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5話:ジュリアス・エメリー④


 黒四季死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアの三人は、ダンジョンコアの眠るボス部屋を目指し、薄暗い通路を進んでいた。


 パワードスーツのブースターが低く唸り、ジュリアスの蒼い軽鎧が微かな光を反射する。リリウムは修道服を握りしめ、記録装置を手に緊張と興奮を隠さない。だが、突如として足元の床がガクンと崩れ、三人は罠の奈落へと滑り落ちた。


 落下の衝撃で石屑が舞う中、死生は即座にスーツのセンサーを起動。目の前に広がるのは、緑がかった毒の霧が漂う閉鎖空間だ。レーダーが警告音を鳴らし、霧の成分を解析――約一時間で致命傷に至る。


「くそっ、トラップか!」


 死生が吐き捨てる。

 ジュリアスは冷静に周囲を見回し、魔法で微弱な風を起こして霧を一時的に遠ざける。


「状況は悪いわね。上層への出口は……」


 真っすぐ進んだところに広い広間があった。ボス部屋だ。


「あそこしかない。でも、ボス部屋と直結してるわ」

「一時間……でも、ボスを倒さないと脱出できないなんて……!」

「なら急ぐしかない。ボスをぶっ倒して出口を開ける。準備はいいな?」


 彼はパルスブレードを握り、ブースターを点検。スーツの空気濾過システムが毒を防いでくれるが、時間は限られている。

 ジュリアスが頷き、支援魔法の準備を始める。


「私がバリアと速度強化をかけられるけど、毒の影響で魔力消費がきついわ。リリウム、回復を優先して」

「はい!  神の光で皆さんを守ります!」


 彼女の周囲に淡い金色の輝きが広がり、三人に微弱な浄化の加護を与える。だが、霧の濃度が増す中、効果は長く持たない。

 死生が先頭に立ち、立ち塞がるノーマルのモンスターをパルスブレードで切り開く。火花が散り、ボス部屋への道が現れる。

 レーダーに巨大な反応――ボスモンスターの存在が迫る。


「突破は簡単じゃないが、死ぬつもりはない」

「あなたらしいわね。リリウム、離れすぎないで」

「はい、ついていきます!」


 リリウムが記録装置を握り直し、修道服を翻す。

 毒の霧が背後から忍び寄る中、三人はボス部屋へと突き進んだ。一時間というタイムリミットが、彼らの鼓動を急かす。死生のスーツが唸り、戦いの火蓋が切られようとしていた。


 死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアは、毒の霧が這う閉鎖空間からボス部屋へと続く通路を急ぐ。死生のパワードスーツが低く唸り、ジュリアスの魔法が霧を一時的に押し退ける中、リリウムは祈りで加護を維持する。


 通路を抜け、ボス部屋の入口にたどり着いた死生は、スーツのセンサーで慎重に内部を偵察する。

 

「動くな」


 死生が低く制し、バイザー越しに部屋の状況を三人で共有する。


 広大な円形の空間には、鋼のような毛皮を持つアイアン・ウルフの群れ――十数体がうろつき、鋭い牙と爪が薄暗い光を反射している。中央に一際巨大な個体が鎮座し、赤く輝く目と異常なまでに発達した筋肉が威圧感を放つ。

 ボス個体、アイアン・ウルフ・アルファだ。群れを従え、こちらをまだ気づいていない。

 ジュリアスが小声で分析する。


「あの数は厄介ね。アルファは単体でも脅威だけど、群れの連携が問題よ。どうする、死生?」


「あんな恐ろしい獣を……でも、脱出するには倒すしかないんですよね?」


 死生はスーツの武装を点検し、グレネードとミサイルの残弾を確認。


「当然、一時間以内に突破する。アルファを先に叩く。群れはジュリアスの魔法で足止め、リリウムは回復と加護を切らすな」


 彼はパルスブレードを握り直し、ブースターをスタンバイさせる。

 ジュリアスが頷き、蒼い軽鎧を鳴らす。


「了解。粘着陣とバリアで群れを抑えるわ。死生、無茶は控えてね」

「神のご加護を……皆さん、必ず生きて帰りましょう!」


 金色の光が三人を包み、毒の進行をわずかに遅らせる。死生は短く息を吐き、「行くぞ」と呟く。スーツのブースターが火を噴き、彼はボス部屋へと突入する準備を整えた。アイアン・ウルフの群れが低く唸り、アルファの赤い目が闇の中で不気味に光る。毒のタイムリミットが迫る中、死生の刃が戦いの火蓋を切る。


