その8の1「レグと昔なじみ」
不意の再会に、そこまで驚いてはいないのか。
魔術師、ムク=セイレンは、落ち着いた声で疑問をはなった。
「あなたもお買い物?」
「その付き添いだな。
とりあえず、警察を呼ぶのが良いんじゃないか?」
「そうですね。そうしましょう」
ルキナ=レイガルルが、レグに賛同した。
ムクが遠話箱で警察に通報した。
盗まれたバッグは、遅れてやってきた持ち主に返された。
すぐに警察がやって来て、犯人を連行していった。
事態が収拾されると、ルキナがレグにこう尋ねてきた。
「リカールさん。これからの予定は?」
「さて、雇い主しだいだが……」
そのとき、レグの通信機が鳴った。
遠話箱ではない。
レイスから手渡された特別製だ。
レグはすぐ、ポケットから通信機を取り出した。
「はい」
「今どちらに」
通信機から、レイスの声が聞こえてきた。
「通りに居ますよ。
店から出て左のほうです。はい」
レグは文房具店のほうへ視線を向けた。
やや距離があるが、レグの視力は天職の力で強化されている。
米粒のようなレイスの姿を、はっきりと視認することができた。
レイスもレグに気付いたようだ。
天職レベルが低いアムだけは、レグの位置がわからないようだった。
アムを連れて、レイスがレグに近付いてくる。
それを見て、レグもレイスに脚を向けた。
「じゃあな」
「あっ、リカールさん」
そっけなく去ろうとしたレグを、ルキナ=レイガルルが追いかけた。
それで他の冒険者たちも、ルキナに続くことになった。
すぐにレグたちは、アムたちと合流した。
「そちらのかたがたは……?」
レイスは冒険者の一団に、警戒したような視線を向けた。
ルキナたちの代わりに、レグが疑問に答えた。
「冒険者時代の友だち……じゃないな。
ちょっとした顔見知りってところですかね」
「えっ」
ルキナが傷ついたような表情を見せた。
「そうですか。始めまして。
レイス=ナーガエールと申します」
「どうも。ルキナ=レイガルルです」
「レイガルルさん……!?」
声を高くして、アムが驚きを見せた。
「アム? どうした?」
珍しいテンションのアムに、レグが疑問符を向けた。
「どうしたもこうしたも……
レグあなた、あのレイガルルさんとお友だちなんですか……!?」
「さっきも言ったが、
友だちなんて馴れ馴れしい関係じゃない。
レイガルルには、冒険者だった頃に助けてもらったんだ。
命の恩人ってやつだな」
「さすがレイガルルさん。
人知れず、誰も見ていないような所でも、
名も無きレグを救っているのですね」
アムは憧れに満ちた目をルキナに向けた。
初対面の相手に向けるにしては、だいぶ暑苦しい瞳だ。
ルキナのほうは、こういうヤカラに慣れているのか。
特に気圧された様子もなく、謙遜の言葉を口にした。
「いや。そんな大したものじゃないよ。私なんて。
ところでキミは……?」
「あっ失礼しました。
私はアム=オーウェイルと申します。学生です」
「オーウェイル? ひょっとして一等貴族の?」
「その通りです」
「それは……失礼しました」
姿勢を正そうとしたルキナを、アムが制止した。
「畏まらないでください。
気軽に接していただけるとありがたいです」
「うん。ところで……キミはリカールさんとどういう関係なのかな?」
「こいつは俺の雇い主なんだ」
「ふぅん……? ところでリカールさん。
もし良ければ、これからいっしょに食事でも」
「アムが良いなら」
「良いに決まっているでしょう?」
わずかな隙間もなく、アムは即答した。
「だそうだ」
「レイ。店の手配をしてください」
「かしこまりました」
……。
レイスは迅速に、近場のレストランの手配を済ませた。
レストランに入った一行は、広い個室へと案内された。
そこで大きなテーブルを囲み、レグたちは着席した。
腰を下ろしてすぐ、ルキナが口を開いた。
「良さそうな店だね」