その10の1「あっさりと仲直り」
「いや、見たことねぇからさ。
その絆とかいうのが、現実に落ちてるところを」
「温かみがあるのが、お芝居の良いところでしょう?
どうして捻くれた物の見方しかできないのですか」
「そういう性格なもんでな」
「……あなたを誘ったのは間違いだったかもしれません」
アムは顔だけを、レグとは反対に向けた。
「悪かったな」
アムが機嫌を損ねたので、帰宅することになった。
レグはアムを家に送り届け、すぐに帰っていった。
アムは無言で自室に帰った。
明らかに不機嫌な顔で、彼女はレイスにこう言った。
「あの男とは趣味が合いません。野蛮人です。
クビにしてください。
後任は、もっと話がわかる人にしてください」
「そう仰られましても、
適任者を見つけるのも簡単ではありませんから」
「いつになったら見つかるのですか。代わりの人は」
「そうですねぇ。二ヶ月はかかるかと」
「なるべく急いでください」
「善処します」
その翌朝。
学生にも社会人にも憂鬱な、休み明けの平日がやってきた。
レグは仕事のため、いつもの猫小屋を訪れた。
そこでぼんやりと待っていると、やがてアムが姿を見せた。
「おはよう」
「……おはようございます」
アムはぷいとそっぽを向いた。
昨日の不機嫌が、まだ残っているようだった。
(まだ拗ねてんのか。めんどくせえな。
けど……昨日は俺も良くなかったな。
べつにムキになるようなことじゃなかった。
良い劇だったなって言って、
それで済ませりゃ良かったんだ。
仕方ない。こっちから頭を下げるか)
「アム」
「……何ですか?」
「昨日は俺が悪かった。許してくれ」
そう言って、レグはしっかりと頭を下げた。
「…………良いでしょう。すなおに頭を下げたので、特別に許してあげます」
「ふふっ」
アムのそばで、レイスが笑みを漏らした。
「どうかしましたか?」
「いえ。何も」
……。
何事もなかったかのように、一行は学校に向かった。
問題なく授業をこなしていると、ホームルームの時間になった。
「それでは今日は、
来月の『屋外学習』の班決めをしていただきます」
そう言った後、担任教師のフリッツが、アムにこう尋ねた。
「オーウェイルさんは出席されますか?」
「私は……」
アムが言葉を詰まらせているのを見て、レグが疑問を向けた。
「ん? 何を悩んでんだ? 行けば良いだろ?」
「……気軽に言わないでください」
「行きたくないのかよ?」
「それは……」
まったく行きたくないというわけではないらしい。
アムの態度からそう察したレグは、彼女の代わりにこう答えた。
「行く寄りの保留でお願いします」
「わかりました」
ふわっとしたレグの言葉を、フリッツはすんなり受け入れた。
「それでは、四人から五人で班を組んでください」
フリッツがそう言ったので、生徒たちが立ち上がった。
「アムちゃん。いっしょに組もうよ」
ノーラがアムに声をかけてきた。
「行けると決まったわけではありませんが……」
「うん。決まりだね。それじゃあ……」
アムは弱腰だったが、ノーラは気にせずに班を組み上げてしまった。
あっという間に班決めは終わった。
ホームルームが終わり、下校の時間となった。
口数が少なくなったアムと並んで、レグは学校の猫小屋に向かった。
「何を悩んでるんだよ?
屋外学習とやらに行くと、死ぬのか? おまえ」
「死にませんけど。
この体で行っても、楽しめるかどうかわかりませんし……」
(けど、未練は残ってるよな。
体育の授業みたいな、
ぜったい無理って感じのやつでもないのか?)
もうちょっとつっついてみるか。
そう思い、レグは疑問符を重ねた。
「屋外学習ってのは、具体的には何やるんだ?」
「カヤックに乗って川下りをしたり、山に登ったり。
屋外でカラダを動かし、
自然を楽しむことが目的の行事です。
私が参加するには、不適だとわかるでしょう?」
「…………」
「……納得したようですね。
やはり私が出席するような行事ではないのです。
あした先生に断りを入れておくことしましょう」
「…………」
「何か言ったらどうなのですか?」