7話:殺人鬼①
ジュリアス・エメリーの家の暖炉が赤々と燃える中、死生とジュリアスはリリウムの今後について話し終え、話題が自然と別の方向へ移った。ティーカップを手に、ジュリアスがふと思い出したように口を開く。
「そういえば、最近、街で妙な噂が流れてるわ。連続殺人鬼の話。夜な夜な攻略者を狙って、暗がりで喉を掻き切るんだとか。特にダンジョン帰りの疲れた人がターゲットらしいわ」
彼女の声はクールだが、どこか警戒心が滲む。死生はスーツのメンテナンスの手を止め、工具を置く。
「殺人鬼? 物騒だな。攻略者狙いってことは、俺みたいな奴が標的か」
彼は軽く笑うが、目は鋭く光る。
「まあ、襲ってくるなら返り討ちにしてやる」
ジュリアスは眉を寄せ、カップをテーブルに置く。
「笑い事じゃないわよ。犯人は捕まってないし、目撃情報も曖昧。パワードスーツ着てても油断しないでよね」
「分かった。気をつけるよ。そろそろ戻る。スーツの調整、明日続きやる」
その夜、死生は自分の簡素な住処へと戻った。街は静まり返り、月光が石畳を淡く照らす。彼はパワードスーツを格納庫に置き、軽装で寝床に就く。だが、深夜、微かな物音で目が覚める。
スーツのセンサーなしでも、戦士の勘が危険を察知したのだ。
暗闇の中、窓の外で影が動く。次の瞬間、ガラスが静かに割れ、黒い人影が音もなく侵入。刃物が月光を反射し、死生の喉を狙って振り下ろされる。だが、死生は瞬時に身を捻り、ベッドから転がり落ちて攻撃を回避。床に着地し、近くのナイフを手に掴む。
「誰だ、テメェ!」
死生の声が低く響く。
襲撃者は全身を黒布で覆い、顔は見えない。無言で再び突進し、刃が空気を裂く。死生はナイフで受け止め、火花が散る。素手では不利だが、彼の動きはダンジョンでの戦いで鍛えられ、ナノマシンで強化されている。
相手の腕を捻り、肘打ちで顎を狙うが、襲撃者は異常な敏捷さで後退。
「チッ、ただの殺人鬼じゃねえな」
死生は息を整え、部屋の隅に置いた予備の小型パルスブレードに手を伸ばす。襲撃者はそれを見ると、窓から跳び出し、闇に消える。死生は追おうとするが、足元の血痕に気づく。自分の腕に浅い切り傷が走っていた。
「この俺に傷をつけるか」
夜の静寂を切り裂くように、パワードスーツを装着した。パワードスーツの電磁強化装甲が低く唸り、パルスブレードが青白く光る。傷ついた腕の血を拭い、死生は闇に溶けた殺人鬼の気配を追う。
月光が石畳を照らす街の路地裏、殺人鬼が再び姿を現す。黒布に身を包み、顔は隠れ、両手にナイフを逆手に握る。軽やかな足取りで壁を蹴り、まるで立体機動装置のような動きで跳躍し、死生に襲いかかる。
戦闘が始まった。
殺人鬼は壁から壁へと跳び、ナイフを振り回す。刃が空気を切り、死生のスーツをかすめる。死生はブースターを短く噴射し、横に滑る。
「動きが速えな!」
と吐き捨て、パルスブレードを構えた。殺人鬼は屋根に飛び乗り、ナイフを投擲。死生はスーツのセンサーで軌道を読み、ブレードで弾く。火花が散り、ナイフが石畳に突き刺さる。
死生は右肩のグレネードランチャーを発射。爆炎が路地を照らすが、殺人鬼は異常な敏捷さで跳躍し、爆発を回避。
空中で身を捻り、別のナイフを投げる。死生はブースターで急上昇、ナイフを躱すと、左肩のミサイルポッドを開放。誘導ミサイルが殺人鬼を追うが、相手は建物の角を蹴り、ミサイルを壁に激突させる。
「コイツ、何者だ!?」
