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Day.2【今日は店番をします】

魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ(さつきらび)”というウサギの獣人がいました。


彼は街の外れで小さな魔法道具屋を営みながら、それなりに充実感のある日々を送っていました。

彼の1日は、日課であるマンドラゴラの“カロ”への水やりから始まります。

「おはようカロ、今日は店番よろしく頼むよ」


店内は狭いながらも整理されており、商品はきちっと並んでいます。

よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具など、いろんな商品を取り扱っている雑貨屋のようです。


ラビは水を入れた小瓶を持って、カウンター上の植木鉢のそばに置きました。

するとその植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろに小瓶を手に取って水を1口飲みました。


「まかせて。きっと誰も来ないし、もし来たら驚かして追い返すから」

「絶対やめてね?」


ラビは時々、ギルドのクエストや資源採取のため、お店を離れることがあります。

そういう時はマンドラゴラのカロが店番をするのですが、そもそもあまりお客さんが来ないので、今のところトラブルは起きたことがありません。


「冗談だよ。気を付けて行ってら」

「はーい、じゃあ行ってくるね」


ラビはコンパクトにまとめられた冒険用のバッグを持って出発していきました。


それを見送ったカロは大きく伸びをしてから、小さく「よし」っと気合を入れ、カウンターの上で本を読み始めました。


あらかじめラビにお願いして、色んな“店番グッズ”を手の届くところに置いてもらっていたのです。

水の小瓶に魔導書、お手入れ用(?)のピンセットや、万が一お客さんが来たときのための釣り銭などです。


カロは鼻歌を歌いながら本を読み進め、とてものどかな時間を過ごしていました。


---------------------------------


――太陽が一番高いところを少し過ぎたころ、カロは自分のいびきの音に驚いて目を覚ましました。

「んが!はっ!?……あー、いつの間にか寝ちゃってたか」


カロは独り言のように状況確認をすると、短い手で頭をかきながら大きなあくびを一つしました。


「んー、今日も平和でいい感じだなぁ」


カロはそう言った瞬間、続けざまに「あ、やべ」と漏らしました。

そうです、カロはしっかりと“フラグ”を立ててしまったのです。


寝ぼけていたとはいえ、カロはなんてことを口走ってしまったのかと後悔しました。

この後、絶対にろくなこと起きません。逆らえない運命(さだめ)なのです。


カロは「やっぱ今のなし、めっちゃ大波乱の予感」とかなんとかブツブツ言ってましたが、すでに手遅れでした。


入口の方を見ると珍しい客が訪れています。


「――おい見ろ。ここの道具屋、誰もいねぇぞ」

「そうみたいだな。まったく、不用心は良くないぜぇ?」

「ね、ねぇやっぱりやめとこうよ。すぐ誰か戻ってくるかもしれないよ」


見るからにならず者の雰囲気を漂わせているチンピラが3人、店の入り口から中を覗いてコソコソと話していました。


「うるせぇ!そんなんだからおめぇはいつまで経ってもお荷物だって親父にも言われんだろ!」

「そうだ!こないだだっておめぇがあそこでヘマしなきゃ――」

「わ、わかったよぅ兄ちゃん殴らないで」


そんなやり取りをしている彼らは、どうやら兄弟のようです。

店内にソロリソロリと入ってくる彼らを見たカロは、何かを諦めたように項垂れ、数秒してから気持ちを切り替えて顔を上げて声をかけました。


「おいおめぇら!今なら見逃してやる。そのまま360度振り返って出ていきな」

「なっ!誰だ!?」

「どこに隠れてやがる!?」

「360度じゃ元の位置に戻っちゃうよぉ」


慌てる兄2人と、冷静なツッコミを入れる末っ子、そしてガチ間違いが恥ずかしすぎるカロの間に、7秒ほどの静寂が流れました。


「す、少しは頭のキレるやつがいるみたいd――」

「お、おい!あそこ見ろ!」

「な……!マンドラゴラじゃねぇか!?」

「うわぁ、本物はじめて見たよぉ」


カロは普段大人しく植木鉢に収まっていますが、ひとたび土から出ると恐ろしい叫び声を上げ、聞く人の耐性によっては死に至らしめることもあります。

そして厄介なのは、自らの意思で植木鉢から出ることは出来ても、叫び声は一切コントロールできないことです。


本人曰く、『土から出るとなんか叫んじゃう』そうです。


「おい、あんまり俺を怒らせない方がいいぜ。今のは俺が喋るターンだっt――」

「やべぇ!こいつ売ったらいくらになるんだ!?」

「人生3周ぐらい遊んで暮らせるんじゃねぇか!?」

「この子、うちで飼えないかなぁ」


カロは基本的に争いごとが嫌いです。

それは平和主義という立派なものではなく、面倒くさいことが嫌いなのです。

しかし、そんなことよりもカロが嫌いなのは、“会話のキャッチボールができない奴”でした。


「い、いい度胸じゃねぇか。これが最後の忠告d――」

「やった!ついに俺ら勝ち組になれる……!!」

「長かった……、ここまで長かったぜ!」

「ねぇ君、普段なに食べてるの?」


カロはその瞬間、植木鉢から飛び出しました、それはもう勢いよく。

イメージ的にはヒーローが元気100倍になった時ぐらいの感じです。


ラビの店を中心に衝撃波のようなものが肉眼で確認できるほど、カロは叫びました。

しかし当時の状況を聞いても、カロはよく覚えてないと言います。


チンピラ3兄弟は何が起きたか理解する間もなく、一瞬にして気絶してしまいました。


---------------------------------


「ラビー怖かったよー」

「ホントに?棒読みっぽいのは気のせい?」


ラビが出先から戻ってくると、床に転がっているチンピラ3人が目に飛び込んできました。

その後、改めて店内を見回すとポーションなどの割れ物がいくつか破損しているのが確認できます。


カロは『あいつらがいきなり入ってきて、止める間もなく暴れ始めたんだ!』と証言しています。


「俺を見つけるなり、『こいつぁ高く売れるぞ!』って連れ去ろうとしたんだ!誘拐されそうになったんだ!うぇーん!」

「まぁそれは本当っぽいけど……。カロはそういうのビビるタイプじゃないだろ」


隠す気のないカロのウソ泣きを見ながら話しを聞いていると、先ほど手配した街の警備兵が到着しました。

多少お店に被害があったのも事実なので、ラビはカロから聞いた状況をそのまま警備兵に説明し、放心状態の3兄弟を警備兵に引き渡しました。


「ふぅ……。ま、お店を守ってくれたのは事実か。ありがとねカロ」

「全然いいよ!ところで晩御飯なに?」

「いや切り替え早いよ」


ラビは笑いながら「先に片付けしちゃうから待ってて」と言うと、カロはとても不服そうでした。


しかし、割れた瓶を見ながら「むむ、何やら衝撃波のようなもので割れた形跡が……」とラビがつぶやくなり、カロは「片付け大変だよね。僕は大人しく本を読みながら待ってるね。頑張ってね」と背を向け、ラビと目を合わせようとしませんでした。


実はカロってめっちゃ強いし、かなり特別な存在なんですよね!まぁそれはまた別のお話で……。

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