41話「ニューマシン」
事故からそろそろ30分ほどでレッカー車が着た。
だが高城のところではないが、レッカー車がきた。
おそらく麓から離れているので仲間のところで頼んでくれたのだろう。
礼をいいつつ車載車の助手席に乗り、高城のショップへ向かう。
先程までヘッドライト無しでは走れなかったが、今はそれなりに明るくなっている。
だが昨日の雨の残りか曇でカンカン照りとはいかないようだ。
そしてショップへつくと、早朝から作業着の高城が現れた。
ハチロクが降ろされる。
「これは、また派手にやったね」
とサイドの傷を撫でながら言う。
瞳は黙りこくったまま、リフトで持ち上げられたハチロクをみる。
「まだちゃんとチェックしたわけじゃないけど、ボディは歪んでそうだね。ミッションも多分ブローしてる」
「……直すとしたら」
「正直にいうと、別のハチロクに駆動系統や使えるパーツを移植することになると思うよ。普通なら新しい別の車に乗り換えだけど……」
「そうですか……」
と言いながらハチロクを見上げる瞳の目には本人も知らずのうちに、水滴が浮かんできていた。
(もっと早く異常に気づいてやれば……)
負のスパイラルに陥りそうになりそうになった瞬間、外の駐車場から音が。
DC5がスライドさせながら侵入してくる。
「瞳ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
見事な跳躍、そして抱きつく。
おそらく身構えてなければそのまま一緒に吹っ飛んでいただろう。
*
俺はさっきまでの悲しさを忘れズルズル姉貴を引きずりながらショップの隅にある店舗へ向かう。
「いい加減離れろ……!」
「えー、暖かいのにー」
「今だと暑いわ!」
「えー、でも事故起こしたって聞いて心配なんだからぁ……」
「……ごめん」
「いいののよー、無事なんだし」
「わかったからいい加減手を離してくれない……?」
「まったくケチなんだからぁ……」
そういいつつ、いつの間にか目の前に置かれていたオレンジジュースを飲む。
こういうのじゃなくてもコーヒーとかでもいいんだけどなぁ……よく中学生とかに間違えられるけど。
「ところで、代車どうするの? ハチロクは下手したら廃車でしょ?」
「……とりあえずはみんな共用のS2000でいいよ」
うちのガレージの片隅にあるS2000、以前俺主導、というかメインで制作した車両だ。
今でもみんな共用のはずが、結局使わず俺がたまーに動かしてあげている。
「けどあれ、ほとんどサーキット用だからエアコン効いても足回りガチガチだしなぁ……」
だがあの灼熱地獄を回避できるなら……。
「ねぇ。どうせならあのS2000、みんなにお願いして瞳のにしたら?」
「えー、悪くはないけど……」
「あれからデチューンして公道でも乗れるようにすればいいじゃない、下手に新しい車引っ張ってくるよりは安上がりだと思うわよ」
仕方がない……簡単な工藤から話を回して……。
「もしもし?」
『瞳かー』
ブツッ
「どうしたの?」
「いや、突然名前呼び捨てにされてとっさに電話切っちゃって」
「?」
ダレニモユズレナイヨー♪
「はい、もしもし」
『なんで突然切っちゃうの!?』
「キモいから」
『もうお約束パターンすぎて飽きられちゃうんじゃないか!?』
「次からは別パターンも考えるよ」
『そういう問題か!? ……まぁいいや、ところで用は?』
事故とS2000に乗り換えたいということを伝えると。
『なに、そうなると横谷が座った後のシートを嗅いだりできななるじゃん、却下―――』
ブツッ
くそあの変態めが……おちおち車にも――。
「そうよ……S2000をメインにされたらこっそりシートの匂いを……私としたことが失策……!」
「あんたもかああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
細かいとこは省くが、他のメンバー意外とトントン拍子で進んだ。
決まったことと言えば、俺にS2000を譲るのと、工藤をあとでボコボコにすることだ。いろいろ腕がなる。
