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11話:船旅①

 黒四季死生の住処は、戦いの爪痕を色濃く残していた。パワードスーツは殺人鬼のナイフと邪神の魔法で無数の傷を負い、装甲はひび割れ、ブースターは出力低下を警告していた。


 死生はスーツを点検し、深いため息をつく。


「ただの修繕じゃ済まないな……」


 彼の指が傷だらけの装甲をなぞる。グレネードランチャーやミサイルポッドも弾薬が尽き、パルスブレードのエネルギーコアは限界に近い。


 ジュリアス・エメリーが現れ、蒼い軽鎧をカチャリと鳴らす。


「スーツの状態、ひどいわね。教団との戦いでボロボロよ。どうするつもり?」


 彼女の声はクールだが、死生の無茶な戦い方を案じる色が滲む。

 リリウム・オルレアが後ろから控えめに続く。修道服の裾を握り、彼女は心配そうに言う。


「死生さん、スーツがこんなだと……次の戦い、大丈夫ですか? 神のご加護も、装備が壊れてたら……」


 死生は工具を置き、二人を振り返る。「心配しないで欲しい。資源さえあれば、スーツは修繕できるし、新装備も作れる。地球へ資源を送ればボーナスがついた装備が配備される。問題は、その資源だ」


 彼は壁の魔力モニターを起動し、地図を表示。


「ここ、大規模ダンジョン・アーク。鉱山資源がゴロゴロしてる。クリプトアダマントも、もっと上質なのが眠ってるらしい」


 ジュリアスがモニターを覗き込む。


「アークか……迷宮都市アークネストの近くね。遠いわよ。しかも、あのダンジョンは規模が桁違い。モンスターも、トラップも、過去の攻略記録じゃ手に負えないって話」


 リリウムが目を丸くする。


「そんな危険な場所に……? でも、死生さんならきっと……!」


 死生は小さく笑う。


「危険だろうが、資源がなきゃ戦えねえ。行くしかない。ジュリアス、リリウム、俺を助けてほしい」

「置いてかれても困るし、付き合うわ。リリウム、覚悟しなさいよ」

「はい! 神のご加護で、皆さんを守ります!」




 黒四季死生、ジュリアス・エメリー、リリウム・オルレアは、大規模ダンジョン・アークの鉱山資源を求めて迷宮都市アークネストへの遠征を決意した。


 パワードスーツの修繕と新装備の確保にはクリプトアダマントが必要であり、その最良の調達先はアークの深部だった。だが、アークネストへ至る道は長く、広大な海を渡る巨大な船旅が必須だった。


 三人は世界治安維持機構の支援を受け、港湾都市からアークネストへ向かう魔力駆動の巨大船「オルカナ号」に乗船した。


 オルカナ号は鉄と魔力結晶で強化された全長3000メートルの要塞船で、甲板には魔力砲が並び、護衛の魔導師や騎士たちが常駐。


 船内は攻略者や商人で賑わい、まるで小さな都市のようだ。


 死生は甲板の端でパワードスーツの簡易点検を行い、傷だらけの装甲を眺める。


「海の上じゃスーツの出番ない。退屈だぜ」


 ジュリアスは蒼い軽鎧を脱ぎ、軽装で海風に髪をなびかせる。


「退屈ならいいけど、この海、巨大な海洋生物が出るって話よ。油断しないでよね」


 彼女は魔力のルーンを調整し、いつでも戦える準備を整える。リリウムは修道服の裾を握り、船の揺れに少し青ざめながら祈る。


「船、沈みませんよね?」


 彼女の不安げな声に、死生は笑う。


「沈む前に、俺がなんとかするさ」


 海は一見穏やかだったが、深く青い水面の下には不穏な気配が漂う。オルカナ号は魔力エンジンの唸りを響かせ、波を切り裂いて進む。だが、旅の三日目、突如として船が大きく揺れ、警報が甲板に響き渡った。


「敵襲! オヤ・クラーケン確認!」


 船長の声が魔力拡声器で轟く。水面が沸騰するように泡立ち、巨大な影が船を包む。オヤ・クラーケン――全長100メートルを超える海洋生物が姿を現した。無数の触手が水面を叩き、吸盤に覆われた腕が船体を締め上げる。甲板が軋み、乗客の悲鳴が上がる。クラーケンの赤い目が船を睨み、口から腐臭を放つ。


 死生は即座にパワードスーツを装着。


「さぁ、狩りといこう」


 ブースターを起動し、甲板に躍り出る。ジュリアスは魔力ルーンを輝かせ、叫ぶ。


「死生、船から離れすぎないで!」

「神の加護を皆に!」


 リリウムが金色の光を放つ。彼女の加護が船員と護衛に力を与える。


 船に備え付けられた魔力砲が一斉に火を噴いた。青白い魔力の光弾がクラーケンの触手を焼き、肉が焦げる臭いが広がる。護衛の魔導師たちが甲板に陣取り、炎や雷の魔法を連射。火球がクラーケンの目を直撃し、雷撃が触手を痺れさせる。だが、クラーケンは咆哮し、触手で魔力砲を叩き潰す。船体が傾き、甲板に海水が流れ込む。


「コドモ・クラーケン、上陸!」


 護衛騎士のリーダーが叫ぶ。

 オヤ・クラーケンの触手から、小型のコドモ・クラーケン――全長5メートルの子クラーケンが数十体、甲板に這い上がる。鋭い牙と毒液を滴らせる触手で騎士たちに襲いかかる。騎士たちは剣と盾で応戦、毒を浴びながらもコドモを斬り倒す。


 死生はブースターで跳躍、パルスブレードを振り下ろし、コドモ・クラーケンの頭を両断。


「ちっちゃい奴は俺が片付ける!」


彼はグレネードを投じ、爆炎でコドモの群れを吹き飛ばす。ジュリアスは風の魔法でコドモの毒液を散らし、粘着陣で動きを封じた。


「死生、オヤを狙わないと終わらないわ!」


 リリウムは騎士たちに回復の加護を施し、祈り続ける。


 オヤ・クラーケンが船体を締め上げ、甲板が割れ始める。死生はブースターで船外へ飛び、クラーケンの触手に着地。


 パルスブレードで触手を切り裂き、血と粘液が噴き出す。クラーケンが咆哮し、別の触手で死生を叩き落とそうとする。

 ジュリアスが風の刃で触手を分断した。


「死生、目を狙って!」


 死生はバズーカを構え、クラーケンの赤い目に直撃。爆発で目が潰れ、クラーケンが暴れ狂う。

 護衛の魔導師と騎士が総力を挙げ、魔力砲と魔法でクラーケンを攻撃。死生はブースターでクラーケンの口元へ突進、グレネードを口内に投擲。内部で爆発が響き、クラーケンの動きが止まる。


 騎士たちがコドモ・クラーケンを殲滅し、魔導師が最後の雷魔法を叩き込む。オヤ・クラーケンは断末魔の咆哮を上げ、海に沈む。


 船は損傷したが、航行可能な状態を保つ。死生は甲板に戻り、スーツの損傷をチェック。


「海の化け物も大したことないな」


 ジュリアスは肩をすくめる。


「あなたが無事でよかったわ。リリウム、よくやったわね」

「神のご加護、届いてよかったです……!」


 船員や護衛から感謝の声が上がるが、死生は手を振って応じて言う。


「さっさとアークネストに着こうぜ」


 オルカナ号は再び進み始め、遠くに迷宮都市アークネストの灯が見えてくる。クラーケンとの戦いは、ダンジョン・アークの過酷な試練の前哨戦に過ぎなかった。三人の視線は、海の彼方の新たな戦場に向けられていた。




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