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Day.12【いたずらウサギ】

魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。


彼は街の外れに構える小さな魔法道具屋を営みながら、それなりに充実感のある日々を送っていました。


彼の1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まるのですが、今日は少し違います。


ラビは魔法道具に使用する素材を集めるため、久しぶりにダンジョンへ足を運んでいました。

街から半日も歩けば辿り着く、小規模で、冒険者の中では「初心者向け」と評されているダンジョンです。


「う~ん、せっかく天気が良いのにこれから薄暗いとこに行かなきゃいけないの、憂鬱だなぁ」


森を少し入ったところにある初心者向けダンジョンにたどり着いたラビは、木漏れ日の気持ち良い場所で小休憩を取りつつ独り言ちました。


「ま、ちゃちゃっと採取して帰るしかないかー」


重い腰を上げて、ラビはダンジョンへ足を進めます。


――


ダンジョンの中では、あちこちに罠があります。


ラビは今日最初のトラップの前でしゃがみ込み、よく観察します。

とはいえ仕掛けは単純なものが多く、ゴブリンやコボルトのような知能の高くないモンスターが作っただろうことが一目でわかります。


「油断はよくないけど、この程度のトラップは解除も簡単、っと」


ラビは鼻歌まじりの手慣れた様子で罠を解除しました。


――


こうしたダンジョンはあらかた攻略されているので、奥には魔法陣による安全なエリアがあったりします。


そうした場所で休憩を取りつつ、時折現れるモンスターを倒したり罠を無力化しながら順調に奥へと進みました。


そうして何個目かわからない罠を見つけたとき、ラビはふと気になってしまいました。


「……なんでこの場所にこの罠なんだ?」


ここの通路は狭いですが、壁際を歩けば難なく避けられる位置に罠があります。

転ばせたいのか足止めしたいのか、意図が中途半端です。


「設置したヤツ、たぶん“ここならひっかかるだろ!”って思ったんだろうけど……」


ラビは顎に指を当て、罠と通路を交互に見ました。


「いやー甘いよなぁ。僕ならここで罠を避けさせた先に別の罠を置くけどな……」


ぽつりと漏れたその言葉に、自分で気づいて、ラビは小さく笑います。


「やっぱ僕は性格悪いな!」


少々イジワルな自覚はあるようですが、悪びれる様子もなくラビは笑いながら自虐しました。


周りを見渡し他の冒険者がいないことを確認しながら、「よし!どうせなら効率的で無駄のないトラップにしてやるかー!」と言い、道具袋をガサゴソとしはじめました。


「こっちにこういうのを置いとくだけで全然違うんだぞ、っと」


誰に言うでもなくそう呟きながら、もっている道具を駆使してあっという間に追加の罠を作ってしまいます。


――ラビはその後、目的の素材採取も忘れずに達成しつつ、道中で解除した罠をカスタマイズしながらもと来た道を戻って行きました。


「ここはほら、こうすれば……」


「ん~、ダンジョン全体で考えるとこっちにこのトラップのほうが嫌だな」


次々に元の罠に手を加えていきます。


「あー、こっちは高さが足りないな」


「このトラップは悪くないけど、糸はもっとピンと張っとかないと……」


本人は無邪気に工作しているほのぼのした風景と思っているかもしれませんが、誰かがこの姿を見たら背後に鬼か悪魔かがうっすり浮かび上がってもおかしくありません。


「うはー!これは傑作!絶対引っかかるわ!」


なんかもう引くぐらい、本当に楽しそうに作業をしています。


――ちなみにですが、どれも命に関わるような罠ではありません。


それらはシンプルに転ばせたり石が飛んできたりするものから、しばらく取れないような汚れや帰りたくなるような臭いがつくもの、しばらく具合が悪くなるデバフがつくものなどなど……。大したダメージにはなりませんが、喰らったら熟練者でもゲッソリするような罠たちです。


頭の中で動作をシミュレーションしながら、あちこちに改良した罠を設置していき、気づけば入り口付近まで戻ってきていました。


「うーん、いい仕事をした!」


ラビは満足げにうなずきながら、大げさに額の汗を拭うジェスチャーをしています。


「本音は誰かがトラップにかかってるとこ見たいけど……、もう帰らなきゃなぁ」


名残惜しそうにしつつも、「ま!初心者にはいい訓練になるだろ!がんばれ!」と、まだ見ぬ被害者にエールを送りながらラビは帰路につきました。



――数日後。


納品でギルドまで来たラビは、ギルド併設の酒場で偶然こんな噂を耳にします。


「――知ってるか?あそこのダンジョン、なんか難しくなったらしいぞ」

「あー聞いた聞いた。大したモンスターが出ないってのは変わらんが、トラップの類が妙にいやらしくなったって」


ラビは納品の作業で手を動かしつつ、同じくらいぴょこぴょこと耳も動いています。


「オレ最近行ったぞ!確かに、どのトラップも相当うっとうしかったな……。命に関わるもんじゃなかったが、あれ作ったやつぁかなり底意地が悪いぞ」

「そんなトラップが作れるモンスター、もしくはそれを指示するヤツが現れた、ってことか……?」

「いずれにしても、相当陰湿で根暗な野郎だろうよ。まったく、行きづらくなっちまったぜ」

「噂じゃあ初心者冒険者が軒並みボロボロで帰ってくるから、ギルドも調査に乗り出すらしい――」


ラビはパタリと耳を折り曲げて、聞き耳を立てるのを止めました。


やることを終えたラビは帰り支度をしつつ少しだけ不安そうな表情を浮かべました。

ですがすぐにいつもの表情に戻り、「ま、大丈夫っしょ!」とつぶやきながら、ギルドを後にしました。


――


ラビが自分の店に戻ってくると、カロは読んでいた本をパタリと閉じて、ラビに短い報告をしました。


「お、おつかれーい。こっちは異常なかったよー、そっちは?」


「ただいまー、久々に楽しかったよ!」


その後ラビは、カロにしっかりと怒られました。

怒られた理由は『どうしてトラップにかかった冒険者の様子を見届けなかったのか!』ということでした。


「まったく!トラップ作るだけで満足するなんて甘いよラビ!具合悪くさせる罠作ったなら偶然通りかかった冒険者として『回復薬ありますよ!』って売りつけるくらいの商魂を見せてほしいもんだよ!!」


「何食べたらそんな悪いこと思いつくの?」


なんだかんだで、彼らは似た者同士なのかもしれません。


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