その後、このあとのハチロクについて話しあった結果、エンジンだけでも買取、あとは使えるパーツを外して処分、という方向になりそうだ。
「じゃあ、帰りましょうか」
と俺の手を引く姉貴。
「いや俺は電車で」
「大丈夫よ助手席開いてるし」
「いやいや俺は気分転換に外を歩いて」
「助手席が嫌ならトランクもあるわよ」
「……わ、わかったよ……」
嫌な予感しかしない。
「や、やっぱやめてええええええええ」
「大丈夫よ、きっとなにもしないわ!」
「鼻息荒く言うな!!」
*
数十分後、無事(?)に帰宅。
ぐったりする俺に姉貴は。
「じゃあS2000乗ってみるわね」
「なん……で……」
「なんとなくよ!」
「あ……うん……」
意気揚々と出ていった姉貴、俺はもう知らん。
それからしばらくして、ソファーで屍になっていると。
「た……ただいまぁ……」
姉貴も屍になっていた。
「な……なかなかエキサイティングな足回りね……」
ビクンビクンと腰を震わせる姉貴。
「だから言ったでしょ……サーキット用の足だからダメだって……」
それからしばし、宮藤が腹を空かせて俺らを起こしに来るまで二人揃って屍になっていた……。
*
数日後、結局ハチロクはボディは廃棄し、エンジンなどはおじさんのショップが買い取ることに。
駆動系はともかくエンジンは特殊なのであまり外部に持ち出したくないのだとか。
そしてその金を元にS2000をデチューン。
デチューンといえば、チューニングの逆の意味で、性能を下げるという意味なのだが、街乗りでの快適性を上げるためのチューニングといえばそうなる。
具体的にはサスペンションを純正に近い柔らかいのに、エアロをフロントは純正にリップスポイラーを付けて、さらにハードトップに交換してあとはフルノーマル。
排気関係も音量を落とす方向にし、クラッチなども街乗りを考え軽いのに……などなどして、一時期F20C改2.2リッターで300馬力近くあったのを270馬力まで落と
した。
パワーダウン=戦闘力低下と思うかもしれないけど、案外低速からのトルクが太くなって峠などではむしろ早い場合もある。
*
それから4日ほど経った日。
榛名山にて走るグランプリホワイトのマシン。
時にはスキール音も響かせ榛名山の登りを疾走している。
新しいマシンを得た横谷瞳は顔に笑みを浮かべながら走らせる。
(まさか、峠向けに少しリセッティングしただけでここまでよくなるなんて)
比較的コンパクトなFR、高回転型のエンジン。
(こいつなら……兄貴のNSXだって……!)
ストレートで3速5000回転から一気にアクセルを踏み込む。
そして約6000回転でVTECゾーンへ。
エンジンが変わったかのように加速していく。
(やっぱパワーは偉大だな……)
ハチロクは1.6リッターで強引に200馬力オーバーを出したものを、S2000は2,2リッターで悠々と270馬力超を出している、馬力はもちろんトルクも違う。
(コーナリングもいい、こんなにスッとノーズも入るしハチロクに比べて全体的な限界も高い)
S2000の速さに酔いしれながらアクセルを踏んでいるといつの間にか頂上の手前、登りでの最終コーナーに侵入していた。
*
頂上ではいつものメンバーが待ってくれていた。
「こうみると本当に見た目の相性いいよねー」
俺がS2000から降りてるとそう藤原が言った。
俺が念のために以上がないかと車の周りを見ていたら横川が。
「ところでもうこれでバトルはできるの?」
「まだ足回りが微妙なところだからちょっと無理かも。それに俺自身S2000に慣れてないし」
「普通ならともかく、タコはずっとハチロクだったしねー。慣れるには時間かかるかも」
「へー、けどあたしたちと絡んで走るくらいならいいでしょ?」
「マジバトルじゃなければね」
「それならセットアップいくか!」
と張り切る工藤、だが。
「その前に……」
「ん?」
「お前を成敗する必要があるだろおおおおおおおおおお!」
「おい、やめ!! そこは……うわあああああああああああああああ!!!」
久々の超高速投稿です。
前回より少し短めなんですけどね(汗
次回はNSXやBNR32に乗るあの人の出番です!