35話「今度こそ海だよ!」
二人とも限界での勝負だったのだろう、少し話したと思ったら杉村のほうは帰って行ってしまった。
工藤は俺らの車を駐車しているところに止めた。
過激な走行の後なので、エンジンは切らずにしてある。
「いや、我ながらよく勝てた」
と工藤。
「まったく、ヘアピンの直後抜いたって聞いたときはホント殴るか悩んだよ」
「どちらにせよ、勝てたんだからいいだろ」
「そうだけど、相手が俺の兄貴みたいにチート級なやつだったらどうするつもりだったの?」
「そのときはそのときだ」
そういう工藤に俺は思いっきり言って見ることに。
「工藤は頭に脳みそを詰め込んだら」
「そんなこと言うなよ、俺だってきっちり詰まってるよ」
と反論するも。
「「「「嘘つけ」」」」
と残りのメンバーに一蹴されるのだった。
*
早朝、曇り気味なせいで夏なのに少し肌寒い、そんな榛名山に高回転エンジンの音が響き渡る。
瞳のハチロクだ。
アップデートされた足回りもほぼ仕上がり、前よりも一段と早くなったはずなのだが。
(この前、工藤のランエボの助手席に乗ってからこうだ……今まで完璧に見えたハチロクがここまで遅く感じるとは)
だが瞳は走り始めて最初の1,2年を工藤とだけつるんで走っていただけである。
当時は工藤のランエボもⅣであり、さらに他に競う相手もほとんどいなかったためこのような不満はでてこなかったが、瞳の中ではある感情がくすぶり始めていた。
(このハチロクじゃ限界なのか……)
直登のNSXに負けてから気づき始めていた事実。
(だけど、俺にこのハチロク意外なにがあるっていうんだ!)
と思いながらアクセルを踏み込む瞳。
*
学生の夏休みといえば、課題の存在を気にしつつダラりと過ごすものだ。
ダラりと行っても華の女子高生(おそらく死語)ならばオシャレして出かけてりしそうなもの。
ということで。
「ねーねー、海いこうよ!」
と藤原がはしゃぐが、俺は。
「えー、潮風で車が錆びそうじゃんー」
ハチロクだって旧車なんだし。
「そんな古いの乗ってるのが悪いんじゃ……」
「対策するの大変なんだよ」
ある意味自分の肌より重大である。
「瞳ー、自分の日焼け止めよりハチロクのワックスを塗ってちゃだめよー」
と俺の心を見透かしたように姉貴。
「そ、そんなことするわけないよ」
「そうならいいのよー」
とニコニコしながらいう姉貴。正直怖いです。
部屋に戻って水着を探す。
行くからには楽しみたいのだ。
タンスの引き出しを引っ張り、奥のほうに手を突っ込む。
海にいこう会議をするちょっと前までエアコンをかけて部屋に篭っていたため、多少ながら衣類が冷えていて気持ちいい。
「あ、あった」
水着を引き出す。
一つ目は紺色が特徴的なスクール水着。
……………。
「こんなの着るか!!!」
確かに中学の頃、学校の水泳で使っていたのだからあっても仕方ない。
他のを探す。
すぐにそれらしき材質のを見つけ、引っ張り出す。
二つ目も紺色が特徴的な……。
「またか!!」
もう誰に突っ込んでいるのかもわからない。
まぁ予備で二枚持っていたしな……おかしくはない……はず。
その後十数分探して見つからず、引き出しを全部引っ張り出して大捜索した結果、スク水だけが5枚ほど見つかった。
「こんなの絶対おかしいよ」
といいつつ姉貴に俺の水着の場所を訪ねようと姉貴の部屋にいくと。
「…………」
「…………」
俺の水着を嗅いでいる姉貴がいた。
お互い目を合わせ、沈黙したまま時がすぎる。
意を決して声をかける。
「な、なにをしてるの?」
「く、腐ってないか嗅いで確かめてるだけよ、ふふふふふ」
「と、ところで、なんで俺たち棒読みなんだろうね」
「さ、さあ。なんででしょうね」
「はははははは」
「ふふふふふふ」
「なに人の水着取ってんだこのクソ姉貴ぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「な、なんでって、小さいからいらないかなって……」
「まだ着れるはずだああああ!!」
「瞳……そんなに成長を悲観しなくていいのよ……まだ望みは……」
「そんなこと一言も言っとらんわあああああああああああああああああああああああ!!」
「それに、代用でスク水たくさんいれてあったでしょ、それじゃダメなの?」
「余計にな!!」
「じゃあ着れるか試してみてよ」
「よしっ」
姉貴から水着を受け取る。
微妙に生温かいのが生々しい……。
この水着は中2のころ藤原たちに押し付けられ渋々買ったものだ。緑を基調にしたデザインで、一応ビキニタイプ(であってるのか?)のやつだ。
中2でこれって無茶したものだ……子供っぽいデザインだけど。
一応去年も着れたので今年も着れるはずだ。
脱衣シーンはカットさせてもらう。
男子諸君は残念だったな!
