第19話:ファン感謝祭②
アークネストの市場中央広場は、黒四季死生のアイドルイベントのクライマックス、バトル実演で最高潮の熱気に包まれていた。
サイン会と握手会の成功でファンの期待が高まる夕暮れ、広場には仮設の円形闘技場が設けられ、バリアで観客席が保護されている。
スクリーンには死生の過去の戦闘映像――メタルドラゴンを粉砕する瞬間や深淵教団の邪神を貫く姿――が映し出され、報道部の派手なナレーションが「唯一の男性攻略者」「亡国の王子様」の伝説を煽る。千人を超える観客――女性ファン、攻略者、家族連れ――が5ゴールドのチケットを握り、歓声で広場を揺らす。
死生はパワードスーツを装着し、闘技場の中央に立つ。装甲はメタリックに輝き、ブースターが低く唸る。
模擬戦用のパルスブレードはエネルギーを弱め、打撃のみで戦える設定だ。
ジュリアス・エメリーはプロデューサーとして観客席ブースでタブレットを操作、戦闘の進行と収益を管理。
彼女は冷静だが、死生の派手な戦いに軽い苛立ちを隠せない。リリウム・オルレアは修道服でグッズブースを切り盛りし、ミニチュアパルスブレードや死生のポスターを売りながら、祈っていた。
「神のご加護があらんことを、死生さんの戦いに!」
バトル実演は、死生がアークネストの女性ダンジョン攻略者たちと模擬戦で対決する形式だ。相手は実力ある攻略者で、模擬武器を持ち、観客に戦いの迫力を披露する。
闘技場の魔力バリアが光り、死生がパルスブレードを構える。
「さあ、来い! アイドルだが戦えるところも見せてやる!」
彼の声に、観客が「死生! 死生!」とコール。
1戦目:剣士の女性攻略者、リナ
最初の相手は、赤い髪をポニーテールにした二十代の剣士、リナ。軽量な魔力鎧をまとい、模擬の双剣を手に敏捷に動く。
「死生さん、アイドルでも手加減しないよ!」
彼女が突進し、双剣が弧を描く。死生はブースターで横に滑り、ブレードで剣を弾く。
「いい動きだ! けど、ダンジョンじゃそれじゃ足りねえ!」
彼は低く突き、模擬ブレードがリナの鎧をかすめる。リナは後退し、剣を交差して防御。
「さすが、速い!」
彼女は跳躍し、回転斬りを繰り出すが、死生はブースターで空中に浮き、加速するとブレードで叩き落とす」
リナは着地し、笑いながら降参。
「負けた! 死生さん、ほんと強い!」
観客が拍手と歓声で応え、リナは死生と握手。
「ダンジョンで会ったら、よろしくね!」
「お前も死なずにな」
2戦目:魔術師の女性攻略者、セリア
次は、青いローブをまとった魔術師、セリア。彼女は模擬の魔力杖を手に、炎の魔法を弱めた光弾で攻撃。
「死生さん、魔法で踊らせてあげる!」
光弾が放射状に飛ぶが、死生はブースターで縦に回避、闘技場を駆ける。
「魔法は派手だが、俺のスーツはもっと派手だ!」
彼は模擬グレネードを投じ、煙幕でセリアの視界を遮る。セリアが風の魔法で煙を払うが、死生はすでに背後に。ブレードを背中に当てる。
「ここれで終わりだ」。
「まいった! さすがアイドル攻略者!」と杖を下げる。観客が「かっこいい!」と叫び、セリアは死生に微笑む。
「握手会の手に惚れたけど、戦いも最高ね!」
3戦目:槍使いの女性攻略者、ミラ
最後の相手は、槍使いのミラ。筋肉質な体に重鎧をまとい、模擬の長槍を振り回す。
「死生、男の攻略者なら私を倒してみな!」
彼女が槍を突き、死生はブースターで斜めに回避。
「重い一撃だな! ダンジョンじゃモンスターが喜ぶ!」
彼はブレードで槍を弾き、接近戦に持ち込む。ミラは槍を回転させ、死生を牽制。
「アイドルっぽくない動きね!」
「残念ながら!」
ブースターで跳躍し、ブレードをミラの肩に軽く当てる。
「完敗よ! 惚れるわ、この戦い方!」
観客が大歓声、ミラは死生と拳を合わせる。
「ダンジョンで組みたいくらいだ!」
「その槍捌きは頼もしい!」
戦闘中、女性ファンの反応が熱い。
「死生さんの動き、めっちゃキレてる!」「あのスーツ、かっこよすぎ!」「リナ、セリア、ミラ、みんな強いのに死生さんが圧倒!」
ある少女が「死生さんの戦い、握手の手そのもの!」と叫び、別の女性が「こういう男、ダンジョンで欲しい!」と笑う。
ジュリアスは観客席ブースで舌打ちする。
「手に続いて戦いまで惚れられるなんて……」
しかし、収益の伸びには満足する。
バトル実演は1時間で終了し、観客の熱狂は頂点に。死生は3戦全勝、女性攻略者たちの実力も引き立て、ファンの心を掴んだ。
