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一話:資源採取



 黒四季 死生は、パワードスーツの重厚な装甲を軋ませながら、ダンジョンの薄暗い通路を疾走した。


 右肩のグレネードランチャーが低く唸り、左肩のミサイルポッドが微かに振動する。右手に握ったバズーカの重みが心地よく、左手のパルスブレードは青白い光を放ち、闇を切り裂く準備を整えていた。


 レーダーに映る赤い点――ゴブリンの集団が前方に迫る。5体。死生の唇が僅かに吊り上がる。


「数は5体か……上等」


 そう呟き、スーツのブースターを一気に吹かす。背後で爆風が唸り、彼の身体が矢のように加速した。


 ゴブリンの群れが視界に飛び込む。醜悪な顔が驚愕に歪む間もなく、死生は左手を振り抜く。パルスブレードが空気を焼き、青い閃光が弧を描く。一体の首が音もなく宙を舞い、血飛沫が石壁を濡らす。残り四体。ゴブリンたちが金切り声を上げ、粗末な武器を振りかざして襲いかかる。


 死生は動じず、右手を構える。バズーカの引き金を引くと、轟音と共に爆炎が通路を飲み込んだ。衝撃波で二体のゴブリンが粉砕され、肉片と骨が飛び散る。残り二体。だが、ゴブリンは怯まず、死生の懐に飛び込もうとする。


「ワリィな」


 と吐き捨て、死生は右肩のグレネードランチャーを発射。床に叩きつけられた爆弾が炸裂し、一体が断末魔の叫びを上げながら黒焦げに沈む。最後の一体が、絶望的な突進を試みる。死生は冷たく笑い、パルスブレードを逆手に持ち直す。一閃。ゴブリンの胴が斜めに両断され、崩れ落ちる。

 戦闘は十数秒で終わった。死生は血と硝煙の匂いに包まれながら、レーダーを確認する。次の獲物を求めて、再び走り出す。ダンジョンの闇に、その背中が溶けていった。



 黒四季死生は、ダンジョンの最深部――ボスモンスターエリアに足を踏み入れた。

 広大な円形の空間に、湿った空気が淀む。中央にそびえるのは、異形の存在だった。


 巨大なクワガタ、名をツインアームクワガタ。漆黒の甲殻は鋼のように硬く、鋭い大顎が低く唸る。だが、最も異様なのはその胴体から生えた二本の人間の腕――筋肉がうねり、拳を握るたびに血管が浮き上がる異形の怪物だ。


 死生は一瞬、目を細め、敵を値踏みする。


「面白い奴だ」


 と呟き、パワードスーツのシステムを全開にした。ブースターが火を噴き、彼の身体が宙に舞う。

 戦闘が始まった。


 ツインアームクワガタが咆哮し、巨体とは裏腹の速度で突進。大顎が空気を切り裂き、死生を狙う。死生は左に跳び、スーツのジェット噴射で横に滑る。床が大顎に砕かれ、破片が飛び散る。着地と同時に、死生は右肩のグレネードランチャーを発射。


 爆炎がクワガタの甲殻を叩くが、煙が晴れると傷一つない。怪物は嘲笑うように人間の腕を振り、拳から衝撃波を放つ。


 死生は宙返りで回避。衝撃波が背後の壁を粉砕し、岩石が崩れ落ちる。


「硬えな!」


 舌打ちしつつ、左手のパルスブレードを起動。青白い刃が唸り、死生は一気に距離を詰める。クワガタの右腕が振り下ろされるが、死生はスーツの機動力を活かし、斜め上に跳躍。


 空中で身体を捻り、パルスブレードを甲殻の継ぎ目に叩き込む。火花が散るが、刃は僅かに食い込んだだけ。クワガタが怒りの咆哮を上げ、左腕で死生を薙ぎ払おうとする。


 死生はブースターを逆噴射し、間一髪で後退。着地と同時に右手にバズーカを構え、連続発射。爆発がクワガタを包むが、怪物は煙を突き破り、両腕をクロスさせて突進。死生は横に跳び、壁を蹴ってさらに高く舞う。空中で左肩のミサイルポッドを開放。誘導ミサイルが弧を描き、クワガタの背に炸裂。甲殻に初めて亀裂が走る。


「そこ!」


 死生は叫び、落下しながらパルスブレードを振り下ろす。狙いは亀裂の中心。クワガタが大顎を振り上げるが、死生はブースターで軌道をずらし、刃を直撃させる。甲殻が砕け、緑色の体液が噴き出す。


