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18話:ファン感謝祭①


 迷宮都市アークネストの喧騒が昼の陽光に輝く中、黒四季死生はセレン・ルカーノの1000ゴールドの借金を清算するため、本格的なアイドル活動を開始する決意を固めた。


 ジュリアス・エメリーをプロデューサーとし、リリウム・オルレアをサポート役に据え、報道部との連携で大規模なイベントを企画。ダンジョン攻略者としての名声と「亡国の王子様」の物語を活かし、ファンからの資金を集める作戦だ。


 深淵教団の暗躍が迫る中、死生たちはセレンの治療院を守り、専属医者を確保するための新たな戦場――アークネストの市場に挑む。



 宿屋「鉄鉱の灯」の一室で、ジュリアスは報道部との交渉を進める。彼女はプロデューサーとしての役割に徹する。


「死生、報道部に連絡したわ。明日、市場の中央広場でサイン会、握手会、バトルの実演を開催する。ファンの熱、最大限に引き出すわよ」


 彼女の目は冷静だが、戦略的な輝きを放つ。

 死生は革鎧を調整しながら笑う。


「お、おお。ベテランマネージャーみたいだ。サイン会はいいとして、バトルの実演? スーツで派手にやるか?」


 彼のパワードスーツで強化済み、ファンに見せるには十分な迫力だ。リリウムは修道服の裾を握り、目を輝かせる。


「死生さんのバトル、絶対かっこいいです!  ファンの皆さんにも感動が届きますよ!  私もチラシ配ったり、グッズ整理したり、頑張ります!」


 彼女は下働きとして、イベントの雑務を一手に引き受ける気満々だ。ジュリアスはタブレットを操作し、イベントのスケジュールを死生に示す。


「サイン会で1ゴールド、握手会で2ゴールド、バトルの観覧チケットは5ゴールド。限定グッズも作るわ。死生のミニチュアパルスブレードとか、ファンが飛びつきそうね。1000ゴールド、1日で集めるわよ」

「頑張る」

「応援してます!」


 翌日、アークネストの市場中央広場は、死生のアイドルイベントで熱狂に包まれた。広場には仮設ステージが設けられ、魔力スクリーンに死生のダンジョン攻略映像が映し出される。報道部の派手な演出で、「亡国の王子様」「唯一の男性攻略者」の物語が強調され、集まった数百人のファン――主に若い女性や攻略者志望の若者――が歓声を上げる。




 迷宮都市アークネストの市場中央広場は、黒四季死生のアイドルイベントの初日、サイン会で未曽有の熱気に包まれていた。


 広場の石畳には仮設の長テーブルが並び、スクリーンには死生のダンジョン攻略映像――メタルドラゴンを一閃で仕留める瞬間や、殺人鬼を爆炎で葬る姿――が繰り返し流れる。


 報道部の演出は派手で、「亡国の王子様」「唯一の男性攻略者」のキャッチフレーズが、色とりどりのバナーに輝く。


 若い女性、攻略者志望の少年、家族連れまでが列をなし、歓声と興奮が広場を揺さぶる。


 死生は革鎧姿でテーブルの中央に座り、軽やかな笑顔でファンに対応する。金属の輝きを帯びたパワードスーツは一旦仕舞い、代わりに戦士らしい簡素な装いが彼の魅力を引き立てる。


 テーブルの上にはサイン用の魔力ペンと、報道部が用意した死生の肖像ポスターやミニチュアパルスブレードのグッズが並ぶ。


 ジュリアス・エメリーはプロデューサーとしてテーブルの後ろに立ち、タブレットでスケジュールと収支を管理。


 彼女は冷静そのものだが、ファンの熱気にやや圧倒されている。リリウム・オルレアは修道服の袖をまくり、汗をかきながらチラシ配りやグッズ整理に奔走し、笑顔でファンに声をかけている。


