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公道最速少女  作者: oroto
6/50

5話「声」

5話


 香織は瞳のハチロクのことを一つ一つ思い出しながら言っていく。

『エンジンは知っての通り、レース用エンジン。でも、1.6ℓを11000回転まで回している高回転エンジンだから低回転がトロく感じるね。ボディはかなり凝っててスポット増しにエンジンルームやトランクルームとかの四隅につける三角形のやつ……なんでっけ?』

「ガゼットか?」

『そう、それ。だけどまだロールゲージは巻いてないみたい。足回りは瞳オリジナルで私にもどうなってるかわからない』

「それだけで十分だ。ありがとな」

『兄さん……』

「なんだ?」

『もし、ロリコンだったら私と瞳は泣くわよ……」

「ロリコンじゃねぇよ!!」

 やっぱり、どこかネジが抜けた奴だ……と溜息をつきながら思う直登だった。

 と、唐突に香織が。

『で、瞳とハチロクが相手より勝っているのは、やっぱり「あれ」?』

「だろうな……」



                                *


 2台のマシンは2連続ヘアピンに突入。

 瞳は前を走る横川の走りを見て感嘆する。

(流石兄貴が認めただけはある。FFでもヘアピンをいとも簡単に抜けていく)

 基本的にFFは走りには必要不可欠な路面にタイヤの駆動力を伝えるトラクションが不足しがちでコーナーの立ち上がりで必要なトラクションが不足するのだ。

 だが、横川のシビックからはそんなものを感じさせない。

(まぁ、付いていけているだけマシだろう……でも、いけるのかなぁ……?)

 と不安に駆られる瞳。


 一方前を走る横川春奈もヘアピンで仕掛けてくるのではないかと不安になっていた。

(ここで仕掛けてこない。ということは次のとこか)

 と冷静に判断しながらも、先程の自分の走りはよくできたと思う。

 普段、姉の香織のインテグラにちょっと乗せてもらえる程度なのでFFの特性は体ではよく理解できていなかった。

 FFという車体構造は前部(フロント)にエンジンを積んで前輪が駆動する構造だ。

 ただでさえフロントにエンジンがあって重いというのと、ブレーキングでフロントに車体の重心――すなわち荷重――がかかってしまうのにプラスして加速時に負荷がかかるタイヤはフロントタイヤだ。

 つまり、FF車はフロントタイヤを傷めやすい。

 これは、FF車の不治の病と言っても過言ではない。

 もちろん、横川はそれを承知している。


 2台は2連続ヘアピンを抜けてスケートリンク前ストレートを突っ切っていく。


                                *


 直登と香織が電話で話をしているのを見たのか、頂上で待っていた藤原達が近づいてきた。

「直登さん。誰と話しているんですか?」

「ん、あ、ちょっと待て」

 と直登が少し待つように香織に伝えた後。

「香織とちょっとな」

「なにをですか?」

「今回のバトルを……な」

『兄さん。やっぱ瞳が仕掛けるのは』

「香織、お前の推測は当たっている。少なくとも俺ならそこでいく。一応、横川にも教えたんだが―――」

「なんで教えたんですか―――――――ッ!」

 とキレる藤原を手で制して。

「―――いくつかの候補のうちの一つがそこなんだ」

「「へ?」」

 と藤原と涼宮。

『つまり、「自分でどこで仕掛けてくるか考えろ」って?』

「そうだ。瞳が普通の問題を答えているとしたら、横川は選択問題を解いている感じだ。俺は『最初のコーナー』か『2連続ヘアピン』、『5連続ヘアピン』と教えた。特にヘアピンは注意しろ、と言ったからおそらくあいつは、2連続ヘアピンでマシンの容量(キャパ)を使い切って曲がっただろう……」

 とそこで一旦話を切る。

 香織が引き継ぐ。

『……ということはタイヤ、特にフロントが摩耗してるの?』

「そうかもしれん――――」

 その場の全員―――新自動車研究部―――が息を呑んだ。

「――――だが、今回はあんまり関係ない」

「「「へ?」」」

 その場にいた直登以外、香織も間抜けな声を出した。

「瞳が勝っているのはそういう戦術面じゃない。一体感だよ」

 と言いきった。

「直登さん、一体感って……?」

 と涼宮。

 直登は香織にも言い聞かせるように。

「瞳とハチロクは、まるで相棒のように息が合ってるんだ。これが、横川に勝てる要素だ」

「ちょっと待ってください。一体感って、誰でもうまく乗れれば感じるではないですか!」

 と藤原。

「その一体感ではない、瞳が信頼できるのは当たり前だが、さらにはあのハチロクも瞳を信頼している。つまり、両方ともが信頼しているんだ」

『……まさか、そんなどこかの戦術戦闘偵察機の中枢コンピューターやE○Aじゃないんだから……』

 と香織。

「気持ちはわかる。だが、俺はそのように感じる。ただの妄想かもな……あと、EV○は人造人間もどきじゃなかったか?」

『でも、誰だって自分の愛車を信じて、愛車も自分を――――』

「確かに、そう思っているやつはいるだろう。まぁ悪くはないが、それは単なる妄想だろ」

『そんなことを言ったら兄さんの考えだって!』

「妄想かもな。けど、機械、俺はあくまで物言わぬすぐれた道具として信頼している。まぁたまには洗車とかで機嫌を取ったり、みたいなこともあるが、バトル中は単なる道具にすぎない』

