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二話:ジュリアス・エメリー①


 黒四季死生はダンジョンの出口を抜け、冷たい外気に触れる。

 薄暗い空の下、蒼を基調とした軽鎧をまとったジュリアス・エメリーが待ち構えていた。ファンタジーめいた装飾の鎧が月光を反射し、彼女のクールな瞳が死生を捉える。


「お疲れ様。今日は怪我はないかしら?」


 ジュリアスの声は落ち着きに満ち、わずかに労わるような響きを帯びている。死生はスーツのヘルメットを外し、軽く息を吐く。


「問題ない。いい収穫だった」


 と短く答える。

 ジュリアスは小さく頷き、話題を変える。


「そういえば、新しいダンジョンが見つかったの。南の荒野に、昨日急に現れたらしいわ。難易度は未知数。先遣隊が今、突入してる段階よ」


 死生は腕を組み、興味深そうに目を細める。


 「へえ、どんな情報が出てくるか楽しみだな」


 相槌を打つ。口元にわずかな笑みが浮かぶ。

 ジュリアスはそんな彼を見て、軽く肩をすくめる。


「相変わらずね、あなたって」


 どこか呆れたような、だが親しみを込めた口調で返す。彼女は一瞬空を見上げ、風に髪を揺らしてから死生に視線を戻す。


「ねえ、よかったら家に来ない? 少しゆっくり話したいわ」


 死生は彼女の誘いに一瞬目を止める。スーツの稼働音が静かに響く中、彼は小さく頷く。


「いいな。行こう」


 そう答えた。ジュリアスは満足げに微笑み、二人は並んで歩き出す。新しいダンジョンの謎が、死生の胸に静かな興奮を灯していた。



ジュリアス・エメリーの家は、簡素だが暖かな明かりが灯る石造りの小屋だった。死生はパワードスーツの外装を小さく格納し、軽い足取りで中へ入る。


 ジュリアスが用意したハーブティーの香りが漂う中、二人は木製のテーブルを挟んで腰掛ける。話題は自然と新しいダンジョンと先遣隊の話に戻った。

 ジュリアスはティーカップを手に、落ち着いた口調で話し始める。


 「先遣隊の話だけど、タンクランス、アタッカーアーチャー、ヒーラーの構成で、ジリジリと攻略するみたいよ。慎重に進むつもりらしいわ」


 死生はカップを口に運び、軽く頷く。


「無難でいい構成だ。初めてのダンジョン攻略なら最適解だろうな。エメリーはどう思う?」


 ジュリアスは一瞬考え、視線をテーブルの木目に落とす。


「同意見よ。バランスが取れてるし、初見のダンジョンには無難でいい選択だわ。ただし……」彼女は言葉を切り、僅かに眉を寄せる。「想定外のトラップやモンスターが怖いわね。未知数って、そういうリスクがつきものだもの」


 死生は小さく笑い、カップを置く。


「仕方ない部類だがな。正直、搦手に最初から対策していけるとは思えない。入ってみなきゃ分からないのがダンジョンってもんだろ」

「確かにね。あなたらしい考え方」


 彼女はカップを手に持ち直し、窓の外の闇をちらりと見やる。


「先遣隊の報告が楽しみだわ。どんな情報が上がってくるかしら」

「ああ。俺もその報告次第で動くつもりだ。いいレア素材が眠ってるといいな」


ジュリアス・エメリーの家の暖かな灯りの中、会話は一瞬途切れ、ティーカップの軽い音だけが響く。ジュリアスがふと死生に視線を向け、話題を変える。


「そういえば、今日の収穫はどうだった?」

「ああ、そうだ。ドロップは無し。メタル系だけ回収した。クリプトアダマントがメインだ」

「金属なんてどうして欲しがるのかしら。謎だわ。武器やスーツならともかく、ただの素材でしょ?」

「俺には必要なんだ。スーツの強化も、新装備の設計も、全部そいつを地球へ送信して、ノルマをクリアしなきゃ始まらない」


 ジュリアスは「ふーん」と軽く流し、ティーカップをテーブルに置く。すると、彼女の目がいたずらっぽく光り、急に身を乗り出す。


「うちでお風呂に入らない?」


 死生は一瞬固まり、カップを持つ手が止まる。


「あー、いや。入らない」

「どうして! せっかくいい雰囲気なのに!」

「だって気まずいし」


 死生は視線を逸らし、平静を装いつつもわずかに動揺が滲む。


 ジュリアスは笑いながら身を乗り出し、さらに畳みかける。


「良いから、良いから! あなたに見られて減るような体はしてないわ!」


 彼女の蒼い軽鎧がカチャリと音を立て、自信満々な笑顔が死生を挑発する。死生は深く息を吐き、頭を振る。


「いや、ほんと遠慮しとくって」


 彼は立ち上がり、話題を逸らすように窓の外を見る。


「先遣隊の話、続きでも聞かせてくれよ」

ジュリアスは少し不満げに唇を尖らせるが、すぐに笑って席に戻る。


「もう、逃げ足だけは速いんだから。いいわ、ダンジョンの話の続きね……」


 二人の会話は再び新たなダンジョンへと戻る。

 しかし死生はジュリアスの押しに負け、渋々ながら彼女の家の風呂を借りることにした。石造りの浴室は簡素だが清潔で、湯気が立ち込める中、彼は熱い湯に肩まで浸かり、ダンジョンの疲れをほぐしていた。


 パワードスーツのメンテナンスや、地球からノルマの報酬として送られてくる資源の用途が頭を巡る中、静かな時間が流れ――突然、浴室の扉がガラリと開いた。


 ジュリアス・エメリーが、蒼い軽鎧を脱ぎ、タオルを軽く巻いただけの姿で堂々と入ってくる。彼女の金髪はゆるく束ねられ、クールな瞳にはどこか楽しげな光が宿っている。

 

「うぉい! 恥じらいってものは無いのかよ!」


 死生は思わず声を上げ、湯の中で身を縮こませる。スーツの装甲がない今、珍しく動揺が隠せない。


 ジュリアスはケラケラと笑い、浴槽の縁に腰掛ける。


「あら、恥じらうような歳でもないでしょ? 戦場で命かけてるあなたが、こんなことでうろたえるなんて意外ね」


 彼女はわざとらしく首を傾げ、からかうように続ける。

「それとも、私の体がそんなにまぶしい?」

「そういう問題じゃねえ!」


 死生は顔を赤らめつつ、視線を必死に湯の表面に固定する。


「ったく、勝手に入ってくるなよ……」


ジュリアスは肩をすくめ、平然と湯に足を浸す。


「いいじゃない。仲間同士、こういうのも悪くないわよ。ほら、背中流してあげるからこっちおいで」

「遠慮する!」


 死生は即答し、湯をかき分けて浴槽の反対側に逃げる。だが、ジュリアスは楽しそうに笑いながら追いかけ、浴室は一気に騒がしくなる。


「ほらほら、逃げないの! 戦士の背中くらい堂々と見せなさいよ!」


 ジュリアスの声が浴室に響き、死生の抗議が重なる。湯気の中で繰り広げられる追いかけっこは、ダンジョンの戦闘とはまるで違う、妙に平和な喧騒だった。


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