Day.3【最強の杖を手に入れました】
魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。
彼は街の外れで小さな魔法道具屋を営みながら、それなりに充実感のある日々を送っていました。
彼の1日は、日課であるマンドラゴラの“カロ”への水やりから始まります。
「おはようカロ!ねぇちょっとこれ見てよ」
店内は狭いながらもよく整理整頓されており、商品は見やすく並んでいます。
よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具などなど、様々な商品を取り扱っている雑貨屋のようです。
ラビは日の差し込む窓辺にある植木鉢のそばに、そっと水を入れた小瓶を置きました。
するとその植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろにそれを手に取って水を1口飲みました。
「昨日の冒険で何か拾ってきたの?」
「そうそう!これなんだけどさ」
カロは眠そうに目をこすりながら、ラビの持っているモノに焦点を合わせようとします。
「ほら、めちゃくちゃいい感じの木の棒」
「俺の朝の貴重な5秒返してくれる?」
「日向ぼっこしてるだけのやつが何言ってんの。ねぇこれめっちゃカッコ良くない?」
「いや、まぁわからなくはないけど」
「いやだってほら、まずここの持つところがーー」
ラビはその木の棒がいかに素晴らしいかを語りだしました。
要約すると『めちゃくちゃ“魔法の杖”に最適で、生まれた瞬間に完成している!まるでヴァイオリンのような木の枝』だそうです。
寝起きの頭では微塵も情報が入ってこなかったカロは、3秒おきに「へー」と「すごいね」を繰り返すボットと化してしまいました。
「そんなに言うならさ、魔法の杖として使えばいいじゃん」
「かー!これだから素人は!そんな簡単じゃないんだよ魔法の杖は!」
「なにその熱量こわ。魔法使いの杖って普通に木の枝とかなんじゃないの?」
「ちょ、おま……!おいそこ座れ!」
「いや座るも何も」
「うるさい!聞け!」
ラビは魔法使いではありませんが、様々な道具をハンドメイドで作ったりします。
そしてそれは“魔法の杖”も例外ではありません。
思わずカロが「ごめんなさい、許して……」と言ってしまうほどラビの話が長くなったのでまとめると、【“魔法の杖”はめちゃくちゃ手間暇かけて製作される至高の武器であり芸術品】とのことです。
「――ってこと!わかった!?」
「はい、わかりました」
「よろしい」
疲れ切ったカロを見て(少し言い過ぎたかな)と思ったラビは、少しフォローするように言葉を付け足しました。
「ま、よく知らない人からすればどれもよく似たただの“なんか先が光ったりする棒“だもんな」
「いいじゃん、“先っぽが光る棒”」
カロはぐでーっと天井を仰ぎながら言います。
「ほら、おれは魔法使えないからさ。そういうおもちゃあったら、ちょっとテンション上がるけどな」
何気なくカロがそう言うと、ラビがじっとカロのことを見つめました。
カロは(また地雷踏んじまったか!?)と焦りましたが、ラビからは意外な声が聞こえてきました。
「そっか、先っぽが光るだけの棒か……。確かに、まだ魔法がうまく使えない子供たちとか喜びそうだな」
「え?あぁ、まぁそうか。でもそんなの作れるん?難しいんでしょ魔法の杖作るの」
「ちゃんとした魔法の杖はそりゃ大変だけど、杖の先っぽが光るだけのおもちゃなら――」
そう言い終わるかどうかのところでラビはバックヤードに向かって歩きだし、ガラクタをため込んでいる木箱の一つをガサゴソと漁りはじめました。
そして、しばらく探し物をしたかと思ったら「あーあったこれだ!あとはえーっと」とブツブツ言いながら、今度は後ろの作業部屋へ移動し何やら細工を始めました。
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「よし!できたー!おーいカロ、はいこれ!」
「え?」
15分ほど経った頃、ラビが意気揚々と先ほどの木の棒を持って出てきました。
「お前、これ……」
「そ!さっきの木の棒!あげる!」
「いいのかよ、気に入ってたんじゃ――」
「いいからいいから!それよりほら、握ってみて!」
ラビは新しいおもちゃで早く遊びたい子供かのように、カロに杖を押し付けました。
さっきまで少し大きかった木の棒では、今はカロにぴったり合うサイズになっています。
戸惑いながらも、言われるがままカロは持ち手の部分を恐る恐る握りました。
「おわぁ!?すげぇ!光った!」
「やったー!大成功!」
「え?どういうこと?俺、魔法が使えるようになったの?」
「違う違う!これはね――」
ラビは“そもそも魔法とは”という原理から丁寧に説明を始めました。
しかし、カロは結局よくわかりませんでした。
唯一分かった情報は【魔法が使えない人でも持つだけで杖の先に埋め込んだ魔石の欠片が光るおもちゃをラビが作った】ということでした。
自分のために作ってくれたことがちょっと嬉しかったのでしょうか、カロはなんだかこの杖が少しカッコよく見えてきました。
「へへ、悪くないじゃん」
「気に入ってくれたなら何より!」
カロが楽しそうに杖を振り回してるのを見て、ラビも嬉しくなりました。
「いやぁしかし短時間ですげぇなぁ」
「構造がめちゃカンタンだからね!」
その後ラビは余った端材でもう1つ光る棒を作り、カロと魔法決闘ごっこをして遊びました。
その最中にお客さんがやってきてドン引きされました。ラビは消え入りそうな声で「いらっしゃいませ」と言いましたが、お客さんの耳には届かなかったようです。
「おい!お前が咄嗟に植木鉢の中に隠れたせいで、なんか光る棒で一人はしゃいでるウサギになっちゃったじゃないか!恥ずかしい!」
お客さんが帰ったのを確認するや否や、ラビはカロに向かって文句を言います。
ですが、カロは真っ赤な顔したラビを見てずっと大笑いしていました。
「あーおもしろ。――しかしこれ、ホントに売れんじゃない?」
「どうだろう、そうなったらいいね!」
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その後、この「光る棒」が爆発的ヒットをし、ラビはとある大商会に販売権利を与え、莫大なお金を手に入れることになります。
――ですが、それはもう少し後になってからのお話です。




