13話:大規模ダンジョン・アーク
迷宮都市アークネストの港にボロボロのオルカナ号で辿り着いた黒四季死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアは、疲弊した身体を引きずりながら、都市の喧騒に足を踏み入れた。アークネストは鋼と魔力結晶で輝く城壁に囲まれ、通りには攻略者、商人、職人がひしめき合い、ダンジョン・アークの資源を求める活気で溢れている。
死生はパワードスーツを格納し、軽装の革鎧に着替えて歩く。顔に疲れが滲むが、鋭い目は都市の雑踏を見据える。
ジュリアスは蒼い軽鎧を脱ぎ、動きやすいチュニック姿で死生の隣を歩く。彼女は地図を手に、宿屋の場所を確認しながら言う。
「この都市、思ったより大きいわね。宿屋はダンジョン門に近い方が動きやすいけど、混んでそう」
リリウムは修道服の埃を払い、都市の賑わいに目を丸くする。
「すごい人ですね……」
三人が石畳の通りを進むと、突然、甲高い声が響く。
「ねえ! あの人、黒四季死生さんじゃない!?」
振り返ると、十代後半の女の子三人組が目を輝かせ、駆け寄ってくる。彼女たちはカラフルな服に身を包み、攻略者の装備とは異なる、都市の若者らしい軽やかな雰囲気だ。リーダーの少女が興奮気味に言う。
「アイドルの黒四季死生さんですよね? 男性で唯一ダンジョン攻略者をやってる!」
死生は一瞬驚き、だがすぐに笑みを浮かべる。
「ああ、その通りだよ。君たちは……?」
彼の声は疲れを隠し、気さくな響きを保つ。少女たちは一斉に声を上げる。
「ファンです! 地球って世界から追放された亡国の王子様……! めっちゃ良いです!」
死生は内心で苦笑する。報道部が作り上げた「亡国の王子様」というロマンチックな物語は、厳密には事実と異なる。
彼はただの攻略者で、地球からの追放も複雑な事情の結果だ。だが、ファンの熱意に水を差す気はなく、彼は軽く手を上げる。
「応援ありがとう。嬉しいよ。これからもよろしくね」
少女たちは歓声を上げ、一人が小さなノートを、もう一人が魔力カメラを取り出した。
「やった! じゃ、じゃあ、サインを……!」
「写真もお願いします!」
リリウムは驚きつつ、微笑んで言う。
「わあ、死生さん、こんなに人気なんですね……! 」
「申し訳ないけど、こちらも時間がないの。そういうのはまた今度にしてくれる?」
ジュリアスが冷ややかな声で割って入る。
彼女は少女たちの間に立ち、腕を組んで言う。チュニックの袖が揺れ、彼女の目は有無を言わさぬ光を放つ。
少女の一人が目を丸くし、「あっ、マネージャーさんですか?」と尋ねる。ジュリアスは一瞬言葉に詰まり、だがすぐに冷静を取り戻す。
「…………そ、そうよ。死生は次の仕事があるから、悪いけどまたね」
「わかりましたー、また応援します!」
彼女は死生の腕を軽く引き、歩き出す。
少女たちは少し残念そうに手を振る彼女たちに、死生も応じ、笑顔を向ける。
「またね!」
宿屋へ向かう三人
通りを抜け、三人は宿屋街へと向かう。死生はジュリアスに笑いかける。
「マネージャー、か。いい響きじゃないか。ジュリアス・エメリー」
「ふん、放っておいたらあの娘たちに囲まれてたわよ。アイドル様は少し自重しなさい」
ジュリアスは鼻を鳴らして、皮肉る。だが、彼女の口元には微かな笑みが浮かぶ。
リリウムは後ろを歩きながら、興奮気味に言う。
「王子様って本当なんですか?」
「リリウムがいなくなった後の報道部の作り話だよ。まあ、ファンが応援してくれるなら、悪くない」
死生は肩をすくめと答える。
「ほら、宿屋はこっちよ。ダンジョン・アークの攻略前に、ちゃんと休まないと死ぬわよ」
ジュリアスが地図を広げて言う。死生は頷く。
「健康な精神は健康な肉体からだ」
アークネストの賑やかな通りを進む中、三人は宿屋「鉄鉱の灯」に到着。ダンジョン攻略者向けの宿は、鋼の装飾と魔力ランプで照らされ、活気に満ちている。死生たちは部屋を確保し、クリプトアダマントを求めたダンジョン・アークの戦いに備える。
