Day.4【呪いのパーティグッズ】
魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。
彼は街の外れにある小さな魔法道具屋を営みながら、それなりに充実感のある日々を送っていました。
彼の1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まります。
「おはようカロ!さーて、今日も頑張りますかー!」
店内は狭いながらも整理されており、商品はきちっと並んでいます。
よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具などなど、様々な商品を取り扱っている雑貨屋のようです。
ラビは水を入れた小瓶を、商品棚にある植木鉢のそばに置きました。
すると、植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろに小瓶を手に取って水を1口飲みました。
「ラビはいつもお店を綺麗に手入れしてて偉いね。自分の部屋は散らかってるのに」
「カロ、後半部分は言わないほうがモテるよ。あと部屋は散らかってるんじゃなくて効率化を追い求めた成れの果てだから」
「成れの果てって言うてるやん」
いつものようにそんなじゃれあいをしながら、ラビは開店準備をしました。
品出しなどを終えてお店の入り口を掃除していると、入口すぐ横に差出人も宛名もない小さな小包が置いてありました。
ラビは注意深く観察しましたが、どこにでもある“茶色の包装紙にくるまれて細い麻縄で縛られただけの小包”のようです。
ラビはそれを片手でそっと持ち上げ、とりあえず店内のカウンターへ持っていきました。
首をかしげながら戻ってきたラビを見て、カロが尋ねます。
「……なにそれ?」
「なんだろね」
「え、こわ。ちょっとやめてよ」
「特に変なにおいもしないし、触った感じも多分大丈夫だと思うけど……」
そう言って少し観察してからラビは紐に手をかけます。
「今すぐ捨ててきなさい」というカロの忠告を無視して包装紙をめくっていくと、荷物の全容が見えてきました。
「……眼鏡、かな?」
「それだけ?」
「いや、他にもなんか入ってるな……うわっ!」
「なに!!?」
「なんだこれ……なんか、“鼻”と“口ひげ”みたいなのが一緒に入ってた」
「え、きも。なんで」
「作り物だけどね。あ、あと手紙も入ってる」
「お、読んで読んで」
あまり綺麗とは言えない字で書かれたメモを広げると、内容物について短くまとめられていました。
『ステータスがかなり上昇するマジックアイテムです。差し上げますので好きに処分してください。』
「へー、それマジックアイテムなんだ」
「そうみたい。あ、これ鼻とひげが眼鏡のとこに付けれて一体化するっぽい」
「変なとこ手が込んでて面白いじゃん、つけてみてよ」
「ちょっと待ってね……」
カロに見えないように前かがみになって眼鏡を装着し、「どう?」と言いながらラビはクルッと振り向きました。
「ファーwwwww」
「うわ、すごい!めっちゃ身体が軽く感じる!」
ラビは眼鏡と鼻と口ひげがセットになったものを装着しました。
メモのとおり、ラビの身体能力は驚くほど向上し「カロ、このアイテムすごいよ!」とカロに感動を伝えました。
しかしカロはそれどころではなく、見た目の面白さでずっと大笑いしていました。
少し落ち着いてもラビを見るたびまた笑いだしてしまいます。
「あーおもろ。もしパーティ組んでたら、ラビがどんだけ強くても笑って全滅するでしょこんなの」
「それはそうかも」
ひとしきり効果を確認したラビは、満足げに頷きました。
「見た目はともかく、かなり性能いいよコレ!魔力消費もほぼ気にしなくていいし、デメリットがなさすぎて怖いぐr……あ、あれ?」
そう言いながら眼鏡をはずそうとしましたが、なぜか顔にぴったりとジャストフィットして外せる気がしません。なんなら最後のほうは壊すつもりで力を入れましたが、ビクともしません。
「……あー、マジか」
ラビは何かを察し、その場に立ちつくしながら諦めた感じで独りごちました。