 クワガタが苦悶の声を上げ、両腕で死生を掴もうとする。死生は掴まれる寸前、グレネードをクワガタの口に投げ込み、ブースターで急上昇。背後で爆発が響き、クワガタの頭部が半壊。怪物はよろめき、膝をつく。死生は天井近くから急降下し、パルスブレードを両手で握り、全重量を乗せて突き刺す。刃がクワガタの核を貫き、巨体が痙攣する


 ツインアームクワガタの巨体が最後の痙攣を終え、床に崩れ落ちる。轟音とともに埃が舞い上がり、ダンジョンの空気が一瞬静まり返る。黒四季死生はパルスブレードを引き抜き、緑色の体液が滴る刃を一振りして血を払う。


 パワードスーツの表面は傷と焦げで汚れているが、彼の呼吸はまだ整ったままだ。


「これで終わりか?」


 レーダーを確認する。だが、背後で不穏な振動が響き、死生の目が鋭く光る。崩れたクワガタの甲殻が突如として弾け飛び、新たな咆哮が空間を揺さぶる。死生が振り返ると、クワガタの残骸から赤黒い霧が立ち上り、それが凝縮して新たな姿を形作っていく。第二形態――ツインアームクワガタの真の姿だ。甲殻はさらに分厚く、両腕はより筋肉質に膨れ上がり、大顎の先端には紫電が走る。


 今度は背中から無数の棘が突き出し、それぞれが独立して動く触手のようにうねっている。


「ハッ、隠し玉かよ!」


 死生は笑い、スーツのエネルギーを再分配。ブースターが唸りを上げ、彼は即座に戦闘態勢に入る。

 クワガタが地面を蹴り、触手を鞭のように振り回す。棘の先端が空気を裂き、死生に向かって殺到。死生はブースターを全開にし、右に左に翻る。


 触手が床を抉り、壁を穿つ。死生は空中で身体を捻り、右肩のグレネードランチャーを連射。爆発が触手を吹き飛ばすが、クワガタは意に介さず、両腕を振り上げて雷鳴のような衝撃波を放つ。


 死生は壁に激突する寸前、ブースターで急上昇し、衝撃波を回避。天井近くで反転し、左肩のミサイルポッドを全弾発射。ミサイルが雨のように降り注ぎ、クワガタの甲殻を直撃。


 爆炎が広がるが、怪物は触手を盾のように構え、ダメージを最小限に抑える。「しぶとい奴!」死生は舌を打ち、右手にバズーカを構えるが、クワガタが大顎を開き、紫電を帯びたエネルギー波を吐き出す。


 死生は横に跳び、エネルギー波が背後の壁を溶かすのを視界の端で捉える。着地と同時にパルスブレードを振り、触手の一本を斬り飛ばす。緑の体液が噴き、クワガタが怒りに吼える。死生は隙を突き、グレネードを投げ込むが、クワガタの左腕がそれを叩き落とし、爆発は空を切る。


「なら直接だ!」


 死生は叫び、ブースターを限界まで酷使。スーツが悲鳴を上げる中、彼はクワガタの懐に突っ込む。触手が四方から襲うが、死生はパルスブレードを振り回し、次々と切り裂く。


 クワガタの右腕が振り下ろされる瞬間、死生はブースターで斜め上に跳び、大顎の隙間を狙う。パルスブレードを両手で握り、全力で突き刺す。刃が大顎の付け根に食い込み、紫電が暴発して周囲を焼き焦がす。


 クワガタが絶叫し、両腕で死生を掴もうとする。死生はブレードを固定したまま、右肩のグレネードを口内に連射。爆発が内側からクワガタを喰らい、頭部が完全に砕ける。死生はブースターで後退し、崩れ落ちる巨体を冷たく見下ろす。


「今度こそ終わりだろ?」


 埃が収まり、静寂が戻る。死生はスーツの損傷を確認しつつ、ダンジョンの出口へ歩を進める。だが、その背後で、微かに脈打つような音が響き――彼の足が一瞬止まる。振り返らず、死生は小さく笑った。


「まだ何かあるなら、かかってこいよ。」


 黒四季死生は、崩れ落ちたツインアームクワガタの第二形態を前に一瞬の隙も見せない。赤黒い霧が薄れ、クワガタの巨体が最後の力を振り絞る。突如、甲殻の縁が刃のように鋭く伸び、触手と連動して死生を全方位から切り裂こうと襲いかかる。刃は空気を裂き、金属のような軋みを響かせる。