 サイン会の列は広場が蛇のように埋め、ファンが1ゴールドを握りしめて順番を待つ。


 最初のファン、十代後半の少女がテーブルに駆け寄り、目を輝かせる。


 「死生さん!  メタルドラゴン倒した映像、十回見ました! めっちゃかっこいいです!」


 彼女は震える手でポスターを差し出す。死生はペンを手に、彼女の熱に笑顔で応じる。


「十回?  凄い。そんなに見てくれて嬉しいです。ありがとう」


彼はポスターに流れるような筆致でサインを書き、「名前は?」と聞く。


「ミリアです!」


 少女が叫ぶと、死生は「ミリア、応援ありがとう!」と書き加え、ポスターを返す。ミリアはポスターを抱きしめ、「死生さん、大好き!」と叫びながら列を離れた。


 リリウムが脇で新しいポスターを補充する。。ジュリアスはタブレットに1ゴールドを記録し、「死生、テンポよくね。列が詰まってるわ」と小声で指示。


 次のファン、少年が緊張した面持ちで並ぶ。彼は死生のミニチュアパルスブレードを握り、


「死生さん、俺、攻略者になりたいんです! どうやったらあんな強くなれますか?」


 と問う。死生は少年の真剣な目に頷き、


「まずはダンジョンで生き残ることだ。怖え化け物でも、とにかく生き残ることを忘れ抜ければきっと勝ち抜け。サイン、ブレードに書くか?」


 少年が「お願いします!」と差し出すと、死生はブレードの柄に小さくサイン。


「名前は?」

「カイルです!」

「カイル、死なずにな!」


 と激励。カイルは目を潤ませ、ブレードを掲げて列を去る。ファンの熱気は増すばかりだ。

 母親に連れられた少女が「王子様!」と呼び、死生はお礼を言いながらポスターにサイン。


「王子に恥じぬように、頑張るよ」


 中年の攻略者が


「死生、深淵教団をぶっ潰してくれ!」

「任せとけ!」


 と応じる。


 女性ファンが「握手会も行きたいです!」と笑い、死生は「握手会も来てくれるとうれしい」と返す。


 リリウムはファンにチラシを配り、「次の握手会、ぜひ来てください! 」と声を張る。


 ジュリアスはファンの流れを監視し、時折死生に耳打ち。「死生、ファンサービスいいけど、時間厳守よ。1時間で100人目標。グッズの売上も順調」


 彼女はスクリーンに死生の映像を切り替え、バトルの実演への期待を煽る。だが、ファンの一人がポスターを落とし、リリウムが拾って渡すと、「ありがとう、聖女さん!」と呼ばれ、彼女は赤面する。


「聖女だなんて……」


 と慌てて言葉を返す。

 サイン会のピークでは、ファンがテーブルに殺到し、死生はペンを握る手を休めず対応。


 少女が「死生さん、結婚して!」と叫ぶと、死生は笑い、「ダンジョン攻略が俺の嫁だ!」と切り返す。

 少年が「パルスブレード、見せて!」とせがむと、死生はポケットから小型の模造ブレードを取り出し、軽く振る。


「本物はスーツと一緒だ。こいつで我慢してほしい」


 ファンたちは歓声を上げ、魔力カメラで死生を撮りまくる。


 1時間半のサイン会で、死生は150人以上のファンに対応し、150ゴールド以上を確保。グッズの売上も加わり、イベント全体の収益は順調に伸びる。死生は汗を拭う。


「ファンの熱、すげえな。セレンの借金、余裕で返せそうだ」

「プロデューサーとして、まずまずね。次は握手会とバトル実演よ。死生、ファンに溺れないで」

「神のご加護、ファンの皆さんに届きました! 死生さん、かっこよかったです! 私ももっと頑張ります!」


 彼女の修道服は汗で濡れ、だが目は輝いている。

 サイン会の成功は、セレンの1000ゴールドの借金を清算する計画を大きく前進させた。広場に響くファンの歓声は、死生のアイドルとしての力を証明し、ジュリアスのプロデュースとリリウムの献身がそれを支えた。




