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八話:殺人鬼②


 黒四季死生は、港の廃船置き場での激戦を終え、殺人鬼を仕留め損ねた苛立ちを抱えながら、傷だらけのパワードスーツを体に収めて自宅へと戻った。


 腕の切り傷は応急処置済みだが、スーツの損傷は深刻で、疲労が重くのしかかる。簡素な住処の扉を開けると、室内に予想外の客が待っていた。


 蒼白いローブに身を包み、背中に光の翼のようなオーラをまとった女性が立つ。

 彼女の瞳は透き通るように冷たく、だがどこか神聖な威厳を放っていた。


 彼女は一礼し、落ち着いた声で名乗る。


「世界治安維持機構『天使』のエクシア、よろしくお願いします。先ほど殺人鬼と戦闘を行われてましたよね? 事情聴取にお付き合いください」


死生は一瞬目を細め、彼女を値踏みする。


「治安機構の天使か。ずいぶん物々しい」


 彼はドアを閉め、椅子にドサリと腰を下ろす。スーツのメンテナンスキットを手にしながら、続ける。


「殺人鬼は逃げた。超速再生の化け物だ。正体も目的も分からない。それで俺に何の用だ?」


 エクシアは無表情に近く、だが丁寧に答える。


「その殺人鬼は、機構が追跡中の『イレギュラー存在』です。あなたが戦った個体は、通常の人間を超えた能力――超速再生や異常な戦闘力を有しています。詳細な戦闘記録とあなたの観察を共有いただきたい。協力していただければ、機構の保護や情報提供も可能です」


 死生はキットをテーブルに置き、腕を組む。


「保護はいらねえ。情報なら欲しいな。あの化け物、ただの殺人鬼じゃないな? 何が起きている」


 エクシアは一瞬沈黙し、言葉を選ぶ。


「現時点で公開できる情報は限られますが、殺人鬼はダンジョンコアの影響を受けた可能性があります。機構は、こうしたイレギュラーが都市の治安やダンジョン攻略に与える脅威を調査中です。あなたのような攻略者の証言が、追跡の鍵となります」


 協力の価値は理解している。


「わかった、話そう。けど、俺も殺人鬼の次の動きや、ダンジョンコアとの繋がりについて情報が欲しい」


 エクシアは微かに頷く。


「了解しました。では、戦闘の詳細からお聞かせください。時間は惜しいです」


 彼女は魔力で投影される記録装置を起動し、死生の話を待つ。部屋に緊張感が漂う中、死生は殺人鬼との戦いを振り返り始める。ナイフの立体機動、超速再生、執拗な襲撃――その全てが、単なる犯罪を超えた何かを感じさせた



 死生の簡素な住処で、黒四季死生と世界治安維持機構「天使」のエクシアは、殺人鬼との戦闘に関する事情聴取を終えた。死生はパワードスーツの損傷や戦いの詳細――ナイフを逆手に持つ殺人鬼の立体機動、超速再生の異常さ、港での逃走劇――を淡々と報告。


 エクシアは魔力投影の記録装置にデータを保存し、事務的な口調で締めくくる。


「ご協力感謝します。これで機構の追跡に進展が期待できます」


 彼女の蒼白いローブが微かに揺れ、光の翼のようなオーラが部屋の薄暗さに映える。死生は椅子に凭れ、疲れた身体で息を吐く。


「殺人鬼の情報、約束通り早めに頂きたい」


 彼はメンテナンスキットを手に、話を切り上げようとする。だが、エクシアは記録装置を仕舞い、立ち上がる代わりに一歩死生に近づく。彼女の声は変わらず冷静で事務的だが、微妙に抑揚が柔らかくなる。


「黒四季死生、報告は以上です。ただし……」


 彼女は一瞬言葉を切り、透き通る瞳で死生をじっと見つめる。


「機構の業務外で、あなたともう少し話したい。プライベートな付き合いとして、時間を取っていただけますか?」


 死生はキットの動きを止め、怪訝そうに彼女を見る。


「プライベート? 急に何だよ」


 彼の声には警戒が滲むが、エクシアの雰囲気には敵意がない。むしろ、彼女の無表情な顔に、ほのかな好奇心と――死生をよく知る者なら気づくかもしれない――わずかな好意の色が浮かんでいる。


 エクシアは事務的な口調を崩さず、だが言葉に微妙な熱が混じる。


「あなたは稀有な攻略者です。機構のデータでも、単独でダンジョン深部を制覇し、殺人鬼と渡り合う実力は突出しています。個人的に、その強さの源や、あなた自身のことを知りたいのです。たとえば、今夜、街の酒場で一杯どうです? 私の奢りで」