迷宮都市アークネストの宿屋「鉄鉱の灯」に落ち着いた黒四季死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアは、激しい船旅とクラーケンとの戦いの疲れを癒すため、深い眠りに就いた。
宿屋の部屋は簡素だが、魔力ランプの柔らかな光と、鉱石の装飾がダンジョン攻略者の心を落ち着かせる。死生は傷だらけのパワードスーツを点検し、ジュリアスは魔力ルーンの調整を終え、リリウムは祈りで心を整えた。
三人は夕食にアークネスト名物の鉱石スープと硬パンで腹を満たし、早々に休息を取った。
翌朝、朝日がアークネストの鋼の城壁を照らす中、三人は宿屋を出てダンジョン・アークの巨大な門へ向かった。死生のパワードスーツは応急修復済みだが、完全な性能には程遠い。
クリプトアダマントの鉱脈を確保し、スーツの修繕と新装備の調達が急務だ。ジュリアスは蒼い軽鎧をまとい、魔力の風を軽く漂わせる。
「死生、今回は計画的に行くわよ。無茶は禁止」
と釘を刺す。
死生はヘルメットを被り、パルスブレードを点検。
「計画はいいが、時間は待ってくれない。行くぞ!」
彼の声に、門の魔力障壁が開き、三人は大規模ダンジョン・アークの闇へと踏み込んだ。
アークは広大な地下鉱山のように広がり、壁にはクリプトアダマントや魔力鉱石が脈打つ。空気は重く、魔力の圧力が肌を刺す。通路は迷路のように入り組み、トラップやモンスターが潜む。死生のスーツセンサーが即座に反応し、敵と罠の位置を特定。
「トラップ多すぎだな。ジュリアス、具体的な特定を頼む」
ジュリアスは風の魔法で通路を探索、微かな魔力の流れを感知。
「前方、床に圧力板。右の壁に矢の罠。気をつけて」
彼女の指示で、死生はブースターで低空を滑り、圧力板を回避。矢の罠が発動し、無数の矢が飛ぶが、死生はパルスブレードで弾き返す。リリウムは加護を維持し、祈りの光がトラップの魔力を弱め、動きを安定させる。
通路の奥から「アイアンビースト」の群れが襲来。鋼の鱗を持つ狼型モンスターだ。死生はブースターで突進、ブレードで先頭の首を刈る。
「楽勝だ!」
グレネードを投じ、爆炎で群れを分断。ジュリアスが粘着陣で残りを足止めし、リリウムの加護が死生の傷を癒す。三人の連携は息が合い、アイアンビーストを瞬く間に殲滅。
次のフロアでは、魔力で作動する落とし穴が待ち受ける。死生はセンサーで感知し、「ジュリアス、風で床を押せ!」と指示。ジュリアスが風の魔法で床を安定させ、死生がブースターで飛び越える。リリウムは祈りで魔力の乱れを中和し、トラップの作動を遅らせる。
さらに進むと、炎の障壁や雷の罠が連動して襲う。死生はブースターとブレードで突破、ジュリアスが風とバリアで援護、リリウムが加護で耐久を強化。
三人の的確な判断と熟練の動きで、トラップを次々に無効化。死生の戦士の勘、ジュリアスの冷静な分析、リリウムの信仰が一体となり、ダンジョンの試練を切り抜ける。
数時間を経て、三人はボスフロアの巨大な扉に辿り着く。扉はクリプトアダマントで強化され、魔力の紋様が脈打つ。
死生のセンサーが強力な存在を感知する。
「メタルドラゴンだな。資源の宝庫はここだ」
彼はブレードを握り直し、ブースターをスタンバイ。
「死生、ボスは一筋縄じゃいかないわ。連携を忘れないで」
と警告。
リリウムは護符を握り、
「神よ、最後の試練に力を……!」
と祈る。
死生はヘルメットを調整し、笑う。
「化け物だろうが、ぶっ潰すだけだ。行くぞ!」
扉が重々しく開き、広大な鉱脈の空間が広がる。中央に、クリプトアダマントの鱗で輝くメタルドラゴンが咆哮を上げた。床には鉱石が山積み、壁には資源が光っていた。
死生はブースターを噴射、戦闘準備を整える。
「資源もドラゴンも、全部いただくぜ!」