 アークネストの市場中央広場は、黒四季死生のアイドルイベントの第二部、握手会でさらなる熱気に包まれていた。


 サイン会の成功でファンの熱が高まった午後、仮設ステージの脇に設けられた握手会ブースは、長い列で溢れ返る。


握手会の列は広場を埋め尽くし、女性ファンが中心となって死生との一瞬の触れ合いを待ちわびる。ブースには簡単な仕切りが設けられ、死生が一人ずつファンと向き合う。


 1回2ゴールドの握手は、ファンにとって「アイドル攻略者」に直接触れる貴重な機会だ。死生のゴツゴツした手――ダンジョンでの戦いで鍛えられ、剣やスーツの操作で硬く太い指、傷跡が刻まれた掌――は、ファンに強烈な印象を与える。


 最初のファン、二十代の女性攻略者が緊張した笑顔でブースに進む。彼女は軽い鎧をまとい、腰に短剣を佩いている。


「死生さん、握手……お願いします!」


 彼女が手を差し出すと、死生は力強く、だが優しく握り返す。


「攻略者ですかね?  ダンジョンで会ったらよろしく!」


 彼の手は大きく、彼女の手をすっぽり包む。女性は死生の手の感触――硬く、温かく、戦士の歴史を刻むざらつき――に目を丸くし、頬を赤らめる。


「この手、めっちゃ……かっこいい! 死生さんの戦い、そのまんまです!」


 彼女は握手を終え、チケットを握りしめながら列を去る。

 次のファン、十代後半の少女が興奮で声を震わせる。


「死生さん! 亡国の王子様、ほんとに会えた!」


彼女が小さな手を差し出すと、死生は軽く笑い、


「応援ありがとう!」


 と握る。彼の手のゴツゴツした感触に、少女は目を輝かせる。


「うわ、めっちゃ硬い! この手でドラゴン倒したんだ……惚れちゃう!」


 彼女は握手を終え、友達に「死生さんの手、めっちゃ男らしい!」と叫びながら消えていく。


 列が進むにつれ、女性ファンの反応はますます熱を帯びる。三十代の女性商人が「死生さん、この手、戦士の証ね! 握るだけで強くなれそう!」と笑い、死生は「商売繁盛も戦いでしょう? 頑張って」と返す。


 彼女は死生の手の傷跡をじっと見つめ、「この感触、忘れられないわ……」と呟く。顔を真っ赤にし、「もう、惚れるしかない!」と叫ぶ者もいる。


 ファンの反応は多様だ。攻略者の女性が「この手なら、殺人鬼も一撃ね!」と感嘆し、死生は「ブースター全開ならな!」と応じる。少女が「死生さんの手、めっちゃ大きい! 守ってくれそう!」と目を潤ませ、死生は「ダンジョンじゃ自分で守れよ」と軽く励ます。ある女性は握手後、死生の手の感触を友達に熱弁。「あのゴツゴツ感、戦いの歴史よ! 絶対ファン辞めない!」ジュリアスはそんな反応を聞き、軽く舌打ちしつつタブレットの操作をやめない。


 リリウムは汗だくでグッズを運び、ファンにミニチュアパルスブレードを渡す。


 1時間の握手会で、死生は200人近いファンと握手し、約400ゴールドを確保。サイン会やグッズ販売と合わせ、イベント全体の収益はセレンの借金1000ゴールドに迫る。


 死生はブースを離れ、汗を拭いながら笑う。


「手がゴツゴツでも、ファンは喜んでくれるんだな。セレンの借金、返せそうだ」


 ジュリアスはタブレットを閉じ、軽くため息。


「あなたの手に惚れるファンがこんなにいるとはね。プロデューサーとして効率は認めるけど、良い気分じゃないわ」


 彼女の声には皮肉と、ほのかな嫉妬が混じる。リリウムはグッズの片付けを終え、息を切らせながら言う。

「ファンの皆さんに届きました! 死生さんほんとにすごかったです!」


 握手会の成功は、死生のアイドルとしての魅力をさらに高め、セレンの借金清算を確実なものにした。女性ファンの熱狂は、死生のゴツゴツした手に宿る戦士の魂を讃え、広場に響く歓声は次のバトル実演への期待を煽る。


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