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四話:ジュリアス・エメリー③


 新たなダンジョン攻略の準備を整え、ジュリアス・エメリーと並んで入口へと向かっていた。パワードスーツの点検を終え、コンテナを背負い、気分はすでに戦闘モードだ。


 だが、ダンジョンの入り口に差し掛かった瞬間、修道服をまとった明るい声の女性が弾けるように現れた。


「こんにちは! ダンジョン攻略報道部のリリウム・オルレアです! 今日はダンジョン攻略を行う貴重な男性である黒四季死生さんに、密着したいと思います!」


 リリウムは目をキラキラさせ、修道服の裾を軽く揺らしながら死生に一気に詰め寄る。彼女は記録装置を持って、すでに準備万端の様子だ。


 ジュリアスは眉をひそめ、蒼い軽鎧をカチャリと鳴らして一歩前に出て厳しい口調で窘める。


「いきなり何なの? そういうのは事前に予約を取っておくべきでしょう」


 彼女の視線はリリウムを鋭く捉え、若干の苛立ちが滲む。

 リリウムはひるまず、明るい笑顔を崩さない。「確かにそうかも知れませんが、どうでしょう? 死生さん! 報酬も出ますよ!」


 彼女は神への信仰を思わせる清らかな仕草で手を組み、期待に満ちた目で死生を見つめる。

 ジュリアスが怪訝そうに死生を振り返る。


「死生?」


 死生はヘルメットの下で一瞬考え込む。ダンジョン内で他人の面倒を見るのはリスクだが、報酬と情報収集の機会は悪くない。彼はスーツのセンサーを軽く調整し、低く答える。


「よし、行こうか。死んでも責任は持てないから、自分の身は自分で守ってくれ」


 リリウムは「やった!」と小さく跳ね、修道服の袖を振って喜びを表現する。


「ありがとうございます、死生さん! 神のご加護があなたと共にあらんことを!」


 ジュリアスは小さくため息をつき、肩をすくめる。


「無茶するわね……まあ、いいわ。私もついていくから、リリウム、置いてかれないようにしなさいよ」


 リリウムは元気よく頷き、「もちろんです! さあ、行きましょう!」と先頭に立とうとするが、死生が冷静に制する。


「お前は後ろだ。報道なら、俺の後ろで撮ってろ」


 三人はそれぞれの思惑を胸に、ダンジョンの闇へと踏み込んでいった。リリウムの明るい声が、しばらくの間、冷たい石壁に反響していた。



 ダンジョンの入口を抜けた黒四季死生、ジュリアス・エメリー、そしてリリウム・オルレアの三人は、冷たく湿った通路を進む。


 ダンジョンは大型モンスターの巣窟として知られ、その最下層にはダンジョンコアが脈打つ。コアは金属やモンスターを無尽蔵に生み出し、放置すればモンスターが外の世界に溢れ、周辺の集落を脅かす。定期的な掃除――つまり攻略が不可欠だが、その役目は簡単ではない。


 この世界では、攻略者の多くが女性だ。人口のバランスや種族の存続を考えると、女性が前線に立つことが半ば必然となっていた。しかし、死生は例外だった。彼はパワードスーツ――魔力と科学が融合した特殊な魔道具を身にまとい、単独でダンジョンの深部に挑む数少ない男性攻略者だ。


 スーツは彼の身体能力を極限まで引き出し、グレネード、ミサイル、バズーカ、パルスブレードといった重武装を運用可能にする。


 リリウムが記録装置を構え、明るい声で死生に話しかける。


「死生さん! ダンジョン攻略報道部としてお聞きしますけど、こんな危険な場所に男性で挑むのって、どんな気持ちですか? 神の加護を感じます?」


 修道服の裾が石床を擦り、彼女の目は好奇心で輝いている。死生はヘルメットのバイザー越しに一瞥し、淡々と答える。


「気持ち? いや、ただの仕事だ。神のご加護は知らないが、スーツと武器が俺の命綱だ。それだけ」


 前方で低いうなり声が響き、死生が手を上げて二人を制する。レーダーに複数の大型モンスターの影が映る。


 「話は後だ。まずは目の前の敵を片付ける」


 パルスブレードが青白く光り、スーツのブースターが唸る。リリウムは一歩下がり、興奮気味に呟く。


「これぞ攻略者の姿! さあ、記録開始です!」


 ジュリアスは小さくため息をつきつつ、武器を構える。ダンジョンコアがモンスターを生み出し続ける限り、死生の戦いは終わらない。彼のスーツが闇を切り裂き、通路に火花と血飛沫が舞った。