さて本題の水着だが……。
「下はいけたけど上が……」
「変わってないように見えて膨らんでいるのね」
と俺の胸をじーっと見つめる姉貴。そして。
「フッ」
「今鼻で笑ったよね!? ねぇ!」
「そんなこと……ぷぷぷぷ……ないわよ……ふふふふふ」
「絶対疑ってるよね!?」
「まぁ新しいの買わないとねぇ…ふふふふふふっ」
もうやだ、この姉。
*
数日後、海に向けて車列を作って走っているいつものメンバー+姉貴。
ん? 水着買うところ?
あれは大したことなく終わった。、どうせわーきゃー騒いで終わっただけだし。
しかしながら、ハチロクも旧車、エアコンの効きが悪い。というか、エアコン関係のパーツが壊れる寸前なのだ。
この前応急処置で小型の扇風機をつけたのだが、それも壊れてしまっている。
不幸だああああああああ、と叫ばして欲しいものだ……。
着替えるのだから面倒だとTシャツの下に水着をそのまま着てきたが……
残りのメンツは……きっと涼しい車内なんだろうなぁ……。
いかんいかん、考えにまとまりがなくなってきた。
本気でS2000でくればよかった。ちょっとエアロ派手なのが嫌なのだが。
などとウダウダ考えていたところ、俺の頭に妙案が。
こ、これならこの状況を切り抜けられる……!
フハハハハハハハハ、もうキャラが崩壊しているがどうでもいい、フハハハハハハハハハハッー!
*
その頃、瞳以外のメンツは。
工藤は。
「きっとアイツは暑いんだろうなぁー。エスニでくればよかったのに」
斎藤は。
「旧車だとエアコンの効きが悪いんだろうな、想像もしたくない」
横川は。
「いくら気に入っていても実用性がないとねぇ……どこまでこだわるんだか」
涼宮は。
「タコ、私のFZに同乗したほうがよかった気がするんだけどなぁ……」
藤原は。
「だからS2000にすればよかったのに」
香織は。
「一緒に乗れば別の意味で熱い車内になったのにぃ……」
*
無事に海に到着。
「タコー? 死んでないよね?」
と藤原が寄ってきたのとほぼ同時に、若干フラフラしながら車から降りる。
「これならエスニのがよかったよ」
と言いつつ降りると。
「な、ななななにしてるの!?」
「なにって、水着になっただけだよ」
「い、いつのまに着替えたの…?」
「さっき。ちょうど信号待ちのときにTシャツを短パン脱いだだけだし」
「近くで信号待ちしてた人びっくりしただろうね……」
「それすら気にならないほど熱くなってたんだよ!」
「威張られても……」
藤原と砂浜に移動して他のメンバーを探す。
男性陣はどうやら場所をとって、早速ビーチにパラソルやらを立てているようだ。
「あれ、姉貴は?」
さすがにシスコンではないが気になる。
ん、姉貴の様子が……。
「はぁはぁ……瞳の汗が染み込んだTシャツ……はぁはぁ……」
見なかったことにしよう。
数分後、全員水着姿になった俺ら一行。
そしてすぐ海にきたことを後悔した。
どうせ同じ貧乳でも横川とは違いますよ。あっちはスラっとしてて身長高くて……俺なんてチビなロリ体型ですよ……。
「瞳ー?」
「タコー?」
わーい、すなのおやまだー。
「大丈夫よ、瞳」
こんどはおしろだー。
「大丈夫だよー、タコにだって胸あるじゃない」
……。
「そんなおっぱいをぷるんぷるんさせながら言ってくるなああああああああああああああああああああああああ!!」
海はつらい。
「大丈夫だぞ、横谷」
と工藤。
「うんはいわかったよ」
「おい、まだなにも言ってないぞ」
「どうせ『貧乳な横谷も可愛い!』みたいなこと言うんだろ?」
「そんなことがわかるなんて……そこまで心が通じ合っていたのか……」
「違うわ!!!」
「そんな照れなくてもいいんだぞ」
「お前が単細胞だからなにをいうかわかるだけだからな!!」
「単細胞? ミジンコと同等と言いたいのか……?」
「ミジコン以下だろ」
斎藤のナイスツッコミ。
「おい斎藤、俺がそこまでボケてるように見えるのか!」
「それ以外はないだろ」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
あーあ、どっか行っちゃった。
「ねーねー、バカやってないで手伝ってよー」
と浮き輪などをふくらませている横川。
こいつはマイペースだなぁ。
そしてその後、ビーチボールを全力で工藤に投げつけたり、浮き輪を奪って海に突き落としたり。
他は、まぁ姉貴が抱きついてきたり、藤原と泳ぎで勝負して溺れかけたり、涼宮の胸に突っ込んで泣いたり、ビーチボールで横川に遊ばれたり、それなりに楽しんだ。
そして日も暮れ、帰ることにしたのだった。
なんとか投稿できました。
なぜか書いているうちにこんなネタ&お色気(?)回に。
次回からは次のライバルが出てきますよ。
瞳は貧乳でもムチムチ太ももがいいんだよ!(ぁ