扉を開いた怪盗は、己を戒めるロープを再度の能力行使で取り除き、たかが牢屋如きのちゃちな錠前を開けようと……開け……
『怪盗役の劇団員』の服であり『怪盗』そのものの服ではないため、鍵開けの技能など一切持っておらず牢屋の鍵を開ける事に失敗。無駄に芝居がかった仕草で二度目の絶望を迎えるのはしばらく後の話であった。
ゲーム開始時点で死んでいるモブキャラが、独特のノリで怠やかに次々と大活躍!
ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~
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