Day.7【気になること】
魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。
彼は街の外れに構える小さな魔法道具屋を営みながら、それなりに充実感のある日々を送っていました。
彼の1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まります。
「おはようカロ!あれ、なんだか今日は葉っぱの艶がいいね」
店内は狭いながらも整理されており、商品はきちっと並んでいます。
よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具など、様々な商品を取り扱っている雑貨屋のようです。
ラビは水の入った小瓶を、商品棚にある植木鉢のそばに置きました。
するとその植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろに小瓶を手に取って水を1口飲みました。
「えーそう?特に変わったことしてないけど」
カロは自分の葉っぱを確認しつつ、まんざらでもなさそうな表情をしています。
ラビはそんなカロを見て、ふと“あること”が気になりました。
「カロってさ、一応植物だよね」
「えぇ、とても高級なね」
「ってことは土とか肥料とか変わればカロの色艶も変わる?」
「まぁ可能性はある」
「へぇ、なるほどね」
「おいラビ、絶対ろくでもないこと考えてるだろ」
カロは不穏なやり取りから察し、警戒しました。
ですがラビは気にすることなく、あごの下に手を添えて何やら考え事をしています。
「正直ちょっと色々実験してみたいなぁと思ったけどさ」
「こわ、絶対やらないぞ」
「やらないよ。そういう実験はカロの体調に直結しそうだし、さすがの僕もね」
「ホントかぁ?」
「あ!でもあれはやってみたいかも!」
「言うだけ言ってみ」
「『聴かせる音楽によって成長に差が出るのか』的なやつ」
「あー、クラシック音楽聴かせると甘みが増す野菜みたいな話か」
「それそれ!ロックな音楽とか聴かせてどうなるか見てみたい」
「めっちゃトゲトゲしくなったらどうしてくれる」
この世界には音を保存しておける魔法石が存在します。
ですがそれは、とても希少で高価です。
また、一般的な庶民は楽器などを持ってるわけではないので、音楽を奏でる術もないのです。
そんな中、ラビは持てるお金と人脈を駆使し、1か月ほどかけてその魔法石を手に入れました。
かなり安く取引されていたこの魔法石には、あまり馴染みのないハードでロックな音楽が入っていました。
一定数コアなファンがいるらしいですが、前衛的でかなり騒がしい音楽なので一般的ではないようです。
「――てか今更だけどさ、ラビいくら使ったの?」
「前に国からもらった報酬とか度胸試しポーションの売り上げとかは全部吹っ飛んだ」
「やば」
「いやいや!これはお店の経費に計上できるし!来客の呼び水にもなるし!大丈夫!元は取れる!」
「どうだかなぁ……」
――
ラビはハードでロックな音楽を店内に流し始めました。
すると、5日ほどで早くもカロに変化が出たようです。
「――あれ、カロなんか葉っぱが変」
「あ、やっぱり?」
いつもは数本の葉っぱが自然に広がっていますが、今は心なしか葉っぱがモヒカンのように立ち上がって整列しているように見えます。
「どうなってんのそれ、寝ぐせ?」
「いやわかんないけど、気づいたらこうなってた」
「音楽による変化かな?だとしたらなんか曲の雰囲気に合ってていい感じ」
「あ、わかる。俺も悪くないじゃんって思った。頭振りたい気分」
「あーその頭振るやつ、“ヘドバン”って言うらしいよ」
さらに10日経つ頃にはさらなる変化がカロに表れました。
「ラビ!ちょっと!起きて!」
「な、なに!?え?え!?」
カロがこうしてラビを起こすことは滅多にないので、ラビは何事かと慌てて起き上がりました。
まだ日の光も入らない薄暗さの中、すぐに枕もとの“光る棒Ver.2”を手に取り2階の寝室から1階の店舗へ駆け下りていきました。
ラビはカウンターに置いてある植木鉢に駆け寄って明かりを向けると、すぐに変化に気づきました。
「え、どうしたのその目」
「わかんない、起きたらこうなってた」
見ると、カロの目の周りが“星形”に黒くなっています。
「それ、どっか痛いとかない?」
「ない、めっちゃ元気」
「それは良かった」
そう言いつつラビは、他に異常がないかカロをよく観察しました。
「うん、特に異常はなさそうだね。カロは他に気になることある?」
「最近あの音楽を聴くと血が騒ぐんだよな」
「カロがこんなに影響をうけやすいと思わなかったよ」
「うるせー、俺のデスボイス聞かせたろか」
「マンドラゴラが言うと洒落にならないよ」
ここ数日、店外に漏れ聞こえる音楽に釣られて来客数が多少増えるなど良い影響もありました。
しかし、カロの変化が思いのほか激しいのでラビは音楽をかけるのを中止することにしました。
――その後、数日ほどでカロの不思議な変化は消えました。
「やっぱ静かな店内のが好きだなー俺は」
「確かに、あの音楽はさすがにちょっとやかましかったもんね」
2人は戻ってきた穏やかな日々を実感しながら、窓の外から聞こえてくる鳥などの声に耳を傾けます。
「ねぇカロ、次はどんなのがいい?」
「いやもういいって」
ちなみにあのハードでロックな音楽の入った魔法石は、通りすがりのコアなファンが高値で購入し、ちょっと儲けましたとさ。めでたしめでたし。




