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Day.9【日常こそ最高の舞台】

魔法と剣が栄えているとある世界に、“桜月ラビ”というウサギの獣人がいました。


彼は街の外れに構える小さな魔法道具屋を営みながら、それなりの日々を送っていました。

彼の1日は、日課である相棒のマンドラゴラ“カロ”への水やりから始まります。


「そして僕は言った。『おはよう』と……」


店内は狭いながらも整理されており、商品はきちっと並んでいます。

よくあるポーションの類、魔法石、乾燥した植物、古びた本、小さなナイフ、使い方のわからない魔道具など、様々な商品を取り扱っている雑貨屋のようです。


ラビは水の入った小瓶を、カウンターにある植木鉢のそばに置きました。

するとその植木鉢の中からモゾモゾとカロが顔を出し、おもむろに小瓶を手に取って水を1口飲みました。


「え、なにそのきっしょい口調」

表情に変化はありませんが、カロの眉間にしわが寄っているのが伝わってきます。


「迷い、そして考えながら僕はそっとカウンターを拭いた。すると、昨日までなかった文字がそこに刻まれていた」


よくわからない表現をしているラビは、お店の掃除をしながら開店準備を進めています。


「今日という日は二度とこない。だから、共に進もう……輝かしい未来に向かって」

「あーそういうドラマチックな口調で遊びたい日なのね、今日は」


くだらない何かを察したカロは、ラビが飽きるまで見守ることにしました。


「静かな店内に “コツコツ” と僕の足音が響く。少しの余韻を残して、そして消えていく」

「うん、そうだね~」


「時計の針を逆に進めても、時間の流れを止めることはできない」

「お、それっぽいね~」


カロは聞き流しつつ本を読んでいます。


「そう、それはまるで……なんかこう、あの~あれです」

「弾切れ早くない?」


「え~……あ、そうだ!そう、それはまるで僕が後ろ向きに歩いても、足音が“ツコツコ”って聞こえないかのように……」

「雰囲気でごまかせないくらい“アホ”が出ちゃってるよ」

「ミノタウロス」

「最後のだけよくわかんない、どういうこと???」


ラビはミュージカルのような少し大げさな身振り手振りしながら店内の準備を進めています。

それを見たカロはあまりの陳腐さに大笑いしています。


「いや~、やっぱ素人には無理かこういうのは」

「動きは悪くなかったけどね!内容がゴミだっただけで」

「即興だったからあれだけど、台本さえあれば僕だってもうちょいできる!はず」

「なにに感化されたのさ」

「そうそう聞いてよ!昨日さ――」


聞くと、どうやら昨日買い出しに出かけた際に旅の一座を見かけたそうです。


「はーん?なるほど、それに影響を受けたのか」

「それでね、その一座の人が言ってたんだ。“日常こそが最高の舞台だ”って」

「おー、プロが言うとカッコいいね」

「だから、僕もここで初公演をしようと思って」

「……は?」

「観劇型魔法道具屋。どう?」

「考え直したほうがいいのは明らかだけど、面白そうだし続けて?」


ラビはいつの間にか、店の中央に立ち、深く一礼をしました。


「では――第一幕。静かな朝の魔法道具屋」

「うわー、想像の8倍ぐらい共感性羞恥がエグい」

「やぁ!僕は世界を救わない冒険者」

「ただの一般人(モブ)で草」

「今日も小さな幸せを誰かに届けるため、始まりの扉を開く……」


ラビがそう言いながらお店のドアを開けると、ちょうどタイミングよく1人のお客様が入り口に立っていました。


「い、いらっしゃいませ!」


さすがのラビも咄嗟に接客モードに切り替えました。

扉の向こうに立っていたのは、メイドのような可愛らしい服を着た女性です。

ラビはおぼろげに(あ、ギルドの受付で見たことのあるお姉さんだ)と思いました。


「開店早々にすみません!ギルドで頼んでた品物を取りにきたんですけど、大丈夫でした?」

「全然大丈夫です!少々お待ちを!」


ラビはバックヤードに荷物を取りに行きます。

そしてお渡しの準備をしていると、視界の端でカロが(公演中だろ!いけ!やれ!)と指示しているのが見えました。

「――こ、これはあなたに忍び寄る邪悪なる影を退ける守護のポーション……」

「はい?」

「すみませんなんでもないです」


ラビは恥ずかしくなり、ごまかすように慌ててお会計の準備を進めようとしました。

――すると、勢いよく振り返ったはずみでカウンターに腰をぶつけ、“()()()()()()()()()(※1)”の1つが転がりラビの足元に落っこちました。


「うわっ!」


ポンっ!と小さな破裂音をさせながら瓶が割れ、中身がラビにかかってしまいました。

それと同時に、ほんのり甘い香りが店内に広がります。


「だ、大丈夫ですか!?」

ギルドのお姉さんも心配そうに声をかけてくれました。


『あぁ、全然だいじょうb……あれ?』


お姉さんに大したことないと伝えようと言葉を発した途端、あまりの違和感にラビは思わず喉元を押さえました。

ギルドのお姉さんも思わず「え?」っと声をあげます。


『す、すみません。ポーションの効果でめっちゃ声が高くなっちゃいました』


ラビが発言するや否や、お姉さんは見たことないスピードでラビから目を逸らし壁の方を向いてしまいました。なんだか手をグーにして目いっぱい力を入れて、小刻みに肩を震わせているように見えます。

そしてカロは植木鉢のフチをバンバン叩きながらバカ笑いしています。


『と、とりあえずお会計だけしちゃいますか』

「プッ……そ、そうです、ね……ブフゥ……!」

「…………っ!!!」


ただ無表情で立ち尽くすラビ。

壁の方を見て震えるお姉さん。

笑いすぎて呼吸困難になるカロ。


後日、ラビは『このカオスな時間は一生忘れない、永遠にも感じた』と語ってたそうです。


――


なんとか精算をし、足早に帰るギルドのお姉さんを見送りつつカロは言いました。


「あー、ホント日常が舞台とはよく言ったもんだね」

『本日で桜月座は解散します……』


※1:どんな効果が出るかわからない、通称 ガチャポーション。詳しくはep.6の<Day.5【ガチャ文化の誕生】>を参照。

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