45話「新参者探し(前編)」
後ろから近づいてくるBNR32、間違いない、兄貴のマシンだ。
完全に煽ってきている、バトルを仕掛けに来ている。
まだ完全といえる状態ではないが、受けるしか無い。
*
ヘアピンを立ち上がり瞳が本気の加速をする。
ハチロクのときではありえなかった加速、だがそれすらを上回るBNR32。
(パワーはあるな……あいつはそれを生かしきれてるのか……)
と思いつつも、直登のR32の加速も凄まじいものだ。
エンジン自体を2.8リッター化して、タービンも変え600馬力程度。
最近の湾岸線はともかくとして、その他首都高のエリアでは扱いやすい特性も相まって今でも最高レベルの速さを維持している。
だが峠となれば別。
そのままのセッティングでは、首都高のスピードレンジでは安定性を与えてくれても、峠の低いスピードレンジではアンダーステアとの戦いになるのだ。
だが瞳もまだ未完成のセッティング。
(トラクションが足りない……! もっと安心して踏めるようにしないと)
だが全体的な剛性などがハチロクよりも格段によく、不安はほとんどなかった。
ギアチェンジ、前のと違い、こちらもしっかりと入る、むしろ気持ちいいくらいだ。
(パワーはある……けどあのGT-Rと比べればほんの僅か……)
2リッターNAの中での名機、F20C改2.2リッターでもRB26改2.8リッターのパワーの前では心もとないパワー。
だがここは峠、パワーだけでは全ては決まらない。
明らかにコーナリング性能では瞳のが上、だがストレートで追いつかれる。
(多分、コーナリングの姿勢とかから考えると首都高専用のマシンなんだろうに、エンジンのレスポンスがいい……ピークパワーだけを求めた仕様じゃないんだ……)
以前の峠兼用のときと違いピークパワーを求めた700馬力仕様などになっているのかと思っていた瞳からすると意外だった。どうやらエンジン系統は以前とほぼ同じ仕様なのだろう。
一人で走っているときには不満のなかったセッティングだがいざバトルとなるとリアのトラクション不足に悩まされる。
(コーナーの侵入に重点を置きすぎたかな……)
そのようなセッティングの詰めの甘さを感じながらもマシンをさらに加速させていく。
そんな瞳をよそに余裕なオーラを出してくるBNR32。
そして5連続ヘアピン。
ヘアピンは苦手なのか、詰めてこない。
(なんてマシンだ。首都高専用でアンダーが出まくりとはいえすごいフットワークだな……)
ハチロクのときとは比べ物にならないくらいのスピードで旋回していく。
(旋回速度だけじゃない……安定性もある)
ハチロクのときのようなどこか不安定さやそれを強引にねじ伏せているわけでもない、いい意味で車任せにしている部分がある。
(こりゃこれからも化けるぞ……)
直登は瞳に対し恐ろしさを感じざる得なかった。
気がつけば最終コーナー。ストレートでピッタリと食いついたものの、圧倒できたとは思えなかった。
*
そのままゴール地点についたが、兄貴はそのまま走り去ってしまった。
バトルとしては中途半端だったが、あれでよかったのだろう。
本気でぶつかり合えるときは必ず来る。
ちなみに工藤はそれから数分経ってから降りてきた。
下りだと意外と速いとか言っているがどう考えてもNAモデルでそんな訳がない。
「いやいやそれが意外と……速い……気が……」
「おい、後半弱々しくなってるよ」
「いやー……軽さだけでパワーないなって……」
「そりゃそうでしょ……」
二代目のNAでもせいぜい60馬力程度だろうか、よくこの峠を登ったものだ。
「やっぱパワーって偉大だな……」
「まぁその気持はわかるけど」
やっぱりハチロクとは違いパワーがあっていい、街乗りでも無理にエンジン回さなくていいから燃費も良くなっている気がする。
「ま、工藤も早くぶつけないでランエボに乗れるようになれるといいね、一発の速さはあるんだし」
「それ、褒めてるのかけなしてるのかわからないぞ」