『それは……』

「横川は違う、意思疎通ができない道具と話そうとしているだけだ。やるんなら、ステアリングやシートなどから伝わる振動や反応から推測するだけだろう。けど、瞳はそんなのも越してしまったから車という道具から『声』というような感じのもの感じ取っているように感じているのだろう」

 とそこまで言われて全員黙りこむ。

『まさか、瞳はステア、シート、その他もろもろから伝わる振動とかから車の「意思」を感じとれるというの?』

「そんな感じだ。ざっくりいえば、『車から伝わる振動などを「声」に変換できる』と言った感じか、もちろんあいつがずっとハチロクに乗ってるからできるのだろう」

「タコがたまに言う……ハチロクの声ってこのことなの……」

 と涼宮がポツリと言う。

「これが高性能車殺し(ハイスペックキラー)の正体とも言える。まぁ、車からたくさんの情報を手に入れられるといった感じかな」

「相手はどうなんですか……?」

 と斉藤。

「横川は、その辺は素人レベルだ。そこが大きな違いだろう」

 と直登が言いきって、シーンと静まりかってから少しして香織が。

『……ッ! 今、スケートリンク前ストレートの後のヘアピンにいるんだけど、近づいてきたみたい。音が大きくなってきた』

「わかった、じゃあな」

 と電話を切る。


                                  *


 スケートリンク前のストレート、やはり、瞳のハチロクは離される。

 だが、それも予想の範囲。

 横谷瞳は、全身の感覚を限界まで研ぎ澄ます。

 最小限のステアリングで曲がる。


 それを見ていたギャラリーは。

「おい、見たかよっ!」

「ああ、あのハチロク、ほとんどステアを切ってなかったぞ……!」

「とんでもねぇ……80km/h以上は出てるはずだぜ」


 ステアはほとんど切ってないでアクセルワークに集中する瞳。

 ハンドルは、あくまできっかけ、後はアクセルでコントロールしていく。


 一方、横川は少し舌打ちをしていた。

(しまった、2連続ヘアピンで頑張りすぎた……! フロントタイヤが怪しい―――――――――!)


 前の車の動きがほんのわずかに変わる。

 ステアで強引に曲げようとしているのだ。


 (きた!)

 と瞳は待望のヘアピンに差し掛かる。


 横川はこの先の5連続ヘアピンのことも頭に入れて90%程度の力でヘアピンに突っ込む。

 だが、タイヤが摩耗しているため、本人は90%でも、実際は―――――

「突っ込みが甘いんだよ!」

 と瞳が仕留めにかかる。


 インに飛び込むハチロク、それをバックミラーで見た横川は。

「そうはさせるかっ!」

 と強引にインにマシンを貼りつかせる。

「なに!?」

 横川はバックミラー越しでも瞳が慌てたのがわかった。


 瞳は焦る。ここで抜かせなければほぼ負け、もしくはまた戦術を練り直さなければいけない。


 横川はその一瞬で、勝利を確信した。


 だが―――――


 インにいた横川は背中を氷で撫でられた感触を感じた。

 

 さきほどまで同じイン側にいた横谷のハチロクがいつのまにかアウトにいたのだ。


(なんで!?)

 と驚愕する横川。

 さきほどまでインにいた、というのは1秒も間は開いていない。なのに、アウト側にいた。それは横谷が瞬間的にアウト側に進路変更したのだ。

 だが、フルに突っ込んだマシンにそんな猶予はないはず。

 ――――なのに、そこにいた。

挿絵(By みてみん)


                                 *


 横谷瞳は前でインを塞がれた時はかなりの動揺をした。

 ――――あそこまで余力があったとは……

 絶望に浸っていた瞳に『声』が聞こえた。

 ―――――――まだ余裕はある。アウトに寄れる。

 ほぼ、反射的にアクセルを一瞬抜いて、その瞬間、ステアをアウト側に切った。

 そして、ガラ空きのアウト側に付く。

「いっけぇぇえええええええええええええええ!!」

 そのあまアクセルを踏む。


 一方、横川はアクセルを踏めない。

 強引にインベタについてしまったことと、FFならではのヘアピンでのトラクション不足、さらにはフロントタイヤの摩耗。

 これらの要因によってここで踏むといっきにラインが膨らんで横谷と絡んでクラッシュだ。

「言うことを聞いて、シビック!」

 だが、なんにも答えないシビック。

 その間にも横谷はアクセルを踏んで前に出る。

 横川も慌てて踏むが、旋回中だったため、アウト側にふくれてしまう。

 そこには横谷のハチロクが――――――


 横川はそのまま絡んでクラッシュ、というのを想像した。


 だが、横谷はガードレールすれすれでよけて行った。


 そして、抜く。


 先行と後攻が入れ替わった瞬間だった。


 横川は格の違いにアクセルを抜いてしまった。


 ―――――横川春奈、失速。


 それを見た瞳は。

「また、『声』を聞いちゃった。みんなに言ったら笑われそう」

 と自分でもクスクス笑いながら次のヘアピンに侵入する。


                                 *


 それを見ていた香織は。

(なに、あれ……?)

 ほとんど一瞬だった。瞳が横川を抜き去るのは―――

(流石瞳ね……あれが、高性能車殺し(ハイスペックキラー)

 と思った次の瞬間、クスクス笑い始めた。


 頂上の直登達も瞳が抜き去って、横川が失速したと香織から聞いた。

「ふっ、さすがに瞳相手じゃ無理だな」

 と言いながら2台が走り去って行った方向を見る。



VS横川完結。

皆様が楽しんでいただければ幸いです。

一応、次のライバルは考えてありますが、その前にまたコメディ風の日常でも書こうと思っています。

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