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Day.11【世界は誰かの仕事でできている】

魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。


彼は街の外れに構える小さな魔法道具屋を営みながら、それなりの日々を送っていました。


街の外れにある小さな魔法道具屋のカウンターで、桜月ラビは頬杖をつきながらモンスター図鑑を眺めていました。ぱらりと一枚めくるたびに、ラビは小さく息を吐きます。


「……いや、おかしいだろこれ」


店内は狭いながらも整理され、商品はきちっと並んでいます。

そんな商品棚の一角に置いてある植木鉢の中から、マンドラゴラのカロがもぞもぞと顔を出します。


「何が?」


ラビは本から目を離すことなく、カロの質問に答えました。


「いま、暇だったからモンスター図鑑見てるんだけどさ」


「いや仕事しろよーい」


「図鑑の挿絵がどう見ても上手すぎるんだよね」


ラビは図鑑を少し持ち上げ、カロにも見えるように傾けました。

そこには、今にも動き出しそうなモンスターの姿が、細部まで丁寧に描かれています。


「鱗の重なり方とか、筋肉の付き方とか……絵がうまい人が描くにしたって、ちゃんと“観察”しないと描けないでしょこれ」


「まあ、図鑑なんだしそういうもんじゃね?」


カロは深く考えずに答えましたが、ラビは「そんな一言では説明がつかん!」と興奮気味です。


「普通さ、モンスター見たら逃げるか、戦うかでしょ?でもこの人たち、観察できる距離で立ち止まって、構図考えてるはずじゃん」


「……なるほど?」


ラビはページを指でなぞりながら続けます。


「もともと冒険者の人が後世のためにいっぱい絵の練習をして図鑑を作ってくれたのか、もしくは」


「もしくは?」


「モンスター大好き絵師がモンスターをリアルに描きたくて冒険者になったか……」


「後者なら正気の沙汰じゃないね」


その後もパラパラと図鑑をめくりながら、「ほら、このページなんか特に――」と、図鑑の描き込みがいかに異様かを熱弁しています。


「――たぶんモンスターを前にして、心の中でこう思うんだよ。“あ~この角度だと迫力足りないな”って」


それを聞いたカロは植木鉢の縁に手を置き、少し身をよじりました。


「想像すると狂気じみてて怖いね」


「でしょ!?」


「逃げるか、描くかで……描くを選んだ人たちがいる」


ラビはゆっくりうなずきます。


「『資料が欲しい、もっと近くで見たい、実物じゃないといい線が描けないぃぃ!』とか言いながらダンジョンに行くんだ、きっと」


「えぐい」


ラビは図鑑をそっと閉じ、少し遠くを見るような目をしました。


「でも……、そういう人がいなかったらこの図鑑は存在しないんだよな」


「それはそうだな。こういう知識って、誰かの狂気の上に成り立ってるもんだよ」


「やっぱ妄想しながら読む本は面白いなぁ」


「楽しみ方あってるかわからんけど、面白いなら何よりだ」



ラビは図鑑を棚に戻し、大きく伸びをしながらおもむろに別の本を手に取りました。


「次はなんの本?」


「これも同じ絵師さんが担当してるサバイバルで役立つレシピブック」


「いや仕事しろよーい」


今日もラビの魔法雑貨屋は、のんびりとした時間が流れています。


図鑑って、見てるの楽しいよね

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