死生はパワードスーツのブースターを噴かし、ボス部屋に突入。パルスブレードが青白く光り、アイアン・ウルフの群れに斬りかかる。


 即座に二体の首を刈り、血と鋼の毛皮が床に散る。ジュリアスは後方で粘着性の魔法陣を展開し、数体のウルフの動きを封じる。


 リリウムは金色の加護を放ち、毒の進行を抑えつつ死生の傷を癒す。だが、アイアン・ウルフ・アルファの遠吠えが部屋を震わせ、戦況が変わる。


 アルファの咆哮は鋭く、空気を切り裂く。群れのウルフが一斉に統制され、散漫だった動きが一変。連携して死生を包囲し、牙と爪が隙間なく襲いかかる。


「くそっ、頭いいな!」


 死生はブースターで跳躍し、右肩のグレネードを放つが、ウルフたちは素早く散開、爆発を回避。アイアン・ウルフ・アルファが再び吠え、群れが死生の着地点を予測して殺到する。


 ジュリアスが叫ぶ。


「死生、群れを抑えるわ!」


 彼女は風の魔法でウルフを吹き飛ばし、バリアを死生に付与。だが、アイアン・ウルフ・アルファの遠吠えがジュリアスの魔法陣を乱し、粘着効果が弱まる。ウルフたちが再び動き出し、ジュリアス自身も爪撃を避けるので精一杯になる。

 リリウムは祈りを続けるが、毒の霧で魔力が削られ、声が震える。


「神よ……どうか力を……!」


 彼女の加護が一瞬途切れ、死生のスーツに浅い傷が増える。

 死生はアイアン・ウルフ・アルファを狙い、ミサイルポッドを解放。誘導ミサイルが弧を描くが、アイアン・ウルフ・アルファは驚異的な速さで跳び、群れを盾にミサイルを無効化。


「決定打がねえ!」


 死生は舌打ちし、パルスブレードで群れを斬り開くが、アイアン・ウルフ・アルファの遠吠えでウルフが即座にフォーメーションを組み直す。スーツの装甲に新たな爪痕が刻まれ、エネルギーが徐々に低下。


「このままじゃジリ貧だ!」


 死生は群れの猛攻をブースターで躱しながら後退。ジュリアスとリリウムも毒の影響で息が上がり、ボス部屋の出口近くまで押し戻される。


 アイアン・ウルフ・アルファの赤い目が闇で輝き、次の遠吠えが響く。死生はスーツのセンサーをフル稼働させ、アルファの統制を崩す隙を探る。タイムリミットが刻一刻と迫っていた。


 黒四季死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアは、アイアン・ウルフ・アルファの統制された猛攻に圧され、ボス部屋の入口近くまで後退を余儀なくされた。


 毒の霧が肺を侵し、残り時間は40分を切る。死生はスーツのブースターを抑え、冷静に言う。


「一旦引く。作戦を立て直すぞ」


 三人は広間から通路の一角に退避し、岩壁に身を寄せる。死生はスーツのセンサーを監視し、ウルフの追撃がないことを確認。ジュリアスは息を整え、魔力を節約しながら周囲に簡易バリアを張る。

 だがリリウムの様子がおかしい。


 リリウムは修道服の裾を握りしめ、膝をつく。彼女の顔は青ざめ、目は涙で潤んでいる。


「もう無理です……!」


 彼女の声は震え、普段の明るさが影を潜める。


「こんな恐ろしい場所……神だって見捨てたに違いない! アイツら、鋼の化け物ですよ! 私、戦うのやめたい……もう帰りたい!」


 錯乱した彼女は記録装置を床に落とし、両手で顔を覆う。肩が震え、嗚咽が漏れる。信仰心を支えにここまで来た彼女にとって、アイアン・ウルフ・アルファの圧倒的な脅威は心の支柱を揺さぶるものだった。


 ジュリアスが即座に反応する。彼女の蒼い軽鎧がカチャリと鳴り、厳しい視線がリリウムを射抜く。


「リリウム、しっかりしなさい! 泣いてる場合じゃないわ!」


 声は鋭く、まるで鞭のように響く。


「あなたがここで崩れたら、誰が私たちを癒すの? ヒーラーとしての責任を忘れたの? このままじゃ全員死ぬのよ! そんな弱音、戦場てするんじゃない!」


 ジュリアスの言葉には容赦がない。彼女自身、毒の影響で息が上がっているが、サポーターとしての冷静さは失わない。リリウムの弱さがチーム全体の危機に直結すると分かっているからこその厳しさだ。彼女は一歩踏み出し、リリウムの肩を掴んで顔を上げさせる。


