Day.6【偉大なカロ様】
魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。
彼は街の外れに構える小さな魔法道具屋を営みながら、それなりに充実感のある日々を送っていました。
彼の1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まります。
「おはようカロ!今日も暑くなりそうだねー」
店内は狭いながらも整理されており、商品はきちっと並んでいます。
よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具など、様々な商品を取り扱っている雑貨屋のようです。
ラビは水の入った小瓶を、窓際にある植木鉢のそばに置きました。
するとその植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろに小瓶を手に取って水を1口飲みました。
「さすがに日中はもう窓際耐えらんないよ。ラビもうちょっとしたら日陰に移動して」
「はいはい、今やってる作業終わったらね」
この世界では季節の概念があり、暑い時期と寒い時期を交互に繰り返します。
これは様々な属性を持った精霊たちの活動期間の違いによるもので、大まかに半年ほどで移り変わっていきます。
「森のほうで木の実とかが豊作で、ビッグベアが大量発生しちゃったのって一昨年だっけ?」
「それは3年前じゃね?お肉が安く出回ってて嬉しいってラビ言ってた気がする」
「あそっか。じゃあ一昨年は雨が多くて川沿いの洞窟でスライムが大量発生したやつか」
「あーあったね!溢れたスライムが川下へ流れてって、それ見て誰かが“どんぶらこ”って意味わかんないオノマトペ付けて流行ったやつ」
ラビはそんな雑談をしながらもテキパキと開店準備を整えました。
「今年はなんか大量発生するかな」
「いやいや何もないのが平和だよ……と言うのが一般向け回答で、正直なところモノによっては“特需”が発生するから商売につながる可能性あるなーなんて思ったり」
「おーさすが店主ラビ」
「ま、情報はあって困らないからね」
――
道具の製作をしながら、たまにくるお客さんの相手をしていると、ラビは何人かのお客さんからこんな話を耳にしました。
『あちこちで保存食などが虫にやられてるらしい』
最初は「暑くなってきましたからねー」とあまり気に留めてなかったラビですが、そんな話をするのが3人を過ぎたあたりから気になりだしました。
「――ふぅ、今のお客さんも言ってたね虫のこと」
「結構被害出てるみたいだな」
お客さんを見送り、お金の管理をしながらラビが言いました。
「ま、うちは僕がちゃんと管理してるしやられたことからね!管理不足なんじゃないの?って思っちゃうけど」
「あ、それは俺がいるからだね」
「ん?カロが?」
「そう、俺が」
「え、どういうこと?」
カロの話によると、なんとマンドラゴラはそもそも虫などを寄せ付けない効果を持っているのだそうです。
ラビはそれを聞いてとても驚き、「そんな香草みたいな効果あったんかよ」と言うと、「我、伝説級の植物ぞ?」とカロは返しました。
ラビは「確かに」と納得してしまいました。
「今思えばお店でも全然虫見ないし寝てても虫に刺されたことないな、どうりで……」
「言ったつもりになってたというか、知ってると思ってたわ。なんかごめんな」
「ちぇ、心なしか保存食の持ちが良い気がしてたからさ、僕やるじゃん!って思ってたんだけどなぁ」
「ん?俺の効果はあくまで“虫が寄ってこない“ことだから、保存食の持ちが良いんだとしたらそれは間違いなくラビの気遣いの賜物だぞ?」
「へ?そうなの?」
「そりゃそうよ。すごいじゃん」
ラビはわかりやすく上機嫌になり、照れ笑いが「でへへへ」と少し気持ち悪い感じになっていました。
「それにしても……うちは知らん間にカロに守られてたんだ、ありがとね」
「おう、もっとクッキーくれてもいいぞ」
「いやいや、クッキーが欲しいならもっと多くの――」
ラビは何かを言いかけたところで数秒止まった後、ものすごい剣幕でカロに詰め寄りました。
「ねぇそれってさ、カロから抜け落ちた葉っぱとかでも効果あるの?」
「え、あ、うん多分」
「それを煎じた水とかを吹きかけたら、虫よけになる可能性は?」
「あーそういうこと?それでいうとマンドラゴラの葉ってマジで色んな効果があって、普通に鍋で煮出すだけだと色々強すぎて不都合のほうが多いかな。でも使う目的が虫よけ程度なら、めちゃくちゃ希釈すればいける、かも?」
「おぉ!むしろ好都合だ!すぐに試そう!ちょっと店番してて!虫捕まえてくる!」
「お、おおう」
ラビはそう言うと採取用の道具を持って、夏休みの少年のように飛び出していきました。
――
その後、ラビは袋いっぱいに虫を捕まえてきて、カロからもらった葉っぱを使って様々な実験をはじめます。
いろんなパターンを作っては試し作っては試し、数日かけてちょうどいい感じの虫よけスプレーを開発しました。
ラビはその勢いのまま、翌日にはお世話になってる商会やギルドに直接伺い、虫よけスプレーを実演してみせました。
各所からお許しが出たので、無料お試し用として10本ずつ置いていったところ、うわさを聞きつけた人々によってあっという間になくなってしまいました。
――
「カロ様、本日のおやつでございますお納めください」
「うむ、くるしゅうない」
カロはしばらくの間、毎日クッキーを献上されてご機嫌でした。
ラビはというと、なんとギルドが国のほうに虫よけスプレー数本を上納し、『虫の大量発生をすぐさま察知し、即時対応し、被害を最小限に抑えた功績を称え、褒美を取らす』として、そこそこのお金や魔道具、本、そして国王御用達のクッキーなどを国からいただきました。
「いやー上手くいって良かったねー!カロのおかげだ」
「あんま派手にやって『あまりにタイミングが良すぎる!お前が虫を大量発生させて虫よけを売れる様に仕向けたに違いない!自作自演ダー!』なんて言われないようにな」
「あはは、いやーそれはさすがにないでしょ」
――その翌日、ラビは国の取り調べを受けていました。
ただの小さな魔法道具屋の店主が、国から褒美を賜ったのが気に入らなかったどっかの貴族様が『あまりにタイミングが良すぎる!店主が虫を大量発生させて虫よけを売れる様に仕向けたに違いない!自作自演ダー!』と国に文句を言ったそうです。
もちろんそんなわけないことは少し考えればわかるのですが、貴族様からのご意見となれば国も形式上取り調べをしないといけないらしく、担当者はしきりに『規則なんで、申し訳ない』と謝ってくれました。
あれやこれやを聞かれて、終わって解放された頃にはすっかり夜でした。
ラビは、重たい足取りで店に戻ってきました。
「いやー言ったとおりになったねぇ」
「貴重な経験をさせてもらったよまったく」
カロはニヤニヤしながらお出迎えしてくれました。
「ま、褒美が取り上げられなかっただけマシだと思うしか」
「いやホント。もうしばらく取り調べはされたくないな」
「――そういえば、あの袋いっぱいの虫たちって実験後どうしたの?」
「ん?あぁ、ちゃんと“適切な場所”に放してきたよ」
「ふーん?」
――後日、とある貴族の使いの者がお店を訪れ、虫よけスプレーをたくさん買っていきました。
在庫が少ないことを理由に、ラビは少し高いお値段で売ってあげました。
「……ラビ、お前やったな?」
「んーなんのこと?あ、クッキー食べる?」
「まいっか知ーらね。クッキー食べる!」