死生は舌打ちし、ブースターを全開。殺人鬼が屋根から飛び降り、ナイフを逆手に持って突進。死生はパルスブレードで迎え撃つ。刃と刃がぶつかり、火花が夜を裂く。殺人鬼の動きは流れるようで、死生の攻撃を紙一重で躱し、逆にスーツの装甲に浅い傷を刻む。
死生は距離を取るため、ブースターで屋根の上へ。殺人鬼も即座に追い、立体機動で死生を追跡。死生はバズーカを構え、至近距離で発射。爆発が屋根を吹き飛ばすが、殺人鬼は爆風の直前で跳び、別の建物に着地。
死生はセンサーで追跡する。
「ぶっ殺してやる」
と吼える。殺人鬼が再び襲いかかり、ナイフでスーツの関節を狙う。死生はブレードで防ぎつつ、グレネードを足元に投下。爆発で殺人鬼が一瞬動きを止め、死生はその隙に突進。パルスブレードを振り下ろし、殺人鬼の肩を斬る。
血が飛び、初めて殺人鬼が低く呻いた。
だが、殺人鬼は怯まず、ナイフを振り回し、死生のスーツに新たな傷をつける。死生はブースターで急降下し、殺人鬼を路地に誘い込む。
狭い空間で、殺人鬼の機動力が制限される。死生は全火力を解放――グレネード、ミサイル、バズーカを一斉発射。爆炎が路地を飲み込み、殺人鬼の姿が消える。
静寂。
死生はセンサーで確認するが、殺人鬼の反応は消滅。だが、血痕と壊れたナイフだけが残り、姿はない。
「逃げやがったか……」
死生は息を吐き、スーツの損傷をチェック。損傷しているが問題ない。
路地裏の爆炎が収まり、焦げた石畳に殺人鬼の血痕と折れたナイフが残る中、黒四季死生はパワードスーツのセンサーで周囲を警戒する。殺人鬼の反応は消えたが、彼の勘はまだ危険が去っていないことを告げていた。
スーツの装甲には無数の傷が刻まれ、腕の切り傷が鈍く疼く。
「油断できねえ」
死生はパルスブレードを構え直し、ブースターをスタンバイさせる。
突如、背後の瓦礫が爆ぜ、殺人鬼が再び現れる。黒布は破れ、肩から血を流しながらも、その目は狂気と執念に燃えている。
両手に新たなナイフを逆手に握り、立体機動のような跳躍で死生に襲いかかる。速度は先ほど以上、まるで死の淵で力を増したかのようだ。
「まだやる気か!」
死生はブースターを噴射し、横に滑ってナイフの斬撃を躱す。殺人鬼は即座に壁を蹴り、角度を変えて再突進。
ナイフがスーツの肩装甲をかすめ、火花が散る。死生はパルスブレードを振り、青白い刃が殺人鬼のナイフと激突。衝撃で両者が弾かれ、死生はブースターで距離を取る。
殺人鬼は無言で追撃。屋根から屋根へ跳び、ナイフを連続投擲。死生はセンサーで軌道を読み、ブレードで弾き返すが、一本がスーツの脚部に命中。装甲が軋み、警告音が鳴る。
「チッ、しぶとい!」
死生は右肩のグレネードランチャーを発射。爆炎が殺人鬼を包むが、相手は爆風を逆手に跳躍し、死生の死角から襲う。
死生は咄嗟にブースターで急上昇。殺人鬼のナイフが空を切り、死生は空中で左肩のミサイルポッドを解放。誘導ミサイルが殺人鬼を追うが、殺人鬼は建物間の狭い隙間を縫うように動き、ミサイルを無効化。死生は舌打ちする。
「人間じゃねえな、てめえ!」
と吼える。
殺人鬼が地上に降り、死生を挑発するようにナイフを構える。死生はバズーカを手に、ブースターで急降下。殺人鬼が壁を蹴って回避する瞬間、死生はバズーカを発射せず、グレネードを足元に投下。爆発で殺人鬼の動きが一瞬止まる。死生はその隙に突進、パルスブレードを殺人鬼の胸に突き立てる。
刃が肉を裂き、血が噴き出す。