ダンジョンの通路は薄暗く、岩壁から滴る水音が響く中、死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアの三人は大型モンスターの気配に身構えた。レーダーに映るのは、鋼のような鱗を持つ四足の獣型モンスター――アイアンビースト、三体。


 死生はパワードスーツのブースターを軽く噴かし、パルスブレードを構える。アタッカーとして最前線に立つ彼の背後で、ジュリアスがサポーターとして補助魔法を準備し、リリウムはヒーラーとして修道服の袖を握りしめ、神聖な魔力を溜める。


「来るぞ!」


 死生の声が鋭く響き、戦闘が始まった。

 アイアンビーストが一斉に咆哮し、床を砕く勢いで突進。死生はブースターを全開にし、矢のように跳躍。右手にバズーカを構え、最初の獣に照準を合わせる。轟音とともに爆発が炸裂し、獣の鱗が一部剥がれるが、動きは止まらない。


「硬えな!」


死生は舌打ちし、左手に握ったパルスブレードを振り下ろす。青白い刃が鱗を切り裂き、血と火花が飛び散る。

ジュリアスが冷静に動く。


「死生、援護するわ!」


彼女は蒼い軽鎧の腕を振り、魔力を込めた陣を展開。死生の周囲に青い光のバリアが張られ、第二のアイアンビーストの爪撃を弾く。さらに、彼女は素早く詠唱し、モンスターの足元に粘着性の魔法陣を召喚。獣の動きが鈍り、死生に攻撃の隙を与える。


「今よ、死生!」


 死生は即座に反応し、右肩のグレネードランチャーを連射。爆炎が二体目の獣を包み、鱗が砕け散る。だが、第三の獣が横から襲いかかり、死生のスーツに爪が命中。バリアが火花を散らし、スーツの装甲に浅い傷が走る。


「チッ!」


死生はブースターで後退し、左肩のミサイルポッドを開放。誘導ミサイルが弧を描き、獣の側面に炸裂。爆風で獣がよろめく。


 その瞬間、リリウムが前に出る。「神よ、癒しの光を!」彼女は修道服の裾を翻し、両手を掲げて祈りを捧げる。金色の光が死生を包み、スーツの損傷が微かに修復され、彼の動きが再び鋭さを増す。


「死生さん、頑張ってください! 神のご加護が共にありますよ!」

「助かった!!」


 死生は短く答え、ジュリアスの魔法陣で動きを封じられた二体に突っ込む。パルスブレードを両手で握り、渾身の一撃を放つ。刃が鱗を貫き、一体の首を斬り飛ばす。血飛沫が壁を濡らし、獣が倒れる。だが、残る一体が咆哮し、死生を押し潰そうと跳びかかる。


 ジュリアスが素早く動く。「させない!」彼女は風の魔法を放ち、獣の軌道をずらす。死生は隙を突き、ブースターで斜め上に跳躍。空中でバズーカを再装填し、至近距離で直撃させる。爆発が獣の胴体を粉砕し、最後のアイアンビーストが絶命する。


 戦闘は数分で終わり、通路に静寂が戻る。死生はパルスブレードを収め、スーツの状態を確認。


 「いい連携だったな」と呟く。ジュリアスは軽く息を整え、「あなたが無茶しなければもっと楽だったわ」と皮肉を返す。リリウムは目を輝かせ、記録装置を構える。「すごかったです! これぞ攻略者の戦い! 視聴者に神の奇跡を見せられます!」


 死生はヘルメットを軽く叩き、「次行くぞ。ボス部屋はまだ下だ」と先を急ぐ。ジュリアスとリリウムが後に続き、ダンジョンの闇は三人の足音を飲み込んでいった。



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