さすがに少し様子がおかしいので、心配したカロが尋ねます。
「え、なに?大丈夫なやつ?」
「大丈夫じゃないやつ」
「え」
半ば諦めつつも、ラビは何か手はないかと小包やメモを再度調べだしました。
――すると、メモの端にとても小さく何かが書いてあるのを見つけました。
『その代償として、1か月外せなくなる呪いがかかります』
ラビは膝から崩れ落ち、両手をついてガックリと項垂れました。
そのままの態勢で、ギリギリ聞こえるかどうかのか細い声で「これ、呪いで1か月外せないらしい」とカロに言いました。
カロは声が出ないぐらい笑い、過呼吸になり、痙攣しながら気絶してしまいました。
――
ラビの1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まります。
「おはようカロ!いやー長いようで短かったけど、やっと今日で解放されるー!」
そうです、あのマジックアイテム装着からちょうど1か月が経ったのです。
「マジックアイテムに危うく殺されるとこだったわマジで」
「いやこっちもまさかカロが泡吹いて倒れるほど爆笑するとは思わなかったよ」
「しかし見慣れるもんだね。最初の3日ぐらいはずっと面白かったけど」
「それを代償に売り上げもだいぶよかったし、結果オーライかな。年1回ぐらいでやってもいいかも?」
転んでもただでは起きないラビは、なんと眼鏡をつけた日から1か月間セール期間にしたのです。
この眼鏡が違和感にならないよう店内をパーティのように飾り付け、広告を貼り、チラシを配り、毎日陽気にセールをアピールしたのです。
さらに、ステータスが向上していることもあり、期間限定で一定数以上商品を購入した方を対象に、自宅まで配送するサービスも取り入れました。
通常ならとても手が回らないほど忙しかったのですが、それでも全く疲れることなく働けるほど、アイテムの効果は絶大でした。
「さぁ、今日がセール最終日!がっつり稼ぐぞー!」
「おー!」
こうした努力の甲斐あって、オープンしてから最高となる売上を記録しました。
――無事に最後の配達も終え、ラビが店に戻ってきていよいよ眼鏡を外すときがきました。
「いやーなんか見慣れちゃったし名残惜しいなぁ」
「ま多少ね。しかもこれで覚えられちゃったのか、配達の時とか声かけられるようになったんだよね」
「すごい宣伝効果じゃん。看板にそのロゴとか足したら?」
「ずっとこれでやってく気はないよ!さ、外すよ!」
ラビは「せーの!」と掛け声をかけ勢いをつけて外そうとしました。
そして、まるで何事もなかったかのようにあっけなく眼鏡は外れました。
――と、その瞬間、ラビはバタっと床に倒れ込んでしまいました。
「お、おいラビ」
カロは慌てて声をかけましたが、ラビは小さくうめき声をあげています。
「大丈夫か!今度はなんの呪いだ!?」
「か、からだが……!」
「身体がどうした!?」
「……めっちゃ重ダルい」
「は?」
すごーくステータスアップをしたまま1か月過ごしたラビは、眼鏡を外して無事に“通常の状態”に戻りました。
それはつまり、そういうことなのです。
「え、なんか副作用で “頭が割れる様に痛い!”とかではなく?」
「ではなく」
「呪いとかで“身体が灼ける様に熱い!”とかではなく?」
「ではなく」
「めっちゃ“重ダルい”?」
「そう、めっちゃ重ダルい……」
カロはそれを聞いて、そばにあった本に手を伸ばして読書を始めました。
「か、カロ助けて……、動ける気がしない」
「ラビ、そんなとこで寝てたら風邪引くよ」
「くっ……もう一回、眼鏡をかけるしか――」
「もう一回それに手を出したら戻ってこれなくなるからやめときなって。一生おもしろ顔で生きてくつもりならいいけど」
「元の持ち主も、こんな気持ちで、手放したの、かな」
――結局ラビはそこから10日ほどまともに動けず、店を臨時休業にしました。
さらに配達などもやめたことから『以前よりサービスの質が落ちた!』と一時的に評判が悪くなり、眼鏡を外してからの1か月は過去最低の売上を記録してしまいました。
ラビって『とりあえずやってみよう!』みたいな感じで生きてるよね。