殺人鬼は低く唸り、ナイフで反撃。死生のスーツの脇腹に刃が刺さり、警告音が鳴り響く。死生は歯を食いしばり、ブレードを捻って殺人鬼を押し返す。
「終わりだ!」
彼はブースターで一気に後退し、バズーカを至近距離で発射。爆発が殺人鬼を直撃し、黒布が炎に包まれる。衝撃波で路地が震え、瓦礫が飛び散る。
静寂が戻る。死生はセンサーで確認――殺人鬼の反応は完全に消滅。
爆炎が収まり、黒四季死生はパワードスーツのセンサーで殺人鬼の死を確認したはずだった。炎に包まれた黒布の残骸が路地に沈み、動く気配はない。だが、突如、瓦礫の下から異様な気配が湧き上がる。焼け焦げた肉が蠢き、殺人鬼の身体が超速再生で復活。
骨と筋肉が不気味な音を立てて再構築され、黒布の裂け目から狂気の目が死生を睨む。
「人間じゃねえって……そういう意味じゃなかったんだが!」
死生が呟いた瞬間、殺人鬼は地面を蹴り、驚異的な速度で路地の闇へと逃走する。
「逃がすかよ!」
死生は即座にブースターを全開にし、追撃を開始。パワードスーツの装甲が軋み、損傷による警告音が鳴り響くが、彼の目は殺人鬼の背を捉えて離さない。月光が照らす街の屋根を跳び、壁を蹴り、殺人鬼はまるで影のように滑る。死生はセンサーで追跡し、パルスブレードを構えながら距離を詰める。
殺人鬼は狭い路地を縫い、市場の屋台を薙ぎ倒して進む。死生はブースターで低空飛行し、右肩のグレネードランチャーを発射。
爆炎が路地を照らし、屋台の残骸が飛び散るが、殺人鬼は超速再生で傷を瞬時に癒し、速度を落とさず逃げる。
「しぶてえ奴!」
死生は舌打ちし、左肩のミサイルポッドを開放。誘導ミサイルが弧を描いて殺人鬼を追うが、相手は建物に飛び込み、ミサイルを壁に激突させた。
死生はブースターを限界まで酷使し、殺人鬼の背後に迫る。殺人鬼は振り返り、逆手に持ったナイフを投擲。死生はパルスブレードで弾き返すが、ナイフの軌道が予測不能で、スーツの胸部に浅い傷が走る。警告音がさらに激しくなる。
死生は吼え、バズーカを構えて発射。爆発が殺人鬼の足元を抉るが、再生した肉体は即座に動きを再開。殺人鬼は運河沿いの倉庫街へ飛び込み、闇に紛れる。
死生はセンサーを最大感度にし、倉庫の屋根に着地。熱源と微弱な血の匂いを追跡する。突然、殺人鬼が倉庫の窓から飛び出し、ナイフで死生の首を狙う。死生は咄嗟にブースターで後退し、パルスブレードで反撃。
刃が殺人鬼の腕を斬るが、傷は瞬時に再生。
「化け物め!」
死生はグレネードを投下し、爆発で倉庫の一部を崩壊させる。殺人鬼は瓦礫を盾に跳び、運河の対岸へ逃げる。
死生は運河をブースターで飛び越え、追撃を続ける。スーツのエネルギー残量が限界に近づき、腕の傷が激痛を放つが、彼の意志は揺らがない。
殺人鬼は港の廃船置き場に逃げ込み、錆びた船の影に潜む。死生はセンサーで位置を特定し、最後の賭けに出る。
「終わりだ!」
彼はもう一度全火力を解放――グレネード、ミサイル、バズーカを一斉に廃船へ叩き込む。爆炎が夜空を染め、船が粉々に砕ける。
爆煙の中、殺人鬼の反応は再び消える。だが、死生は確信がない。スーツのエネルギーが尽きかけ、彼は膝をつく。
「逃げやがったか……」
通信でジュリアスに連絡する。
「殺人鬼、超速再生で生き延びて逃走。港の廃船置き場だ。追跡は俺のスーツじゃ限界。援護頼む」
夜の港に静寂が戻るが、殺人鬼の影はまだ消えていない。死生はスーツを支えに立ち上がり、次の戦いに備える。
闇の奥で、何かが蠢いていた。