「素直に俺の言葉を受け取れないなんて……工藤も落ちたな……」
「いや完全に皮肉込めてたでしょ」
「工藤のバカ!」
「いやだから話し繋がってないし、てかどこにいく!?」
よし、このまま逃げてそのまま寝るぞ。
ここからまた別のところに連れて行かれると肉体的に死ぬ。
*
早朝の榛名山の麓で嘆く工藤。
「やっぱダメだったか……無駄にあいつは察知能力があるなぁ……」
トボトボ歩いてパワーのないワゴンRに乗り込み街へ帰っていくのであった。
果たして彼が報われる日は来るのであろうか。
*
家に戻った直登は先ほどの瞳の走りをまとめていた。
(やはりまだ仕上がってはいないみたいだな……特に立ち上がりのときが不安定みたいだな)
飲んでいた缶コーヒーを手元の机に置き、再度パソコンに向かう。
(多分今日のバトルで弱点にも気付いただろうな……こりゃ本人を覚醒させてしまったかもしれない)
推定馬力、走りでみた簡単な脅威度、それらを打ち込んでいく。
(だがそれでいい、速くないアイツを競っても意味はない)
さらに峠専用となった自分のNSXとの性能比較。
(大幅なチューニングは必要ないだろうが、足回りの見直しは必要だろうな……)
そうして横谷直登の対横谷瞳への準備が進んでいく。
*
ある夜の有城峠にて。
榛名のハチロクが事故ったというニュースは広まっていた。
「あのハチロクが事故るってくらいだからやっぱ峠って何が起こるかわかんないねー」
「まったくだね」
友達とそのような話をしていた宮藤。
「そういえば最近サーキット上がりだとかのスープラがいるって噂だけど、里奈はどうするの?」
「どうするって……前なら意気揚々と倒しにいったかもしれないけど、当分はハチロクとのバトルでお腹いっぱいだよ~」
「……そう言っておきながら1週間くらいしたら何事もなかったかのようになるんでしょ」
「今回はそんなことはないよ! 多分!」
「……多分って……」
「ぐぬぬ……」
それから数時間後、直登の家に向かう宮藤。
「ということで、その赤いスープラのことは……?」
「いやー、知らんな」
「ところでその顔……寝てるんですか……?」
「最近はな……調べごとが増えてあんまり寝れてないんだ」
「寝たほうがいいですって……そんなんじゃ瞳とのバトルもまともにできませんよ」
「まだすぐやるわけじゃないしいいいだろ」
「まったく……ムリしないでくださいよ」
「わかってるさ、赤いスープラもなんかわかったら伝える」
「ありがとうございます」
といい部屋を出ていく宮藤。
さらに2時間ほど経った頃、直登は気分転換にと赤いスープラのことを調査していた。
知っているという後輩と
「それでそのスープラの写真か……」
「そうです。サーキットでこんな速いのはいましたっけね……」
「心当たりは特に無いが……地方での活躍だったのかもしれない」
といいつつ、受け取った写真(写メ)を見る。
「これは……BOMEXあたりのリアバンパースポイラーか……スポイラー自体はTRDのっぽいが」
暗がりでもそれなりにエアロなどもわかってしまうくらいの写真をスマートフォンで撮れてしまうことに驚きつつ、後輩の話を聞く。
「フロントは写真を見ればわかりますが、おそらくボンネットはTRDの3000GTのやつかと、ナンバーはぶれてて細かいとこまでは……俺もそこまでは見れませんでした」
「ここまで十分だ。ありがとな」
といいつつ携帯をポケットにしまい、自分のマシンに乗り込む。
「直登先輩はこのスープラをどうするんですか?」
「目障りになってきたら迎え撃つだけだ。その前に俺の妹がどうにかしそうだがな」
BNR32を発進させる。
その後姿から出るオーラをみて、直登の後輩はあの兄妹が負けるわけがないと思わざる得なかった。
久しぶりのほぼ1ヶ月あけての投稿になってしまい申し訳ありません。
とりあえずライバルキャラの詳細設定が未定なので(オイ
無計画な作者ですみません。