 彼女の目は真っ直ぐ死生を捉え、まるで事情聴取の延長のような自然さで誘うが、口元に微かな笑みがちらつく。

 死生は一瞬黙り、彼女の意図を量る。「天使が酒場ねえ……似合わねえな」


 彼は軽く笑い、キットをテーブルに置く。


「悪いが、今夜はパスだ。スーツがボロボロで、明日の準備もある。あと、俺、知らねえ奴と飲む趣味はない」


 エクシアは微かに眉を動かし、だがすぐに頷く。


「了解しました。では、別の機会に。あなたのような人物とは、ぜひ親交を深めたいので」


 彼女はローブを整え、光の翼が一瞬強く輝く。


「殺人鬼の情報は、機構から速やかに共有します。それでは、また近いうちに」


 彼女は一礼し、魔力の残響を残して部屋から消える。

 死生は一人残され、深い息を吐く。


「天使まで面倒な奴か……」


 彼はスーツの傷を眺め、殺人鬼の超速再生を思い出す。エクシアの誘いは、単なる好奇心か、それとも何か裏があるのか。闇の奥に潜む脅威と、彼女の微笑みが、死生の頭にちらつく夜だった。




 世界治安維持機構は、ダンジョンが遍在し、モンスターの脅威が世界を危機に晒すこの世界において、秩序と安全を維持するために設立された国際的な組織だ。


ダンジョンコアがモンスターやレアメタルを生み出し、放置すればモンスターが外に溢れて都市を壊滅させるため、治安維持機構は攻略者たちが効率的かつ安全にダンジョンと戦える環境を整えることを主目的としている。



黒四季死生の住処で、世界治安維持機構「天使」のエクシアとの事情聴取が終わった直後、突如として窓ガラスが粉々に砕け散る。


 爆風とともにエクシアが部屋に吹き飛ばされ、蒼白いローブが裂け、光の翼のようなオーラが乱れる。


彼女は床に叩きつけられながらも即座に身を起こし、血を拭って死生に叫ぶ。


「援護をお願いします、死生さん! 殺人鬼が――!」


死生は一瞬で状況を把握し「パワードスーツ、装着!」と叫ぶ。彼の声に反応し、パワードスーツが展開され、装甲が死生の体を包む。パルスブレードが青白く光り、ブースターが低く唸る。スーツの損傷は未修復だが、戦闘準備は整う。


 その瞬間、殺人鬼が窓枠に姿を現す。黒布はボロボロ、肩の傷は超速再生で癒え、両手に逆手のナイフが月光を反射。


 目には狂気が宿り、死生とエクシアを交互に睨む。殺人鬼は無言で跳躍、立体機動のような動きで天井を蹴り、エクシアに襲いかかる。


 エクシアは魔力の光を放ち、防御障壁を展開。ナイフが障壁を切り裂くが、彼女は間一髪で回避。


「死生さん、奴は強化されてる! コアの影響が――!」


彼女の言葉が途切れ、殺人鬼がナイフを投擲。死生はブースターで突進し、パルスブレードでナイフを弾く。火花が散り、部屋の壁が削れる。


「人の家で何してんだ!?」


 死生は右肩のグレネードランチャーを発射。爆炎が殺人鬼を包むが、超速再生で即座に復活。殺人鬼は床を蹴り、死生のスーツにナイフで斬りかかる。装甲に浅い傷が走り、警告音が鳴る。死生はブレードで反撃、殺人鬼の腕を狙うが、相手は壁を跳び、死角から再襲。


 エクシアが援護に動く。


「死生さん、連携を!」


 彼女は魔力で光の鎖を放ち、殺人鬼の足を一時的に封じる。死生は隙を突き、バズーカを構えて発射。爆発が部屋を震わせ、殺人鬼が壁に叩きつけられる。だが、肉体は即座に再生し、ナイフを振り回して鎖を断ち切る。


「しぶとい奴!」


死生はブースターで屋外へ飛び出し、殺人鬼を狭い室内から広い路地へ誘い込む。殺人鬼は追随し、屋根から屋根へ跳び、ナイフを連続投擲。死生はミサイルポッドで迎撃、爆風で屋根が吹き飛ぶ。エクシアが後方から光の矢を放ち、殺人鬼の動きを乱す。


「死生、頭部と胸部を狙って! 再生の核がある可能性が!」


 死生は頷き、ブースターで殺人鬼の懐へ突進。パルスブレードを両手で握り、頭部を狙う一撃を放つ。殺人鬼はナイフで受け止め、火花が散る。エクシアが光の鎖で殺人鬼の腕を再び封じ、死生にチャンスを与える。


「今だ!」


 死生はグレネードを殺人鬼の顔に叩き込み、爆発で頭部を吹き飛ばす。殺人鬼の体が痙攣し、崩れ落ちる。だが、再生の兆候が再び現れる。


 エクシアが叫ぶ。


「コアを破壊しないと止まらない! 胸部中央、急いで!」


 死生はパルスブレードを振り、殺人鬼の胸を切り裂く。緑に光る小さな結晶――コアが露出し、死生はそれを握り潰す。結晶が砕け、殺人鬼の体が金属と化す。


 静寂が戻る。死生は息を整え、スーツの損傷を確認。


 「これで終わりか?」


 エクシアはローブで血を拭い、頷く。


「おそらく。コアはダンジョン由来……機構で解析が必要です。あなたの実力、改めて評価します」


 彼女の瞳には、事務的な態度の下に微かな賞賛が宿る。

 死生は肩をすくめて言う。


「その称賛、有り難く受け取ろう」


 夜の街に、戦いの余韻が残る中、死生とエクシアは新たな脅威に備えていた



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