「目を覚ましなさい! あなたは報道部じゃなかったの? なら、最後まで記録する義務があるでしょう!」


 リリウムはジュリアスの言葉にさらに縮こまり、涙が頬を伝う。


「でも……怖いんです……私、こんなの耐えられない……神の加護だって、届かないみたいで……」


 彼女の信仰は、未知の恐怖の前で揺らいでいる。修道服を握る手は白くなり、絶望が彼女を飲み込もうとしていた。

 その時、死生が静かに割って入る。彼はパワードスーツのヘルメットを外し、汗と傷だらけの顔を晒す。重厚な装甲とは裏腹に、彼の声は驚くほど穏やかだ。


「リリウム、怖いよな。俺だってそうだ」


彼は彼女の隣に膝をつき、毒霧の中でかすかに光る彼女の修道服を見つめた。


「毎回ダンジョンに入るたび、心臓がバクバクして、死ぬんじゃないかって思う。あのアイアン・ウルフみたいな化け物相手なら、なおさらな」


 彼は苦笑し、目をリリウムに合わせる。


「けどよ、お前の祈りがなかったら、俺はさっきの群れでやられてたかもしれない。あの金色の光、めっちゃ心強い。神がどうとか、俺にはよく分からん。でも、お前の力は本物だ。俺はそれ信じてる」

「死生さん……本当に、私の力なんて……?」

「ああ、そうだ」


 死生は彼女の肩に軽く手を置き、力強く頷く。


「お前がいてくれるから、俺もエメリーも戦える。怖くても、一歩踏み出せよ。俺たちがついてる。一緒にこのクソくらえなダンジョン抜け出そう」


 彼の声には押しつけがましさがない。戦士としての強さと、仲間への信頼が滲む。リリウムの恐怖を否定せず、共感しながらも前を向かせる言葉だ。

 リリウムは深く息を吸い、震える手で修道服を握り直す。


「……死生さん、ジュリアスさん……ありがとう。私、頑張ります。神よ、私に勇気を……!」


 涙を拭い、彼女は立ち上がる。まだ不安は消えないが、死生の優しさとジュリアスの叱咤が、彼女の心に小さな火を灯した。

 ジュリアスが小さく頷き、作戦を切り出す。


「アイアン・ウルフ・アルファの遠吠えが問題よ。群れを統制してる限り、攻撃が通らない。死生、あなたのグレネードとバズーカの大火力で一気にアイアン・ウルフ・アルファを仕留めるしかない。私とリリウムで群れを抑え、道を空けるわ」


 死生はスーツの武装を確認。


「了解。グレネードを口に叩き込み、バズーカでトドメだ。リリウム、加護を切らすな。ジュリアス、群れの足止め頼む」


 彼はヘルメットを装着し、パルスブレードを握る。

 三人はボス部屋へ再突入。死生がブースターで突進し、パルスブレードで群れを切り開く。ジュリアスは粘着陣と風の魔法を連発、ウルフの動きを封じる。


「死生、突っ込んで!」


 リリウムは祈りを叫び、金色の加護で死生を強化。毒の影響でふらつくが、彼女は歯を食いしばる。

 アルファが遠吠えを上げ、群れが死生を囲む。だが、ジュリアスの魔法が群れを分断し、リリウムの加護が死生の動きを加速。死生はブースターで跳躍、アルファの懐に迫る。


「くらえ!」


 右肩のグレネードを連射、アルファの口に直撃。爆炎が咆哮を掻き消し、アルファがよろめく。死生は即座にバズーカを構え、至近距離で発射。爆発がアルファの胴を粉砕し、赤い目が光を失う。


 群れは統制を失い、混乱。死生はパルスブレードで残りを掃討し、ジュリアスとリリウムが援護。ボス部屋に静寂が戻る。


 死生はスーツの損傷を一瞥し、「やったぞ」と呟く。リリウムは涙を浮かべ、「神よ、感謝を……!」と祈る。ジュリアスは軽く笑い、「作戦を立てられればこんなものね」


 毒のタイムリミットは残りわずか。三人は急いで出口へ向かい、ダンジョンコアの破壊を後回しに脱出を優先した。闇の向こうに、微かな光が見えた。



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