表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/58

その7の1「レグと休みの予定」


「ばいばい」



 ノーラが帰りの挨拶をした。



「はい。また明日」



 ノーラと別れ、レグたちは猫小屋へ向かった。



 その道中。



(こいつ一回も……トイレに行かんかったな)



 アムを横目で見ながら、レグはそう考えた。



 レグの内心を知らないアムは、きょとんと視線を返してきた。



「どうかしましたか?」



「いや。便利な世の中になったもんだと思ってな」



 女子に対し、『おまえのシモのことを考えてたんだよ』などとは言えない。



 レグは話をはぐらかした。



「…………?」



 やがて一行は、猫小屋に到着した。



 小屋の中では、白猫がだらけきっていた。



 すやすやと眠っていた猫を、レイスが揺り起こした。



 次にレイスは、アムを鞍に乗せた。



 行きと同じように、レグは車椅子を『収納』し、猫を出発させた。



 しばらく通りを駆けた猫は、オーウェイル邸の前に辿りついた。



 館の塀の門。



 その前に、衛兵以外の人影が見えた。



「……お父さま?」



 鞍の上で、アムが口を開いた。



 人影の正体は、アムの父のジャバックだった。



「アムか。奇遇だな」



 偶然を装って、ジャバックが声をかけてきた。



「ここで何を?」



「息抜きに、散歩でもしようと思ってな」



「そうですか。ただいま帰りました」



「ああ。お帰り。


 どうだった? 久しぶりの学校は」



「さすがに前と同じとは行きませんが、


 大きな問題もなく、授業をこなすことができたと思います」



「そうか。何か困ったことがあれば、すぐに言うんだぞ」



「はい。ありがとうございます」



 ジャバックは少し立ち位置を変え、後ろのレイスに声をかけた。



「レイス」



「はい」



「本当に何もなかったのだな?」



 ジャバックの疑問に、レイスは涼しく答えた。



「はい。つつがなく」



「ならば良い」



 話を終えたジャバックは、家に戻ろうとした。



 それを見て、アムが疑問符を見せた。



「お父さま。散歩に行かれるのでは?」



「さっき帰ってきたところなんだ」



 ジャバックに続いて、レグたちは門をくぐった。



 ジャバックはそのまま館のほうへ。



 レグたちは猫小屋へと向かった。



 小屋でアムをおろし、鞍を外し、レグの仕事は終わりとなった。



「お疲れさまでした。


 また明日もよろしくお願いします」



「はい。また明日」



 レグがレイスにそう答えると、次にアムが口を開いた。



「レグ」



「ん?」



 アムは車椅子の位置を微調整し、しっかりとレグに向き直った。



「……今日はありがとうございました」



 妙にいいづらそうに、アムはレグに礼を言った。



「仕事だし、そんな畏まらんでも」



「体育の時の話です」



 アムの礼は、運転に対してではないらしい。



 ボールから、アムを守ったことを言っているようだ。



 それだってべつに、わざわざ畏まることでもない。



 レグはそう思い、アムにこう返した。



「べつに良いって。鋼鉄の右腕でなんとかできたんだろ?」



「そうなのですけどね」



「んじゃ」



「はい。んじゃです」



 自由の身となったレグは、小屋の出口に足を向けた。



 アムとレイスも、レグに続いて小屋から出た。



 レグは庭の出口に向かった。



 途中、視線を感じたような気がして、レグはちらりと振り返った。



 するとアムが、自分を見送っているのが見えた。



 そんなていねいにしなくても。



 とっとと家に入って、茶菓子でもかじってろよ。



 そんなふうに思いながら、レグは門を抜けた。



 そして通りを歩き、自宅であるアパートへと帰っていった。



 アパートにたどりついたレグは、狭い自室に入った。



(狭いなぁ。狭いしきたねぇ)



 煌びやかな豪邸、国家のエリートたちが集う華やかな校舎。



 今までのことが夢に思えるほどに、レグの部屋はしょぼくれていた。



(けど……)



 レグはベッドに転がって、脱力して天井を見上げた。



(俺はこれくらいが落ち着くな)



 見慣れた薄汚い天井は、レグを安心させた。




 ……。




 だらだらと過ごしていると、翌日になった。



 その日もレグは、変わらずにドライバーの仕事をこなした。



 レッティがケンカを売ってきたりはしたが、平和に一日が過ぎていった。



 次の日も、その次の日も、特に問題は起きなかった。



 そして休日の前日。



 猫小屋に帰ってきたところで、アムが口を開いた。



「レグ。明日は暇ですね」



「ナンデやや断定口調なん?」



「暇でしょう?」



「まあ暇だけど」



 今のレグは、アムの専属ドライバーだ。副業はない。



 休みに遊びに行くような仲間も居ない。



 独りだ。



 暇そのものだと言えた。



「そうでしょう?


 筆記用具を見に行きたいので、


 猫をお願いしても良いですか?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