2話.新しい日々、残る温もり
彼の最後のメッセージが残るスマートフォンの画面を、彼女はもう一度見つめた。指先でそっと彼のアイコンをなぞる。彼の写真が浮かび上がり、あの屈託のない笑顔がそこにあった。まるで、つい先ほどまで隣にいてくれたかのように、鮮明な記憶が蘇る。
新しい日々、残る温もり
彼がいなくなってから、どれくらいの時間が経っただろう。季節は巡り、桜が咲き、そして散り、今は新緑がまぶしい季節になった。彼女の日常には、彼がいた頃とは違う静けさがある。それでも、彼との思い出が色褪せることはない。
彼に渡すはずだったキーホルダーは、今も彼女のバッグに付けられている。時折、ふとした瞬間にそれが目に入ると、胸の奥がきゅっと締め付けられる。けれど、その痛みは、彼がどれほど大切な存在だったかを思い出させてくれる温かい痛みでもあった。
ある日、彼女は彼の母親から預かった彼の日記を読んでいた。そこには、彼女と出会ってからの彼の心の動きが綴られていた。彼女への想い、病気への不安、そして彼女を傷つけたくないという切ないほどの優しさ。最後のページには、震えるような文字でこう書かれていた。
「もし、もう一度会えるなら、彼女の笑顔を一番近くで見ていたい。あの優しい声を聞きたい。ごめん。そして、ありがとう。」
日記を読み終えた彼女の目から、再び涙が溢れ落ちた。けれど、それは悲しみだけの涙ではなかった。彼の深い愛情を知り、心が満たされるような、温かい涙だった。
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