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Day.10【ニッチな新商品】

魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。


彼は街の外れに構える小さな魔法道具屋を営みながら、それなりの日々を送っていました。

彼の1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まります。


「おはようカロ!昨日さ、おもしろい商品を入荷したよ!見て見て!」


店内は狭いながらも整理されており、商品はきちっと並んでいます。


よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具など、様々な商品を取り扱っている雑貨屋のようです。


ラビは水の入った小瓶を、カウンターにある植木鉢のそばに置きました。


するとその植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろに小瓶を手に取って水を1口飲みました。


「どうせまた変な道具手に入れたんじゃないの?」


「失礼だなぁ。今回は結構面白いよ!」


「そのラビの基準が信用ならんって言ってんのよ」


カロはため息交じりにジロリとラビのほうを見ました。

が、そんなことはおかまいなしにラビは袋をガサゴソと漁っています。


そして、おもむろに取り出したのは“小さな砂時計”でした。

中の砂は淡く光っていて、とても綺麗です。


「じゃじゃーん!こちらの商品なんと、『5分間だけ時間がゆっくり流れる砂時計』です!」


「あれ?思ったよりよさげな商品」


「でしょ!焦ってる朝にピッタリ!」


「使い方が寝坊前提なの草」


ラビはそっと砂時計をカロの近くに置きました。

カロはまじまじと砂時計を眺め、「シンプルに綺麗だし、置物としても可愛いじゃん」と褒めました。


カロが素直に何かを褒めるのは珍しかったので、ラビは嬉しくなりドヤ顔しました。


しかし、補足情報を思い出し、ちょっと残念そうに言い添えました。


「ただ、残念ながら一日一回までなんだよねぇ」


「えー、でもそれぐらいなら全然デメリットにならないでしょ。いいんじゃない?」


「あ、ほんと?よかったー!」


「そういえば、これってどれぐらいゆっくりになるの?」


「えーと、説明書には“実際の1分が1億年ぐらいの感覚に引き伸ばされます”って書いてある」


「おいこれ実質“五億年ボタン”じゃねぇか!!」


「ごおく……ボタ、ン?」


「あ、それは通じないのね」


カロは何やらブツブツと「メタ発言の線引きがむずいな……」のようなよくわからないことを言っていましたが、はたと思い出したかのように激怒しはじめました。


「あっぶねぇな!バカかお前先に言えよ!!押すとこだったわ!!!」と怒鳴っていますが、ラビは気にも留めず説明書の続きを黙々と読んでいます。


「あ、あと“記憶は残ります”って書いてある」


「しかも本家より悪質やんけっ!!!!!!!」


「次、次行こう!まだ入荷したやつあるから!」


カロは怒号をあげ葉を揺らしながらラビに文句を言い続けましたが、ラビは全く気にすることなく袋を漁り始めました。


ラビが次に出したのは、魔法の杖のようなものでした。


「こちら、よくある魔法の杖に見えますが……」


「が……?」


「なんと!この杖、“左利き専用”なんです!」


「それは使い手のさじ加減じゃない??」


「チッチッチ」


ラビは「わかってないなぁ」といった雰囲気で、半笑いで人差し指を左右に振っています。


「カロさん、ほんとチッチッチですよ」


「いやその後に説得力あること言って初めて成り立つんだよ、チッチッチは」


「こちらの杖、なんと右手で使おうとすると魔力が遮断されるよう魔法陣が刻まれています」


「その杖の作者、右利き嫌いすぎじゃない?」


カロが文句ばかり言うので、ラビは拗ねながら杖をそっとしまい、次の商品を出そうと再び袋をガサゴソしました。


ラビが最後に出したのは、どこにでも売ってそうなマントでした。


「続いてはこちら!一見すると普通のマントに見えますが、なんとコイツ『風のない日もかっこよくなびくマント』なんです!」


「いやそういう描写あるけど」


カロは完全に呆れ顔です。


「誰が買うねんコレ」


「そりゃあ実用性よりロマンを求める人よ」


「ニッチすぎない??」


「いやこういうのが意外と売れるんだって!」


――その時、カラン、とドアベルが鳴りました。


「突然すまない、探してるものがあるんだが……」


そこにはやたらと綺麗に磨かれた鎧をまとったキザったらしい冒険者がいました。


冒険者は店内を見渡しながらゆっくりとカウンターへ近づき、こう言いました。


「実はマントを探してるんだ。僕の魅力を最大限引き出してくれるマント……。そう、風のない日でもいい感じになびいてくれるマントを、ね」


ラビとカロは口を開けたまま同時に固まり、お互い目を合わせました。


「いやすまない、そんなマントがあるわけnーー」

「あります!」

「えぇあるの!?」


冒険者は嬉しさのあまり一瞬取り乱しましたが、その後すぐ冷静さを取り戻し即決でマントを購入していきました。



お客様を見送り、ラビは満面の笑みでカロの方を見ました。


「……ね?売れたでしょ?」


「悔しいよりも驚きが勝ってる。すごいタイミングすぎて」


二人は『この感じなら砂時計もすぐ売れるんじゃない!?』と、どんな人が買いに来るかあーだこーだ予想をはじめました。





――あれから2か月経った今も、砂時計は棚に陳列されています。

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