 死生の目は冷たく光り、スーツのセンサーが刃の軌道を瞬時に解析。


「その程度」


 吐き捨て、ブースターを短く噴射。身体を低く滑らせ、右に左に翻りながら刃の嵐を紙一重で躱す。一本の刃がスーツの肩を掠め、火花が散るが、死生は動じず、逆にクワガタの懐へ飛び込む。


 クワガタが触手を振り乱し、甲殻の刃をさらに伸ばして死生を串刺しにしようとする。だが、死生はパルスブレードを逆手に構え、触手を次々に斬り飛ばす。青白い刃が闇を切り裂き、緑の体液が噴き出す。クワガタの動きが一瞬鈍ったその刹那、死生はブースターを全開にし、垂直に跳躍。空中で身体を捻り、クワガタの胸部――赤く脈打つモンスターコアを視界に捉える。


「見えた!」


 死生は叫び、落下の勢いを乗せてパルスブレードを振り下ろす。クワガタが甲殻の刃を盾のように構えるが、死生はブースターで軌道を微調整、刃の隙間を突く。パルスブレードがコアの表面を切り裂き、死生は左手で一気にコアを掴む。スーツの強化筋繊維が軋み、モンスターコアが甲殻ごと引きちぎられる。


 クワガタが断末魔の咆哮を上げ、巨体が痙攣。コアを失った怪物は力を失い、触手がだらりと落ち、甲殻の刃が砕け散る。死生はコアを握り潰し、爆発的なエネルギーが解放される前に投げ捨てる。背後で光が炸裂し、クワガタの残骸が灰と化す。


 静寂が戻る。死生はパルスブレードを収め、スーツの損傷を一瞥。


「派手な花火だったな」


 振り返らず出口へ歩き出す。ダンジョンの闇は彼の背を静かに見送った。


 ツインアームクワガタの灰が冷たく床に沈む中、黒四季死生はダンジョンのボスエリアに静かに立つ。


 戦闘の熱が冷め、目的が彼の意識を支配する。


 このダンジョンに潜った理由――それは、ボスエリアの奥に眠るレアメタルだ。地球に転送して、生きる糧を得るのに必要不可欠な資源。

 それを確保するため、死生は幾多の危険を乗り越えてきた。


 死生はスーツの背部から資源採掘ユニットを展開する。コンパクトな装置がウィーンと音を立て、腕部から伸びたドリルと吸引ノズルが青い光を放つ。


 彼はレーダーを確認し、クワガタの残骸を越えてエリア奥の岩壁へ向かう。そこには、薄暗い光を反射する鉱脈が脈打つように輝いている。レアメタル、クリプトアダマント。地球の市場では一欠片で都市の電力一年分に匹敵する価値を持つ。


「これか……上物だな」


 死生は採掘ユニットを岩壁に押し当てる。ドリルが高速回転し、硬質な岩を削り取る。火花が散り、クリプトアダマントの結晶が剥き出しになる。吸引ノズルがそれらを吸い上げ、スーツの内部コンテナに収納。採掘ユニットのディスプレイには、収集量がリアルタイムで表示され、みるみる数字が上がっていく。


 周囲は静寂に包まれ、時折、遠くのダンジョンから微かな獣の咆哮が響く。死生は警戒を緩めず、レーダーに目を配りながら作業を続ける。鉱脈の一角を掘り尽くすと、彼はスーツのブースターで軽く浮き上がり、隣の鉱脈へ移動。効率的に、だが慎重に、採掘を進める。


 やがて、コンテナの容量が限界に達する。死生は採掘ユニットを停止し、ディスプレイを確認。


「ノルマ達成だ」と満足げに頷く。クリプトアダマントの輝きを一瞥し、ユニットを格納。スーツの損傷を軽く点検した後、彼は出口へ向かう。


「次はもっと深いダンジョンだな」と呟き、死生の背中が闇に溶ける。レアメタルの重みが、スーツの中で静かに響いていた





 地球にいる人間の数が多いので、異世界で資源採掘してきてください、という理由で地球から追放された地球防衛軍の黒四季死生は、体に備え付けられた資源採掘ユニットの機能を活かして、異世界で傭兵をやっていた。


 死生の送り込まれた異世界は、少ない男は家庭を守り、数が多い女が戦うのが普通の世界だった。

 当然、そこに戦う男が参入すればモテる。需要と供給が釣り合わないので、そりゃあアイドルコース一直線だった。


 資源をノルマより多く回収すれば、ボーナスとして強い武器やアイテムが貰える。


 しかしペナルティも存在する。

 一ヶ月の資源採掘ノルマを達成できない者は、資源節約の為に殺されて、資源採掘ユニットを回収されてしまうということだった。


 彼は命を握られながら、死生は資源を回収するのだった。



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