チケットとグッズで700ゴールド以上を確保し、イベント全体の収益はセレンの借金1000ゴールドを大きく超える。
死生はスーツのブースターを停止し、闘技場の中央で観客に手を振る。「応援ありがとう! ダンジョンでもこの調子でモンスターをぶっ潰す!」
観客が「死生! 最高!」と応え、カメラのフラッシュが光る。
「合格点よ。死生、あなたの戦い、ファンじゃなくても惚れるわ……少しだけね」
バトル実演の成功は、死生のアイドルとしての魅力をさらに高め、セレンの借金清算を確実にした。広場の歓声は、ジュリアスのプロデュースとリリウムの献身が支えた勝利だ。
◆
アークネストの市場中央広場での黒四季死生のアイドルイベントは、サイン会、握手会、バトル実演の三部構成で大盛況のうちに幕を閉じた。
夕暮れの空が広場を茜色に染める中、ファンたちの歓声が響き、魔力スクリーンには死生の戦う姿が最後の輝きを放つ。
ジュリアス・エメリーのプロデュースとリリウム・オルレアの献身的なサポートにより、イベントはセレン・ルカーノの借金1000ゴールドを清算する目標を達成。死生のアイドルとしての魅力と攻略者の実力が、ファンからの「綺麗なお金」を集めた。
イベント終了後、宿屋「鉄鉱の灯」の一室で、ジュリアスはタブレットに記録された収益を最終確認する。
彼女は、冷静な目で数字を読み上げる。「サイン会で150ゴールド、握手会で400ゴールド、バトル実演とグッズ販売で700ゴールド。合計1250ゴールド」
彼女はタブレットを閉じ、軽く笑う。
「プロデューサーとして、完璧な結果よ。死生、ファンの熱、予想以上だったわ」
「1250ゴールド、セレンの借金分だな。ファンの応援、すげえ力だ。ジュリアス、お前の采配もな」
彼はグラスを掲げ、満足げに笑う。リリウムは修道服で汗を拭い、目を輝かせる。
「死生さん、ジュリアスさん、私、すっごく頑張りました!」
彼女は疲れ果てながらも、達成感で顔をほころばせる。
ジュリアスは腕を組み、言う。
「リリウム、あなたの下働きがグッズの売上を支えたわ。死生の手に惚れるファンが多すぎたけど、結果オーライね」
「ゴツゴツした手がウケるなんて、思わなかった」
その夜、死生、ジュリアス、リリウムは1000ゴールドの魔力金貨を詰めた袋を手に、『月影診療所』を訪れる。
路地裏の小さな治療院は、魔力ランプの淡い光に照らされ、静かな佇まいだ。セレン・ルカーノは患者のカルテを整理中だったが、三人の訪問に驚き、黒い髪を束ねた顔を上げる。
「死生さん、ジュリアスさん、リリウムさん……こんな時間に? また急患?」
死生は治療台に金貨の袋を置き、笑う。「急患じゃない。1000ゴールド、セレンの借金分だ。今日のイベントで集めた。お前の治療院、守れる」
彼の声は軽いが、確かな達成感が滲む。
セレンは袋を見つめ、言葉を失う。ゆっくりと袋を開け、金貨の輝きを確認すると、深い息を吐く。「これ……本当に一日で? 死生さんのアイドル活動、噂以上だな……」
彼は立ち上がり、三人に頭を下げる。
「ありがとう。ジュリアスさんのプロデュース、リリウムさんのサポート、全部含めて。借金がなくなれば、治療院を続けられる。専属医者の約束、絶対守るよ」
「そうか、良かった」
「医者として役に立つなら、投資の価値はあったわ。ダンジョンでの怪我、ちゃんと診てね」
「神のご加護はセレンさんの未来にずっと届きます! 治療院、ずっと守ってください!」
セレンは笑顔で頷き、
「もちろん。無茶な戦い、祈り……全部診る準備はできてる。ダンジョンで何かあったら、いつでも来てくれ」
彼は治療台の器具を整え、決意を新たにする。
死生はセレンの肩を叩き、
「死なずに済んだな、次はダンジョン会おう」
「無茶な怪我、しないでくれよ。けど、楽しみだ」と応じる。
宿屋に戻る途中、アークネストの夜空の下、三人は静かに歩く。死生は市場の灯を見ながら言う。
「1000ゴールドでセレンを救った。次は深淵教団をぶっ潰す番だな。エクシアの情報、待ってるぜ」
ジュリアスは魔力通信をチェックする。
「天使のエクシアから明日会う約束が取れたわ。教団の動き、詳細が分かるはず」
1250ゴールドの成功は、セレンの未来を救い、死生たちの絆をさらに深めた。ファンの熱と仲間の協力が、ダンジョン・アークの深部で待ち受ける深淵教団との戦いへの、力強い一歩となった。鉄鉱の灯の窓から漏れる光が、三人の背中を静かに照らす。




