4話「日常&バトル」
今回から真面目なバトルシーンが入ってきます。
基本的に作者はバトルシーンを三人称で書くのでご了承ください。
4話
で、俺は走りこみの後、バトル前に微妙にセッティングを変えた。
細かくいうと一発のキレた走りのためのタイムアタック用と長時間のバトル用の真ん中くらいに変更。
まぁ、これで勝てるかどうか……
*
一方、横川達も榛名山用にセッティングを変えていく。
「OK、これでヘアピンでも踏めるはずだ。逆に高速域でヘタにアクセルを踏むと姿勢が崩れるかもしれん、そこは注意してくれ」
「わかりました」
と出て行く横川のシビック。
それを見送った直登に。
「結構兄貴は面倒を見ているんだな」
と妹の瞳に声をかけられる。
「まぁ、磨いたら光りそうな感じだからな。でも、瞳とのバトルでそっちのグループに入るのかな」
「わかんねぇ、あいつも破天荒だからな。自己中というか――」
「昔のお前もクールすぎたよ。もっとも、本当にガキの頃しかしらないけど」
「そうでうか。―――それはさておき、なんで自分で再挑戦してこない?」
「いいや、まずは横川からかな思って」
「ふん、俺はどんな相手でも勝つさ。シビックだろうと」
「昔は1.6ℓクラスのマシン同士でライバル車だったんだけどな。そう思えば因縁のマシン対決か……」
「まて、こちらがレース用エンジンたってあっちは2?のエンジン。あっちのエンジンや足回りが何段も上なはず」
基本的にエンジンは馬力はエンジンを回せば出るが、強さは排気量で決まる。もちろん多いほうがいい。
それに横川のシビックは最新鋭車。サスペンションの基本性能の差もある。
つまり、ノーマル車の違いが大きいのだ。
もちろん、発売された年代が違うからだ。
瞳のハチロクは83年から発売。横川のシビックは2007年発売。その差でも十分わかるだろう。
「それを打ち破るのが高性能車殺しだろ」
「そうだよ。俺が勝つ」
と言って走りに行った瞳。それを見た直登は。
「それは、わかりきってるんだよ。瞳」
と二台が走り去った道を見る直登。
*
で、連日の走りこみによってようやく足回りが仕上がってきた。
「これで、バトルの準備は完璧だね」
と藤原。
「まぁ、後は俺がどこまでハチロクの性能を発揮できるかだ」
「そこはほら、高性能車殺しの本領発揮で」
簡単に言ってくれるよ……
「それに、明日の夜だよ。バトル」
「わかってるよ」
と言って俺は学校に行くため、最寄駅まで歩き始めた。
いくら夜中に走っていても俺達は普通(?)の高校生。普通に授業を受けたりするのだが―――
「横谷さん、髪きれーい♪」
「脚も綺麗~」
などなど、友好的な別の中学から来た女子達、もちろん俺が元男とは知らない。
なので間違えても家とかでの口調はできない。
したがって。
「そ……そう?」
などでごまかす。それしかない。
前では。
「ねぇ、この前横谷さんとなにがあったの?」
と横川がこの前俺を拉致したことについて追及されていた。
それに対して横川は。
「特になにも」
と答えている。そっけないなぁ……
「えー、でも顔を真っ赤にして帰ってたらしいじゃん」
「そ……それは?」
「それは?」
「貴女達には関係ないでしょ」
やっぱ素っ気ねぇ…… キャラ的に某ハ○ヒ(初期)かどっかの深○零だな。
で、そのように素っ気なく返事をすると――
「ねぇ、横川さんとなにがあったの?」
俺にお鉢が回ってくる。
「い……いや、趣味が似た感じだったから……」
「趣味って?」
こういうのもなんだが、いい加減、ウザいです。
「ああ、BL?」
と言われて俺と横川で「ぶっ!」と吹き出した。
なんでそうなるんだ? 俺はどちらかというと百合……じゃなくて!
「「なんでそうなるの!?」」
同時に訊いていた。
「まさかの……?」
おい、訊いてきたまだ名前を覚えていない女子よ。自分で訊いてきてなんで引くんだ!?
「「いやいやいや、あたしはノーマルだから!」」
とまたもや2人で否定。
「だよね」
と言って笑う女子。つ、疲れる……
と、俺は先程は大丈夫だったがたまに「俺」と言ってしまうことがあるので注意している。特にツッコミ。
帰りの電車の中で。
「横谷。そういえば本番で使うハイグリップのタイヤはあるのか?」
と工藤。そういえばここ2日3日の走りこみで減ってた気がするな……
「今日でも買いに行くか……」
「手伝ってやろうか。重いだろ?」
「ありがとう」
俺が女子になってからはこのようなことに気を使ってくれる工藤。まぁ、女子になって最初の時に1人で買いに行って次の日腕が筋肉中になって大変だったからな。
「じゃあ、今日の夜にいつものとこに」
いつものとことはいつも俺と工藤や新自動車研究部のメンバーが集合している場所のことだ。
「で、タイヤ屋に行って、ホテル行っ――ぐふっ!」
危険な芽は摘んでおこう。
「うぅ……横谷の肘打ち、相変わらず強いな……」
とうずくまって言う工藤。だがすぐに復活した。
「じゃあ、俺のランエボででいくか」
と言ってきた。
工藤の愛車のランサーエボリューション Ⅸは2ℓでもターボが付いててパワーとトルクがあるからな。重い荷物を積んでの時にはいい。
「わかった。でも入るかなぁ……?」
「いざとなったら後部座席にでも積めばいい」
「そうだね」
で、タイヤの買いに出かけた俺達。
特になんにも起きず、ただたわいのない会話をしていただけだ。
で、タイヤはメーカーや銘柄、サイズは覚えているので簡単に買える。
2人で分担して2本ずつ持って工藤のランサーエボリューション、通称ランエボの元に向かう。
やはりトランクでは中途半端だったので後部座席に入れる。
「さて、帰るか」
と工藤が言って運転席に座る。
俺も助手席に乗って出発するのを待つ。
と、突然。
「横谷」
と言われて工藤のほうを見ようとすると。
「いいか?」
と言われて顔を両手で掴まれた。
こ、これは!?
俺が混乱中にも工藤はキスの体勢を作って顔を近づけてくる。
「いくぞ」
と言って、顔が急速接近。そして――――
ボコッ。
工藤の顔にパンチをお見舞いする。
「調子に乗りすぎました。申し訳ありません」
と謝罪する工藤。ならすんな。
俺の家に帰ってきてタイヤをガレージに入れて工藤を別れる。
「さて、明日の夜か……」
明日はちょうど祝日で休みだ。
ゆっくり寝ることにしよう。
*
バトル当日、朝はいつもより遅めの9時まで寝て体力を補っておく。
「瞳、今日はバトルに勝つことを願ってカツ丼をつくってみたの」
「おお、縁起担ぎか、いただきまー……」
って。
「朝から食えるかぁ――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
朝からカツ丼を食うとかどこの運動系の男子だよ。というか重すぎる。
「せっかくの縁起担ぎが……沙織ちゃんも食べてくれないし……」
「昼にしてくれっ!」
「ガーン」
口で言う姉貴。アホだ。
その日、前日に買ってきたタイヤで少し走って適度に減らしておいた。
一番グリップする域のちょっと前くらい。これがバトルでいいんだ。
「タコ。怪我はしないようにね」
と涼宮。
「わかってるよ」
*
その後、昼ごはんの冷めたカツ丼を食べた俺達が頂上に戻ってきたとき、横川と兄貴もいた。
「じゃあ、練習走行をするから、よろしくね」
と言って走り去っていく横川。少しは愛想を良くしろ。
「瞳」
と兄貴は声をかけてきた。
「今夜のバトル、楽しみにしてるよ」
と言われた。なんなんだ……?
とりあえず、またタイヤを古いのに換えて最終チェック。
そして、バトル本番。
*
2台のマシンがスタートラインに並ぶ。
片方はレース用エンジンを積むハチロクに乗る横谷瞳。
そして、もう片方は天才調律師とも呼ばれる走り屋、横谷直登がチューンしたFD2型 シビックタイプR。
ともに、NAの軽量、コンパクトなマシン。どちらが勝つかは、誰にもわからない――――――
「じゃあ、始めるぞ!」
とスターターの斉藤が手を上げる。
2台のマシンが空ぶかしを開始する。
「5、4、3、2、1、GO!」
2台のマシンが榛名山の峠に飛び出していく。
「……2人とも、無事に帰ってこい」
直登が呟く。
*
横谷瞳の姉、横谷香織はとある場所にいた。
序盤にある2連続ヘアピンを抜けた先のストレート、通称スケートリンク前ストレート。
そこからは高速セクションがあり、そこを抜けるとヘアピンがある。
横川のシビックは駆動方式上、低速からの立ち上がりが苦手だ。
さらに、あのコーナーの出口は広がっている。
瞳が仕掛けるならあそこしかない。
そう、確信していた、香織だった。
*
いくら駆動方式がFFとはいえ、何世代も離れている上にエンジン自体のパワーや車体構造の違いで前に出た横川春奈。
一方、スタートで後ろになってしまった横谷瞳。
(後ろとはいえ、こちらは道を知り尽くしている。―――負けるわけにはいかない)
後ろにピッタリ付いてくる瞳をみて横川は。
(さすが高性能車殺し、まだあたしのシビックに付いてくる。今まで首都高環状線で何台もGT-Rをちぎってきたあたしに――)
と感嘆と相手への称賛を頭の中で考えながらも。
(抑えているだけで、勝てるわけではない。直登さんに教えてもらったポイントをしっかりクリアしていく、それだけ、あとはこのシビックを信じていくだけ)
横谷は前の横川の動きに驚いていた。
(すげぇな……あの短期間でここまで走れるとは……)
正直、横谷は一瞬勝てない気がした。だが―――
(だが、まだ中速セクション。この後の2連続ヘアピンでガッチリ食いついて『あそこ』で仕掛けるんだ)
ステアリングをしっかりと握る。
(ここからは、高性能車殺しのターンだ。高性能車は後ろを走っていればいいんだ。――――なぁ、ハチロク?)
―――――その通り、だから、俺は走るんだ。
そう、ハチロクが言った気がした。
*
横谷直登は妹の横谷香織――横谷瞳の姉でもある―――に電話をした。
「香織……こんな時に訊くのもなんだが、瞳のハチロクのことを知りたい)
『兄さん、それはバトル相手への助言じゃなくて―――』
「個人的な興味だ」
「わかったわ」
と瞳のハチロクの詳細を話し始めた香織。
今回はVS横川の前編です。ブログで出してほしい車のアンケートをしているので、よかったらご参加してください。